【コロナ禍インタビュー】介護職(特養副施設長)40歳 男性の場合

新型コロナウイルスの流行が医療や福祉、美容関係の仕事に就いている方にどのような影響を与えているのか、当事者の声を聞くインタビュー企画。今回話を伺ったのは、介護職として20年以上のキャリアを持ち、現在は特別養護老人ホームの副施設長を務める男性です。

インタビュー コロナ禍が変えたコト 40歳 男性 介護職(特養副施設長)

話を伺ったのは、特養の副施設長を務める後藤晴紀さん

介護職(特養副施設長)後藤さんの経歴

今回話を伺ったのは、広域型の特別養護老人ホーム(以下、特養)で副施設長を務めている後藤晴紀さん。介護には専門職としての知識と技術が不可欠との思いから、『けあぷろかれっじ』を設立し、教育活動にも力を入れています。

介護保険制度がスタートした2000年から一貫して介護の仕事に携わり、「介護は究極のサービス業」と言い切る後藤さんはコロナ禍でどのようなことを感じたのでしょうか?

感染予防対策と経営への影響

──現在の勤務先の特養について教えてください。

従来型・ユニット型併設の広域型特養です。ご入居者の平均要介護度は4.0〜4.2ポイントで、平均年齢は83〜85歳くらいです。

──それでは昨年(2020年)の2月以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってどのような対応をしていたのか教えてください。

危機感が高まったのは2月にクルーズ船が横浜港に入港したときからです。事業所が東京にあるので、神奈川で起きたことは他人事ではありませんでした。まずは出入口の消毒剤の用意や手洗い、うがいといった標準予防対策をしっかり履行していこうと。それから当時はまだ「新型ウイルス? 何それ?」ってよくわからない状態だったので、医療従事者に新型コロナウイルスに関する情報収集をお願いするところから始めました。

4月に緊急事態宣言が発令されてからバッと変わりましたね。まずは業者さんの出入りが制限されました。荷物の引き渡しは基本的に施設外でおこなって、業者さんは風除室にも入れない形に──とくに排泄物や医療廃棄物については回収場所を裏口に作って、そこから勝手に回収してもらう形にしました。それから会議体はすべてオンラインに切り替えご家族の面会も中止に。スタッフは入退勤のときに必ず検温して数字を記録。あとは1日2回、午前と午後に次亜塩素系の殺菌剤で全フロアを消毒しました。これは今でもずっと継続しています。

*風・雨・雪などの吹き込みを防ぐために建物の入口前に設置される小部屋。

──最初は混乱、負担もあったかと思いますが……。

負担は半端じゃなかったです。とくに午前と午後の消毒作業については(消毒漏れのないよう)ドアノブ、手すり、トイレ、居室、床と消毒箇所を決めて対応していたので、スタッフ1人がそれにかかりきりになってしまうという環境で、利用者さんと関わる時間が明らかに減りました

──経営面ではどのような影響がありましたか? これらの対応のためのコストがかなり増えたと思うのですが。

そのとおりです。機材の購入であったりとか、消毒剤、マスク、手袋、ガウン、これらは常時着用しているので量が普段の比ではありません。

入所前にはご本人の状態を確認するために面接が必要なのですが、病院に入ることができず、入所が遅れてしまうことがありました。付近の老健でクラスターが発生したときには、2ヶ月ほど面接に行けなくなりましたし。スムーズに入所していただくのが難しかったです。

それから、ショートステイもストップしている状況です。

──特養のショートステイって常に埋まっている印象があるのですが……。

ゼロです。

──行政からのなにかしらの支援はありましたか?

独立行政法人の福祉医療機構がおこなっている融資って形ではありますけど、ショートステイを受け入れられなくなった減収分に対する補填ではありませんね。

*独立行政法人 福祉医療機構が実施している福祉貸付事業のこと。新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減少した施設に対しては、新型コロナウイルス対応支援資金の名目で特別融資をおこなっている。新型コロナウイルス対応支援資金については使途が人件費と経費に限定されている(参考:独立行政法人 福祉医療機構)。

──その融資はどのような仕組みになっているんですか?

