1.話を聞いたのは、職業指導員歴3年目のMさん

今回話を聞いたのは、東北地方在住のMさん。結婚を機に職業指導員の仕事を始めて3年目を迎えたところです。
2.職業指導員の仕事内容

──まず初めに、Mさんが勤めている就労継続支援事業所とはどんな施設なのか教えてもらえますか?
障がいを持った方たちが軽作業をおこなう職業訓練の施設です。就労継続支援事業所には雇用型のA型と非雇用型のB型があって、うちの事業所はB型になります。
作業内容は事業所によっていろいろありますが、うちの場合は箱を組み立てる「箱折り」やお弁当を作る「厨房業務」、クール便などの「シール貼り」、建物や道路を掃除する「清掃」などをやってます。
B型事業所はA型と比べると障がいの重い方もいらっしゃるので、工賃は発生しない形でカレンダー作りや季節の装飾品作りなどの「創作活動」をされる方もいます。
──利用しているのはどんな方たちですか?
利用者数は35名ほどで、男女半々くらいです。A型事業所は原則18歳から64歳までの年齢制限がありますが、B型はありません。うちの利用者さんの最年少は18歳で、多いのは40代以上ですね。
障がいの種類は精神障害が9割以上で、加えて身体も悪い方もいます。障害程度区分でいうと区分1〜2の方が多いと思います。
──職員体制についても教えてください。
施設長、副施設長(兼サービス管理責任者)、職業指導員7名、生活介護職員2〜3名、看護師2名、事務、調理員が数名という感じです。
スタッフの年齢は20〜30代が中心で、結構若めですね。
──Mさんは職業指導員としてどんな仕事を担当されているんですか?
僕は清掃部門を担当してます。市から公共施設などの清掃業を請負契約で受けて、掃除機やモップなどを使って清掃する仕事です。
清掃は事業所の外に出て一般の方の出入りもある場所でおこなうので、比較的障がいが軽い方が担当しています。利用者さん6名と自分の7名体制で行くことが多いです。
職業指導員は利用者さんに掃除の仕方をレクチャーしつつ、自分も一作業員として働きます。
──利用者さんがおこなう作業内容はどうやって決定するんですか?
その方の障がいの程度や特性、職員からのケース記録などを参考にしながら、サービス管理責任者が利用者一人ずつのプランを立てます。ただ毎日同じ作業ではなくて、その日の人員などを考えながら担当者を割り振って、毎朝ホワイトボードに担当表を張り出すんです。
担当表が発表されると「今日は◯◯作業でラッキー!」とか「△△だから行きたくない」とか、利用者さんたちの反応がありますね。
──Mさんの一日の勤務スケジュールを教えてもらえますか?

こんな感じですね。定時は8時30分〜17時30分。残業は1ヶ月で20時間とかかな?
──利用者の送迎や健康チェックもおこなうんですね。
うちの運営元は社会福祉法人なんですけど、障がい者向けのグループホームも運営していて、そこから通いで来られる利用者さんの送迎をしています。
健康チェックは、看護師さんが手一杯のときには僕たちも検温などを担当します。
あとは体調だけじゃなくて、利用者さんの精神状態も気にしながら。気持ちの浮き沈みが激しい方も多いので、場合によっては「今日はちょっと作業は難しそうですね」みたいな判断もします。
──「ノート」や「ケース記録」というのは?
ノートは、利用者さんのご家族や入所先の職員とやりとりするためのものです。その日の作業内容とか本人の様子とかを書いてます。
ケース記録も同じようにその日の利用者さんの作業内容や様子を記録するものですが、これは内部的なもので、施設長に提出する月次報告書と併せて提出するものです。
ちなみにノートは手書きで、ケース記録はパソコン(Excel)で作成することが多いです。
あと僕の場合は清掃業務について市へ提出するための報告書も作成したりして……なにかと書類作成が多いんですよ。
──外出や移動が多くて日中はなかなか事務作業の時間が取れなさそうですよね。昼食は事業所で提供されるんですか?
