1.話を伺ったのは、看護師歴14年目のNさん

2.訪問看護の仕事内容

──まず最初に、Nさんの勤め先について教えてください。
都内を中心に訪問看護・リハビリ事業所を30ヶ所ほど運営している会社です。
私が勤めている訪問看護ステーションは、看護師7人、理学療法士4人、作業療法士1人、事務1人の13人体制です。
訪問看護ステーションは、ターミナルケアが得意だったり重度障がいの方に強かったりとそれぞれ特色があるんですが、うちの場合はリハビリに強みを持ったステーションです。
──患者さんはどういう方が多いですか?
ほとんどが高齢者で、80歳以上が多いです。介護度でいうと、リハビリにも取り組みやすい要介護2・3の方が中心ですね。若い方や小児の患者さんは事業所全体でも5人くらいしかいません。
訪問先はご自宅がほとんどで、施設の患者さんは私の担当では1人だけですね。
──利用される主な目的と、訪問頻度は?
訪問入浴サービスを使わずにご自宅のお風呂に入れるくらいのADL(日常生活動作)の患者さんたちなので、入浴介助や見守りでの利用が多いです。あとは服薬管理、排便や血糖のコントロール、スキントラブルに対する処置などです。
頻度でいうと、週2、3回の訪問が多いかな。
──入浴介助や見守りというと、ヘルパーさんに依頼するイメージがありました。
入浴すると血圧変動が大きいので、脳梗塞など血管系疾患の方はリスクが高いんですよね。入浴前後でバイタルをチェックして、なにか変化があったら対応できないといけないので。
リスクの低い方だとヘルパーさんが入ることもあるんですけど、服薬管理はヘルパーさんにはできないので、薬のセットまで含めて看護師が対応するってことが多いですね。
それから要介護2・3の方だと転倒や物にぶつかることも起こりやすいので、全身状態を診るためにも看護師が行くという感じです。
──なるほど。では、訪問看護の一日のスケジュールを教えてもらえますか?

こんな感じでしょうか。一日の訪問件数は5、6件程度で、1ヶ月で110件くらいですね。他社さんだと月に80〜100件くらいのところが多いみたいです。
移動には会社支給の電動自転車を使っていて、近いところで片道5分、遠くて片道20分くらいですね。都内は駐車できる場所が少ないので、車よりも電動自転車を使っている事業所が多いと思いますよ。
──お昼はあまりゆっくりと休憩できなさそうですね。
そうですね。訪問中に届いた連絡のチェックも必要ですし、普段出払っているスタッフが集まるとついつい話し込んで、ちょっとしたカンファレンス状態になることもザラです(笑)。とくに同じお宅を担当しているリハビリスタッフとの情報共有が多いですね。
私はできるだけ残業せずに定時で帰りたいので、書類作成などの事務作業は休憩も使って進めたいタイプで。中には訪問から帰ってきたあとにじっくり作業するスタッフもいますよ。
──訪問先での流れについて、時系列で教えてもらえますか?
到着したらまずご挨拶して手を洗いますね。そうしたら患者さんの体温や血圧を測りながら、「今週どうでしたか?」みたいにお話しながら体調を確認します。
そのあと一緒にお薬カレンダーをセット。一包化された薬に1週間分の日付を書いていってもらいます。リハビリになりますし、服用する薬をご自身で確認する意味もあります。
そこから入浴介助に入ることが多いです。ADLを落とさないためにも、できるだけご自分でやってもらって看護師は見守りでつく感じですね。お手伝いが必要な場合は部分的に介助に入ります。入浴後はまた血圧が下がってないかチェックして、皮膚の状態なども確認します。
ここまででだいたい1時間ですね! もし5分でも時間が余ったら、私の場合はご家族も巻き込んで脳トレをやることが多いです。トランプのババ抜きをしたり、膨らませた風船を使って軽く運動したり、YouTubeで曲をかけて一緒に歌ったりとかですね。
──たった5分でも! 患者さんやご家族から喜ばれそうですね。
介護が必要になって自宅で過ごす時間が長くなると、ご家族以外の人と話す機会ってどうしても減るじゃないですか。だから少しでもそういう時間を増やせたらいいなって思ってます。
最初のうちは話が長引いてしまって、訪問時間が過ぎてしまうこともよくありました(笑)。慣れてくると話の軌道修正ができるようになって、時間内に終えられるようになってきましたね。
──訪問後の記録作業は、どうしていますか?