通常の融資枠とコロナ対応の融資枠があって融資条件や資金の使途が違うので、どちらでいくら申請して……ということを決めなくてはいけないんですね。その申請もまあまあ書類が山のようにあって(笑)。

──書類を作成して申請してから実際に資金が振り込まれるまでにどのくらい時間がかかるんですか?

早ければ翌月には。2ヶ月かかることもありますが、半年まではかかりませんね。

福祉医療機構からは今回以外に施設を設立する際にも借入をおこなっているので返済のことも考えなくてはいけませんし、将来的に大規模修繕で数億円のお金が必要になるので、しっかり利益を残していかないといけないんです。そういった意味でこのような状況が長期化するのは非常に厳しいと感じています。

特養副施設長 後藤さん インタビューカット
経営を継続していくためには未来に向けてお金を残していかなくてはならない

──ワクチンの接種についてはどうでしょうか?

非常にスムーズに進んで、ご利用者もスタッフも6月中に2回接種が終わっています。嘱託医が必要な量のワクチンを確保してくれていたところが大きいですね。

──それでは、正常化に向けてはどのようなイメージを描いていますか?

計画は描いていますが、まだ正常化のフェーズではないと思ってます。少なくとも東京都、首都圏、関東の生活が元に戻らない限りは……。高齢者の免疫力やワクチン効果の程度から考えても、判断をするのは世の中の情勢を見ながら一番最後でいいのかなと思っています。ご家族と会えない状態が続くことに関しては、すごく申し訳ないですけれども……。

スタッフと共に瞬間最大風速をしのぐ

──特養の場合、介護度の高い方が多いので、とくに感染リスクの高い状況でスタッフは働いていたと思います。その辺の不安を軽減するためにやっていたことはありますか?

まずスタッフ全員に過度に煽らないようお願いしました。例えば、発熱したスタッフがいたときに「コロナじゃない?」って噂話をしたら最終的にどうなるのか。そのスタッフをどれだけ傷つけるのか、ご利用者やご家族をどれだけ不安にさせるのか。

そこから「そうならないために感染症や感染予防に関する正しい知識を得ましょう」と呼びかけました。飛沫感染を防ぐためにできることと言えば標準予防対策の徹底しかないんですよね。マスク着用、手洗いうがい、消毒の徹底をする。それに加えて業務外で県をまたぐ移動はしないでくださいねって、要するにプライベートでの行動まで制限をお願いしなければならないので……。

なので「仮に新型コロナウイルスに感染してしまったら、その本人とみんなの生活がどう変わるのか」ということについても話しました。最初に感染したスタッフは仕事を辞めざるを得ないような精神状態に追い込まれてしまうかもしれない。風評被害でご利用者が集まらなくなるかもしれない。個人だけでなく組織的な、社会的な規模で影響がある。だから今はとにかく感染しないことが最優先事項になることをその段階で共有しました。

「『煽らない』って言ってるくせに煽ってるじゃないか」って言われるかもしれないんですが、結果を予測できなかったり「大丈夫でしょ」って軽く考えてしまったりするスタッフもいるかもしれないと思ったので、「こうなりかねないよね」って具体的に例を挙げて説明することで、結果に対して責任感や当事者意識を持てるように働きかけをしていました

──これから起こりうることをあらかじめ伝えて、そうならないために、あるいはそうなってしまったときに冷静に行動できるように必要な知識を共有していった、という感じでしょうか。

そうですね。なのでシミュレーションもしておかないといけないんですよね。現場のリーダーたちと看護職員と一緒にご利用者に感染者が出た場合の勤務表を作りました

ゾーニングしてそこに専任のスタッフを日勤、夜勤で配置していくと、リーダーたちは「無理です」って言うんですよね。だから「わかった、じゃあ俺公休2日で、毎日夜勤にしていいから」って言うと「だめですよ!死んじゃいますよ!」って反応が返って来るんですよ。