そうです。厨房で作られる定食で、一食350円くらいで満腹になれますよ。利用者さんも職員も、基本的に月の給料から差し引かれる形ですね。
お昼は利用者さんも職員も一緒になって取ります。雑談しつつゆっくり食べられる日もあれば、誰かがごはんをのどに詰まらせたとか、利用者同士でケンカを始めて仲裁に入ったとかで、バタバタする日もあります(笑)。
職員はなかなかゆっくりできませんが、利用者さんは早く食べて歯磨きしたら自由時間なので、昼寝したりスマホで音楽聴いたりと思い思いに過ごされてますよ。
──清掃業務は午前と午後、2回に分けて行くとのことですが、作業中どんなことを意識されていますか?
一緒に作業している利用者さんたちを気にかけることですね。例えば朝の時点で不穏そうな利用者さんがいたら、作業中もよく様子を見るようにしていて、なにかあったらすぐに駆け寄れる位置にいます。
清掃を担当している利用者さんは一般の方とほとんど変わらないくらいの働きぶりをされるんですけど、時々調子が悪いと作業が雑になってしまったり、ほかの業者さんに突っかかってしまうこともあるので。
──そういう場合はどうするんでしょう。
あんまり仕事にならなさそうだったら、休むことも考えます。ですけど、作業できるようにするのが僕たちの役割でもあるので、そこをうまく調整するのが大事で。
「職業指導員」って名前ですけど、“指導”というよりも“コミュニケーション”だよなって僕は思ってます。こちらの言葉選びひとつで相手の受け取り方はまったく変わるので。声がけによっては、気が乗らなかった人が「じゃあもうちょっとやってみますわ」ってなってくれることもあるし、その逆もありますから。そこが職業指導員の腕の見せどころかもしれません。
──Mさんは日ごろどんなコミュニケーションを心がけていますか?
利用者さんとの接し方はほんとに人それぞれで。僕の場合はまだ経験も浅いし若いので「年下の友達」みたいな関係ですかね。「今日調子どうですか」「いや〜それが昨日こんなことがあってよ……」「えっどうしたんですか」みたいな他愛のないやりとりから、時には恋愛相談に乗ることもあります(笑)。
ただ友達って言っても利用者と職員の関係ですし、相手によっても好ましい接し方は違うので、この具合は難しいですね。たくさんコミュニケーション取って相手のことを知っていくしかないと思います。
僕はもともと人と接するのが好きなほうだったんで、結構向いてたのかも? そのおかげか今は5人の利用者さんを担当させてもらってます。
──担当制度があるんですね。
はい、利用者さんには職員が一人ずつ担当としてつきます。基本的にはよく一緒に作業する同士で組むことが多いですね。
担当者がやることとしては、利用者一人ひとりの月次の報告書を作成・提出することと、あとは利用者さんのお金の管理ですね。
──通所施設でお金の管理もするんですか?
うちの場合、自己管理ができる方はご自身で管理してもらいますが、自己管理が難しい人──例えばもらった給料をその日に使い切ってしまうような人──については、職員が預かって管理しています。
施設によってはグループホームとかの入所施設のほうで管理されることもありますし、在宅の場合だとご家族が管理されることもありますが、うちはだいたい8割くらいは預かっています。
具体的には、預かった1ヶ月分の給料から、毎週土曜日に「お小遣い」として1週間分を渡します。そのなかであれば利用者さんは自由に使って構いません。ただ一度に使い切ることでその後の生活が不穏になってしまうようなら、使い方について本人と話し合い、一日の利用金額を決めるよう提案することもあります。ジュースにお金を使いすぎるなら、職員がジュースを買っておいて一本ずつ渡すなどの工夫も必要です。
お小遣いで賄えない高価なものが欲しい場合は、前後の週で収支を調整するなどの方法を一緒に考えますね。
──なるほど。月のお給料はどのくらい支給されるんですか?
作業に対する工賃は時給100円〜400円です。月に1度の給料日に封筒に入れて手渡しで支給され、事業所管理の場合は再度回収して預かります。
ちなみに昇給もあって、勤続状況や勤務態度、能力などに応じて金額が決定します。
──ボーナスは?