紙のカルテとアプリを併用しています。アプリはFacebookが運営している「Workplace」というもので、社内連絡ツールとして、患者さんの状態の共有や、急な欠員時のスタッフ調整などに使っています。
訪問看護の計画書や報告書の作成にはパソコンも使います。先生(医師)やケアマネさんなど送る相手に合わせて、FAXやメールを使い分けてます。
──なるほど。ちなみに、オンコールに対応することもあるんでしょうか。
ありますよ。ただオンコール対応は少なくても月に5、6回っていう事業所が多いと思うんですけど、うちの会社は全事業所のローテーションで担当しているので、3ヶ月に1回くらいで済んでます。
担当の日は自宅での待機じゃなくて、会社が用意した「夜勤部屋」で待機していて、オンコールがあったら対応するような形ですね。
──夜勤が少なく済むのは嬉しいですね。訪問時の服装は、制服ですか?
制服です。上は七分袖の白いワイシャツで、下は動きやすいようにパンツスタイルですね。
他社さんだとスクラブとかポロシャツのところが多いらしいので、ワイシャツは珍しいかも。うちの会社は訪問途中でケアマネさんのところへ行くことも多いので、営業らしくキチンと感を出すためみたいです。
──訪問時の持ち物を教えてください。
2年使い込んでてあんまり綺麗じゃないんですけど……これが訪問ポーチの中身です。

訪問看護師の持ち物
<状態観察をする道具>
聴診器、体温計、血圧計、パルスオキシメーター、ペンライト、メジャー
<検査や処置をする道具>
採血セット、駆血帯、チューブ鉗子、アルコール綿、医療用テープ、点滴セット、ビニール手袋、ガーゼ、包帯、爪切り、耳かき、綿棒、ピンセット、はさみ、消毒液、ワセリン、ラップ、ゴミ袋
<その他>
脳トレ用のトランプ・風船・おもちゃ類、マジック・ペン、セロテープ、付箋、ハンドソープ、紙タオル、スリッパ、スマートフォン、説明用資料、看護関連書籍、N95マスク*
*新型コロナウイルスの感染対策のため
3.訪問看護と他職種の連携
──医師やケアマネジャーさんなど、他職種との連携はどのくらい発生しますか?
看護師は医師の指示のもと動くので、診療内容が変わったときなどは確認のために先生に電話しますね。クリニックなどの小規模なところなら直接先生と電話できますが、大学病院などになると直接電話はできないので、病院の看護師を介する形になります。
あとは日に日に容態が変わるような末期の患者さんの場合は、先生と密に連絡を取り合うこともあります。患者さんやご家族は、先生に対してなかなか本音を打ち明けられない方も多いので、私たち看護師が患者さん・ご家族と先生の間を取り持つことも大切です。
医師の訪問診療と訪問看護は算定上同時に行けないんですが、患者さんのことを考えて、タダ働きでも同行訪問することもありますよ。
──そうなんですね。ケアマネジャーさんの場合はどうですか?
少なくとも月1回は必ず連絡をとりますし、訪問の合間に空いた時間があればケアマネさんの事業所に行って情報共有することも多いですね。ケアマネさんがこまめな連絡を好む方だったり、容態の変化が激しい患者さんを担当されていたりすると、毎週の訪問帰りに寄ることもあります。
訪問看護は基本的にケアマネさんから依頼を受けて仕事になるので、サービスを提供する以上、営業的な観点も結構大切になります。
……なんですけど、訪問看護ってケアマネさんからすると、“使いどころがわかりづらい”サービスなんですよね。
──「使いどころがわかりづらい」? どういうことですか?
訪問リハビリや訪問入浴のように目的がはっきりしていないし、訪問介護よりも料金が高い。なんでもできる分、なにを頼んだらいいのかわからないってなりやすいんです。
看護師は、患者さんになにか問題が起きないよう「予防」に力を入れたいですけど、起きていないから実際どうなるかはわからない。そうすると「訪問看護の算定を取りたいだけなんじゃ」とも思われかねないんですよ。だから患者さんの状態説明や看護の必要性を丁寧に伝えて、信頼関係を築いていくことがすごく重要なんです。
──訪問看護がそのような立ち位置にあるとは意外でした。在宅医療の中心のように思っていたので。
そうですよね。私も自分たちで仕事を取ってくる体制に最初は驚きました。病院勤務だと、営業なんて考えはまったくありませんでしたから。
スタッフの中にも、営業が得意でバリバリ仕事を取ってくる看護師もいますよ。私は苦手なんですけど(笑)。
──同僚のリハビリ職の方との連携は、どんなやり取りがありますか?
お互いの専門分野が違うので、看護の知識でわからない疑問をリハ職の方に聞いたら即答してもらえて助かった、みたいなことは多いですよ。もちろん逆もありますし。
訪問診療と同じで、リハビリも看護と一緒には入れませんけど、時々どんなリハビリをしているか知るために同行することもあります。「今はこんな内容のリハビリをしていて、こうやってADLを上げているのか」って感じですね。
こういった多職種連携が取りやすいのは、同じ事業所で働いているからこそですね。
──居宅サービスを受けながら在宅生活を送るうえで、関係者が集まって話し合うサービス担当者会議などに参加することはありますか?