「でもそうしないといけない。(自分は管理監督者なので)労働基準法上、労働時間の制限も受けないし、まず優先すべきことは利用者の命を守ることだから。看護師さんとかお医者さんとか医療に携わる人はもう既にこれやってるんだよ。やらないといけないんだよ」って言って、勤務表を作りました。シミュレーションすることで「標準予防対策ちゃんとしよう」って意識は高まりました

特養副施設長 後藤さん インタビューカット
この1年半はノロウイルス、インフルエンザの感染者を一人も出していないという

──利用者・スタッフにコロナウイルスに感染した方、感染の疑いのあった方は出ましたか?

幸いにも利用者にはいませんでした。ただ、スタッフの中に何名か発熱者が出ました。熱がある場合は必ず病院でPCR検査を受けさせるんですが、結果が出るまでは出勤できないんですよ。今でこそ当日・翌日には結果が出ますが、当時は5日間くらいかかったので、その間は当然出勤停止にして、勤務表組み替えてって対応をしていましたね。

──それが1年以上続いているってなると疲弊しませんか? それとも慣れるものなんでしょうか?

うちの場合は慣れましたね。やるべきことが習慣化されて、意識しなくてもできている状態になっているんだと思います。もちろん2ヶ月に1回くらいしんどそうにしているスタッフがいる。ただし疲弊って瞬間瞬間なんですよね瞬間的に強い風が吹くことがある。それも業務以外の生活全般に関するストレスで削られているように感じました。

──外部の方と会えなかったり?

仕事のストレスを発散する場がないじゃないですか。趣味がアウトドア系の人がいきなりステイホームで読書をするかっていうと……。なので、ストレスをどうコントロールするのかということにスタッフは非常に苦労したんじゃないかなと思います。

──なるほど。仕事以外のことと言えば、小さなお子さんのいる家庭は保育園や学校閉鎖の影響があったのではないでしょうか?

結構ありました。介護職の中には子どものいる女性──個人的な印象なんですけどシングル(一人親)の方も多くて。「休校の間は家に居させてほしい」というスタッフは正職員にもいましたね。さすがに小学校の低学年までは(家に一人残すのは)厳しいので、休ませることにしました。

でも、それが今でもずっと続いているかというとそうではないので。結果的に翌月には学校が再開されましたが、「このスタッフを1ヶ月間休ませる」と判断した時点では「来月もかもしれない」という不安はありました。学校が再開されて「よかった」って徐々に落ち着いてきたかと思うと翌月また違うことが起きて──という繰り返し。さっき言ったように、瞬間的に風が強くなる感じです。

──来るボール来るボールをとにかく打ち返さないといけないんですね。

そうです。そこでいいバッターになれるかどうかがすごく大事なところで、打ち返せずにボコボコにされてたらスタッフも自分もしんどくなるので、そこはしっかり締めていたところです。

特養副施設長 後藤さん インタビューカット
現場を取り仕切る責任者としてなにかしらの判断を下し続けなければならない

苦渋の決断、看取りの停止

──特養となると看取りの場になることも多いと思います。家族との面会は中止していたとのことでしたが、看取りにはどのように影響したのでしょうか?

うちの事業所ではお看取りを停止してしまったんです。そういった状態になったら病院に入院していただくという対応に切り替えてしまったので……。特別養護老人ホームとして看取りの機能を賄って差し上げられないのは、そのすべてが残念なところです

やはり施設内にご家族を入れるわけにはいかなかったので、特養にしろ病院にしろ、ご家族を入れられない以上、自宅以外は同じ環境になってしまいます。「名前だけの看取りをしてもしょうがない」と腹括って、頭下げるしかありませんでした。

──病院でご家族は最期に立ち会うことはできるんですか?