1ヶ月休まずに通所した利用者さんには、皆勤賞として月ごとに1,000円の支給がありますね。
それから年末には慰労金として1,000円〜20,000円の支給もあって、1年間の頑張りや労力によって金額は変わります。
3.職業指導員として働くということ

──Mさんのお給料についても聞いて良いでしょうか?
毎月の額面は20万円前後で、手取りで16万円くらいです。昇給は過去2年間で1度だけありました。
ボーナスは月給1ヶ月分を年2回ですね。
──Mさんはどうして職業指導員になろうと思われたんですか?
もともと歌手になるのが夢で、高校卒業後、地元を出て東京でコンビニバイトをしながら活動を続けてました。その後24歳で結婚が決まり、奥さんの地元に引っ越してきて、就職のためにハローワークに行ったんです。
いろいろ仕事がある中で、障害福祉の仕事がいいなって目に留まりました。実は僕の妹が身体障害を持っているので、障がいは一般の人よりも身近な存在だったんですよね。路上ライブとかを通じて人と接することも好きだったし、これだなって感じでした。
──そうだったんですね。選考は順調に進みましたか?
受けたのは今の職場だけなんですけど、書類選考、面接と順調に受かりました。レクやイベントが結構ある職場なので、歌手を目指していた経歴が業務でも役に立つと評価されたのかもしれませんね。
妹は結構重度なので、僕が就職した話もきっとわからないんですけど、両親は喜んでくれました。
──初めての障害福祉での仕事、働き初めはどうでしたか?
正直、精神障害をよくわかってなくて、本人の頑張り次第でどうにかなるんじゃって思ってたんです。でも実際にうつ病とか心の病を持った方と接すると、「ああこれは病気で、気合いとかでどうこうできるものじゃないな」っていうのを実感して。
最初はどう声をかけたらいいかもわからないし、戸惑いました。相手との距離感がつかめなくてフレンドリー過ぎることもありましたし、使う言葉のチョイスを誤って利用者さんを不穏にさせてしまうこともあって。場合によっては僕の発言のせいで、その人が仕事に行けなくなることもあるんです。それってすごく責任の重いことですよね。
──戸惑いがあったなかで、どうしていったんでしょう。
とにかく利用者さんと交流を重ねることで、相手のこと、病気や障がいのことを理解しようとしました。
最近の話だと、いつも一緒に作業している利用者さんの一人が、「エヴァンゲリオンの主題歌を作ったのは僕なんだよね」と話してくれたことがあります。その人が言うにはプロデューサーと会って話した記憶もしっかりあるらしいんです。でも頭のいい方なので、そんなわけがないこともご自身は理解していて。その矛盾が苦しそうでしたし、これが病気の影響なんだと実感しましたね。
僕は妄想や幻聴を経験したことはないので本当に理解することはできませんけど、できるだけ相手に寄り添って、わかりたいなと思ってます。
──そんなやりとりがあったんですね……。ほかにも思い出に残っていることはありますか?
そうだなぁ……嬉しい出来事だったら、担当してる利用者さんの工賃が上がったときでしょうか。賃金は施設長が決めるので僕に決定権はないんですけど、日ごろからその人の頑張りを見ていたので、昇給がわかったときはすごく嬉しくて、利用者さんと一緒になって喜びましたね。
大変な出来事は日々大小あるんですけど(笑)、たまに利用者さんで大暴れする方がいたりとか、トイレがうまくいかず排泄物まみれになってたりするときですかね。
──職業指導員として、今後どうなっていきたいですか?
まだ若いので「死ぬまでずっとこの仕事を」とまでは考えてませんが、今の仕事にやりがいも感じてるので、しばらくはここで頑張りたいなって思ってます。給料はちょっと低めですけど、責任もあって心にぐっと来る瞬間もある仕事だと思っているので。
利用者さんたちをサポートし続けるなかで、もっと知識や経験を積んで、気がついたら講演会とかで人に教えられるレベルくらいになっていたらいいな、なんて野望も少しだけ持ちながら(笑)、今後もやっていけたらいいなと思ってます。