目次
1.出産育児一時金とは
健康保険加入者の出産に対する給付金
出産育児一時金とは、公的医療保険に加入している人、またはその被扶養者が出産した際に支給される給付金のことです。会社の健康保険や国民健康保険など、いずれの公的医療保険でも支給され、出産にかかる経済的負担の軽減を目的としています。
対象者は被保険者またはその家族
出産育児一時金が受け取れるのは、妊娠4ヶ月(妊娠22週・85日)以上で出産をした健康保険(公的医療保険)の被保険者、またはその家族(被扶養者)です。妊娠4ヶ月以上であれば、死産、流産、人工妊娠中絶も対象となります。
また、退職により被保険者ではなくなった人も、1年以上継続して勤務していた場合に限り、退職後6ヶ月以内であれば加入していた保険組合から出産育児一時金が支給されます。退職から6ヶ月以上経過し就労していない場合は、国民健康保険または扶養者の保険組合に申請することで受給できます。
出産手当金との違い
出産育児一時金が、出産による経済的負担軽減を目的とした給付金であるのに対し、出産手当金は出産を理由に仕事を休んだ期間の生活を補償するための手当です。出産日の42日前から産後56日までの期間に仕事を休んだ被保険者が対象のため、配偶者などの被扶養者は対象外となっています。
出産手当金の支給額は健康保険の加入期間によって異なります。
- 被保険者期間が1年以上…毎月の給料の2/3
- 被保険者期間が1年未満…下記のいずれか金額が低いほう
- 直近の継続した各月の標準月額平均額
- 加入している健康保険の標準月額平均額
2.出産育児一時金はいくら?
支給金額は最高50万円
出産育児一時金は、2023年4月にそれまでの上限42万円から50万円に引き上げられました。ただし、妊娠週数や医療機関が産科医療補償制度*に加入しているかどうかで金額が異なります。なお、多胎児の場合は子どもの人数分が支給されます。
*医療機関や助産施設での出産において、万が一乳児が重度の脳性まひとなった場合に、家庭の経済的負担を補償する制度
支給額 | ||
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産科医療補償制度に加入している医療機関 | 妊娠週数22週以降に出産した場合 | 50万円/1児 | 妊娠週数22週未満で出産した場合 | 48.8万円/1児 |
産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産した場合 | 48.8万円/1児 |
出産費用に差額が出た場合
出産にかかった費用が、出産育児一時金の額を上回る場合もあれば、下回る場合もあります。実際にかかった費用が一時金より多い場合は精算時に超過分を支払い、少ない場合は、後日差額分が保険組合から支給されます。
なお、厚生労働省の調査によると、2023年の平均出産費用は50.3万円でした。この金額には差額ベッド代や祝い膳などの医療外費用は含まれていません。
出産にかかる費用は地域や医療機関ごとに異なります。下記のサイトでは地域やサービスの条件を設定することで、分娩を扱う施設を検索できるほか、おおよその費用が把握できます。
厚生労働省|出産なび
医療費控除からは差し引く
出産にかかった医療費の一部は、医療費控除の対象となります。ただし、出産育児一時金を受け取る場合はその分を差し引いて申請する必要があります。医療費控除とは、税金の一部が戻ってくる仕組みです。1年間にかかった医療費が10万円を超えた場合に、超過分が本人または配偶者の課税所得から差し引かれます。
医療費控除の対象となる金額の計算式
医療費控除対象額 = 実際にかかった出産費用 – 出産育児一時金 – 10万円
出産費用が65万円だった場合の計算例
65万円(出産費用) – 50万円(出産育児一時金) – 10万円 = 5万円(医療費控除対象額)
なお出産にかかった費用には、医療費控除の対象になるものとならないものがあります。
出産関連費用で医療費控除の対象になるもの
- 定期健診
- 通院・入院時の交通費(公共交通機関が使えない場合のタクシー代含む)
- 入院費用
- 入院中の食事代
出産関連費用で医療費控除の対象にならないもの
- 差額ベッド代
- 里帰り出産のための交通費
- 入院時の洗面具やパジャマ など
3.出産育児一時金を受け取るには
支給方法の種類と申請時期
出産育児一時金の支給方法は3種類あります。
直接支払制度
保険組合から病院などに一時金が直接支払われる仕組みです。制度を利用することで、出産時にまとまった金額を準備せずに済みます。被保険者は、実際にかかった金額が一時金を上回った場合のみ、病院の窓口で不足分を支払います。申請時期は、出産予定月や入院手続き時など医療機関によって異なります。
受取代理制度
被保険者が請求手続きをおこない、医療機関や施設が一時金を受け取る仕組みです。比較的小規模な医療機関が受取代理制度の対象となっているため、利用可能かどうかは事前に確認しましょう。受取代理制度の場合、出産予定日の2ヶ月前から申請可能です。
直接申請
被保険者が出産にかかる費用を全額支払い、後日保険組合に請求する方法で、海外で出産する人などに適しています。直接申請の場合は、出産翌日から2年以内に保険組合に申請する必要があります。
申請の流れ

出産育児一時金を申請するには、まず出産予定の医療機関などで「直接支払制度」または「受取代理制度」が利用できるかを確認します。
直接支払制度を利用する場合は、制度を利用する旨の合意書を交わします。受取代理制度を利用する場合は、被保険者から保険組合に「出産一時金支給申請書(受取代理用)」の提出が必要です。また、受取代理制度を利用しない(直接申請する)場合でも、医療機関と「受取代理制度を利用しない」旨の合意書を交わす必要があります。
直接申請の場合は、出産後に下記の書類を揃えて保険組合に申請します。
- 出産育児一時金支給申請書
- 出生届受理証明書など出産の事実を証明する書類
- 医療機関との非合意書の原本
- 医療機関が発行した出産費用の領収書のコピー
4.出産育児一時金に関するよくある質問と回答
Q.出産育児一時金が50万円になったのはいつから?
A.2023年4月から、出産育児一時金の上限額がそれまでの42万円から50万円に引き上げられました。妊娠週数22週未満での出産や医療機関が産科医療補償制度に未加入の場合は48.8万円が支給されます。
Q.出産育児一時金のもらい方は?
A.出産育児一時金をもらう方法は3種類あります。1つ目が、保険組合から医療機関に出産費用を支払う直接支払制度です。この場合、出産予定の医療機関と合意を交わすことで被保険者から保険組合に申請することなく一時金がもらえます。
2つ目が、被保険者が出産育児一時金を保険組合に申請し、医療機関が一時金を受け取る受取代理制度です。この場合、出産予定日の2ヶ月前に保険組合に申請することでもらえます。
そして3つ目が、出産費用を全額自身で立て替え、後日申請する直接申請です。この場合、出産翌日から2年以内に保険組合に出産育児一時金申請書と必要書類を提出することでもらえます。
Q.出産育児一時金が余ったら?
A.実際にかかった費用が出産育児一時金の支給額を下回った場合、差額が2〜3ヶ月後に支給されます。直接支払制度、受取代理制度ともに被保険者から保険組合への申請は不要です。
参考
厚生労働省|出産育児一時金の支給額・支払方法について