サービス担当者会議は患者さんの自宅で開催されるので、担当看護師として参加しますね。ただ最近は、新型コロナウイルスの影響であまり実施されていませんが……。
退院前カンファレンスは病院で開催されるので、うちの会社の場合は管理者が参加することが多いです。
地域連携会という居宅介護支援事業所や訪問看護ステーションなどが主催でおこなう勉強会兼交流会も月に数回開催されていましたが、最近はコロナでなかなかできていません。内容としては、座学中心の勉強会や、ディスカッションも含んだ症例検討会などです。
4.訪問看護師として働くということ
──気になる待遇面についても聞きたいのですが、現在の給与はどのくらいですか?
先月は手取りで34万円くらいだったかな? 見込み残業代と、先月は夜勤も1回あったのでその手当込みの金額です。うちの会社は夜勤が少ないですけど、そのわりに給料は高いほうだと思います。
ボーナスについては、毎月の規定の訪問件数を越えた分がインセンティブになる歩合制をとっています。前回のボーナスは月給の1.5ヶ月分くらい支給されたかな。手取り年収に換算すると、500万円強くらいですね。
──相場からするとだいぶ好条件ですね。では、ここからNさんご自身の話についても教えてください。病院・訪問入浴を経て、訪問看護の道に進んだのはなぜですか?
新卒で入った緩和ケア科では、退院して自宅で過ごす希望を持った方が多かったので、次第に在宅看護に興味を持つようになりました。でも同時に、死に向かっていく患者さんと接し続けることに疲れてきていたので、派遣やバイトから訪問入浴の仕事を始めるようになったんです。
訪問入浴の仕事は、患者さんやご家族に喜んでもらえてお礼を言われることも多く、すごく楽しかったですね。病院と副業していた期間も含めて訪問入浴を8年間続けましたが、体力的に結構ハードだったので、訪問看護に移行したという感じです。
──病院時代と訪問看護を比べて、違いを感じるところはありますか?
そうですねー……。訪問看護で一番大切で、そして一番怖いと思うことは、患者さんを24時間看る責任ですね。病院だと患者さんに急変があっても、誰かが気づいてすぐ駆けつけられます。でも訪問看護は自分が帰ったあとの患者さんのことまで考えておく必要があるんです。
例えば体調が優れない患者さんに対応するとき。訪問時のバイタルに問題がなかったとしても、そのあと体調が悪化する可能性を考えて、ご家族やヘルパーさんにも連絡を入れておくなどの先回りが必要です。
初めのうちは最低限やるべきことをこなすのに精一杯で、そこまで気が回りませんでした。事業所で先輩に指摘されて気づいて、同じお宅に二度訪れるなんてこともありましたから(笑)。
──病院とはまた違った難しさがあるんですね。
訪問看護の難しさとやりがいは表裏一体かもしれませんね。病院で患者さんひとりに1時間かけて看ることはまずありませんから。
一人ひとりとしっかり向き合う分、それに伴う責任があって、その責任感がやりがいになるんだと思います。
私のシフトは月曜から金曜勤務なんですけど、金曜の夜が一番嬉しくて。月曜から金曜まで誰ひとり不幸なことがなく、患者さんみんなが元気に過ごせたあとの週末は「良かった……!」っていつも噛み締めてます。
──患者さんとの距離が近い分だけ、気持ちも入りますね……。Nさんは今後も訪問看護師を続ける予定ですか?
実は今の職場を退職された先輩方が新しく訪問看護ステーションを立ち上げようとしていて、そのメンバーに誘われてるんです。とても立派な先輩方で、今の私じゃまだまだ追いつけないので、もっと力をつけなきゃと思っているところで。
訪問看護師としてステップアップするために、日本医療リンパドレナージ協会が主催している医療リンパドレナージセラピストという資格取得を考えています。この資格があると、リンパ浮腫治療のためのマッサージができるようになるんです。今後1年間くらいは今の仕事を続けながら、リンパ浮腫の勉強をしていくつもりです。
──では最後に、訪問看護に興味のある方へのメッセージをお願いします!
訪問看護は楽しいですよ! 看護師としても人としても成長できると思います。高いレベルの医療的ケアを要求されることも、業務外の家政婦のような役割を要求されることもあって、オールマイティーな仕事です。
看護の知識だけじゃなく、営業やコミュニケーション能力などいろいろなことが求められるので、そういったことを楽しんで取り組める人なら、挑戦しがいのある仕事だと思います!