病院も立ち合わせていません。緊急事態宣言下で体調を崩されてご逝去された方がいらっしゃったんですけど、あとでご家族からお話を伺ったところ「結局中に入れてもらえなかった」って。「葬儀もできず、即火葬場に」っておっしゃってましたね……。

*病院によって対応は異なる。

──うーん、そうですか。それは本人が感染しているわけでなくても?

はい。お通夜や告別式って憲法第25条で保障されている「文化的な生活」なんですよ。それを侵害してるって憲法違反でしょ? って、さすがにちょっと思いましたね。

──最近は規模も小さく簡素化される傾向にありますが、家族の中できちんとお別れは必要ですよね。

故人と最後にしっかり向き合う場所がたぶん通夜・告別式だと思うので、それはすごく残念な報告でした。

──残された家族にとって最後にできることが何もないのはつらいですね。コロナであろうがなかろうが“そのとき”は来るものなのに、たまたまこのタイミングだったというだけで……。

僕たち介護職員は“そこ”に向かって仕事をしているので

僕、お通夜って良い経験も悪い経験もあるんです。すごくお叱りを受けてお焼香をさせていただけなかったこともあれば、お坊さんがお経を上げている最中に「ありがとう!」ってハイタッチされたこともあります(笑)。ほかの親族や参列者の方たちは引いちゃってたんですが、通夜振舞いのときにうちのスタッフを参列者のみなさんに紹介してくれて「こんなことしてくれました、あんなことしてくれました」って……。

通夜や告別式はご本人と最後に向き合う場所であると同時に、介護職員が最後の仕事を評価していただける場所でもあります。お亡くなりになると退所の手続きのためにご家族がお見えになるんですが、それは生活相談員が対応するので現場のスタッフがそこでお会いすることはありません。僕たちの仕事には“終わり”がないんですけれども、ご利用者お一人おひとりにケース担当がいて、担当するご利用者がお亡くなりになったときが一つの区切りになって振り返るタイミングになると思うので、それがなかなかできないのは残念です。

特養副施設長 後藤さん インタビューカット
「介護職員は“そこ”に向かって仕事をしている」の意味がはっきりするのはインタビュー後半

──もう一つ聞きたかったのが認知症の方についてです。認知症の方は新型コロナウイルスについてどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?

認知症の程度によります。軽度の方は「新型コロナウイルスっていう新しいウイルスが入ってきていること」はもうインプットされている状態。ただし今どういう状態なのかはよくわからない、だからニュースを見て「(新規感染者数が)先週より増えてるって言ってるわよ」って分析されている方がいらっしゃったり。

その隣で認知症中度の方が「そうよね、危ないわよね」ってなんとなく会話が成立しているんですけれども、中度の方は新型コロナウイルスのことを覚えていないんです。「新型コロナウイルスっていうのがあって」って言うと「なあに、それ?」って。「テレビでやってるでしょ」「えー、そんなに死んでるんかい……、怖いね」っていうやりとりが毎日続いている状態。

認知症が重度になってくるとインプットもアウトプットも難しい状態なので、さほど大きな変化はありませんね。

ただ、コロナ禍でご家族の面会がないっていうのは精神的なストレスになっていると思います。認知症中度の方は「なんで帰れないの?」「なんで家族に会えないの?」「えっ、散歩もだめなの?」っていう反応をされます。「そうなんですよね。テレビでも言っているとおりで」って説明はするんですが、言われた側はそう言われる度にストレスがかかるじゃないですか。「そうなんだ」「怖いね」「行きたかったのに」「家族に会いたいのに」ってそういったストレスが日々蓄積されていくので、毎日初めて聞いたかのようなフレッシュなショックを受けた表情を見ると心配になりますね……。

──私たちにとっての去年(2020年)の2月3月が毎日繰り返されているわけですもんね。ご家族との面会はオンラインでは可能なんですか?

オンライン可能です。でも、オンラインって難聴の方には音声が聞こえないんですよね。だんだん画面に近づいて、「見えないよ!」って感じになるので(笑)。スタッフも横にはいますけど、時間も限られているなかでスムーズにやりとりできないという課題はあります。

特養副施設長 後藤さん インタビューカット
声が聞こえず「このくらい」画面に近づいてしまうので、顔を見て会話ができない……

家族の介護が教えてくれたこと

──なかなかうまくいかないものですよね。そういった家族に会えない不安、外に出れない不満に対してはどのようにケアしていますか?

これはコロナに関わらずですが、ご本人に役割を持ってもらって僕たちが感謝をする、「ありがとう」って伝えることを大事にしています

介護は「ありがとう」と言われる仕事だとよく言われますが、そこが本質じゃないと思っていて。介護の本質は「ありがとう」を伝えること。それでご本人に役割と自信、充実感を持ってもらうことをベースにしているので、テーブルを拭いてもらったり食器洗うのを手伝ってもらったり、本当に日常的なことを手伝ってもらって、「ありがとうございます!」って伝えています。

──そういった介護観を持つようになったのはなぜでしょうか? そもそも後藤さんが介護の仕事を始めたきっかけは何だったんでしょうか?

僕、介護の仕事を始める前はダイビングのインストラクターをやっていたんです。小学校4年生くらいから中・高校生まで、夏休みになると半月くらいダイビングのツアーに行かせてもらっていたんです、祖父母がお金を出してくれて。それで小学校を卒業する頃には「インストラクターになる」って決めていました。高校卒業後にそのままそのツアーの指導団体に入って就職したんですが結局辞めてしまって、それ以来21年間一度もダイビングはしてません。

──なぜそこまできっぱりと辞めてしまったんですか?

社長とは小学校のときから師匠と弟子みたいな関係で、「育ててやるからな」って言われてたんですが、入職すると初任給が6万5千円だったんですよ(笑)。

──えっ!

アパートの家賃は4万5千円で、お金がないので夜になると社長と2人で晩メシを獲りに海に潜るという生活が続いて。「ダイビングのレベルが上がるから」って言われてたんですけど「もうむちゃくちゃや〜」って(笑)。「さすがに続けられない」と思って辞めました。でも「社長と潜れないんだったら面白くない」とも思っていたので、別のダイビングショップで働くという選択肢もありませんでした。

特養副施設長 後藤さん インタビューカット
社長とは和解し、今でも連絡を取り合っているそう

それが介護と出会わせてくれた人生のターニングポイントでした。当時、2000年はちょうど介護保険制度が始まるタイミングで、どこに行っても「ITと介護が成長産業の2本柱だ」って言われていました。僕はITがどんな仕事なのか想像できなかったので、「人と接することだったら得意だ」って介護の仕事を選びました。そうしたら、僕が介護の仕事を始めて1年目に父が初めて刑務所に入って──。

──ええっ!!

以来、トータルで17年ほど窃盗や傷害で刑務所に出たり入ったりしているんです。そんな父の影響で母が鬱病になってしまって。きっかけは2011年の東日本大震災で被災したことだったんですが、担当医から「原因は震災ではないようです。家庭環境に何か心当たりはありませんか?」って聞かれたときに「父がずっと刑務所に出入りしていますが、10年以上前に別れさせていて接点はありません。でも、ずっと暴力は振るわれていましたね」って答えたら「それですよ!」って。僕も兄も父から暴力を受けていたんですが、“行き過ぎた教育”くらいに捉えていて“DV被害者”という自覚もなかったので、母の鬱病と父の暴力がすぐに結びつかなかったんですね。

そのあと、引き取った母が薬物の過剰摂取で自殺未遂をして、昏睡状態で搬送されるということがあって……。

──あの、さらっと話していますが、すごくつらい経験を……。

そうですかね? もちろんそのときは大変でしたが、その経験が今の仕事にも活きているというか……。僕の中では「人は役割がなくなったとき、他人から求められなくなったり他人から認められなくなったりすると死にたくなるんだ」って結論づけています。実際、日本で年間2万人くらいいる自殺者の遺書の中で最も多く見られるのが「私は誰からも必要とされてない」という文言らしいです。

これはご利用者さんを支援するときの“核”にしています。今までは父親、母親、おじいちゃん、おばあちゃんという役割があったのに、認知症を発症すると「お料理しなくてもいいですよ」「お掃除しなくてもいいですよ」って役割を奪われていって何もない状態にされてしまう。与える立場からただ与えられるだけの立場になってしまう。

そうなってしまうと「何をしたいですか?」って聞いても「もう何もしたくない。もう死ぬのを待っているだけだから」って答えになってしまうんだと思います。なので、介護職員はさりげなく役割を持たせる──お願い事をして、手伝ってくれたことに対してたくさん「ありがとう」を伝えて、自信を取り戻してもらうことが介護の仕事のすごく大切なところなんです。

そうすると「何もしたくない」って言っていた人が「実はお墓参りに行きたかったの」「あれが食べたい」「あの人に会いたい」と言ってくれるようになる。それを叶えることができれば、最期のいい瞬間をみんなで作り上げていけるんじゃないかって思ってます。

特養副施設長 後藤さん インタビューカット
大変な経験をあっけらかんと話す後藤さん

実は兄も社会人になってから鬱病に、祖母も認知症になってしまったんです。祖母は遅発性の統合失調症という診断も受けていたので、治療のために入院させることになりました。僕の勤務している特養にずっと入居の申し込みをしていたんですが、入院から2年経った頃に希望が通って、それから亡くなるまで8〜9年くらい“施設内同居”することになって──、自宅で介護するより勤務先のほうが一緒にいる時間が長いんですよ。「後藤のばあちゃんだから」ってみんなよくしてくれるし、祖母は幸せ者だったと思います。

──後藤さんの人生の瞬間最大風速、暴風雨ですね……。

そうですね(笑)。本当に一人じゃ無理だし、知識がなければ逃げ出していたと思います。特養で働いていると行政の方とも距離が近いので、いろいろなアドバイスをもらえましたし、介護の仕事をしてなかったら、どこかのタイミングで知り合いの誰もいない地方に行って、全然違う仕事をしてたと思います。周囲の理解や知識がなければ耐えられないと思います。

家族の人たちのつらい気持ちは少なからず理解できるつもりです。家族を助けてあげたいという気持ちも、施設に入れて申し訳ないという気持ちもわかります。祖母を特養に入所させたときは「よかった」って思ったんですけど、さすがに精神科に入院させたときは「ごめん」って思いましたし。祖母も認知症や統合失調症の影響で人が変わったようになって、面会に行く度に「裏切り者!」って怒鳴られていたので、「面会行きたくない」って気持ちもわかります。こういう経験が仕事に活きてるなって思いますね。

介護は“究極のサービス業”

──後藤さんが「介護の仕事をしていてよかった」って思うのはどんなときですか?

いつもです(笑)。いや本当に「ちゃんと大人にしてくれてありがとう」って思っています。ダイビングのインストラクターを辞めたあと、介護の仕事を選んでいなかったら自分がどうなっていたのかまったく想像できないです。本当に僕が塀の中にいたかもしれない。

すべて介護に出会って学んだことなので、職業人として本当に幸せだなあと思います。『けあぷろかれっじ』を始めたのは、恩返しのために僕が得たことを伝えていきたいというところが大きいですね。

──介護の仕事について「つらそう」「大変そう」というイメージを持っている人もいると思うんですが、後藤さんはどう捉えていますか?

「つらい」って思ったことがないですね。“究極のサービス業”だと思っているので、やりがいしか感じないです。いろいろなサービス業がありますが、人が亡くなる瞬間にご本人やご家族に最後に何を思っていただくのかが問われるサービスって“究極”だと思うので。その人の生活や人生に介入して最後の瞬間の迎え方を一緒に考えるのは、介護でしかないですよね。それが「つらい」と言うのであれば「つらい」のかもしれませんが、正しい表現ではないと思います。「楽しい」という言葉でもないですし。やりがいのある仕事だと思います。本当に責任と覚悟が必要です。

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