「まさか自分が数ヶ月で辞めるとは」。希望を持って転職した施設でパワハラにあい、失意のなか退職した生活相談員のNさん。その後も転職した先の職場は厳しい環境でしたが、2度の短期離職を経て「ようやく腰を据えて働ける職場に出会えた」と話します。これまでの歩みと、仕事を続ける理由を聞きました。
話を聞いた人

生活相談員 Nさん
結婚・子育てを経て、デイサービスで介護の仕事を開始。8年ほど勤務したころ、生活相談員が退職したことから、相談業務も担当するようになった。介護老人保健施設などで短期離職を経験。現在はデイサービスに勤務。
友人のあと押しで介護業界へ
──まずはこれまでの経歴と、介護の仕事を始めたきっかけを教えてください。
Nさん:短大卒業後は、アルバイトしていたスーパーにそのまま就職しました。その後、コールセンターで働いた時期もあったのですが、結婚・出産でしばらく仕事から離れていました。
3人目の子どもが1歳になる前、「そろそろ働こうかな」と思って仕事を探し始めました。仲のいい友人がケアマネジャーをしているのですが、「介護職は子育てしながら長く続けられるよ」と教えてくれて。日勤のみで日曜が休みという条件で探したところ、近所のデイサービスが募集していたので、そこに就職しました。

──実際に介護職をしてみてどう感じましたか?
人のお世話をすることが好きなんだと気づきました。もともと人と接するのが好きだったので、利用者さんとも楽しくコミュニケーションが取れましたし、仕事も楽しかったです。
面接で「排泄介助はできますか?」と聞かれたんですが、子育てをしていればそういうことも多いので、実際の業務もとくに抵抗はありませんでした。
──そのデイサービスに12年も勤務されていたんですね。居心地が良かったんですか?
そうですね。人間関係もよく、子育てと両立しながら続けられました。その間、生活相談員の方が退職することになり、私が引き継ぐことになったんです。
生活相談員になるには社会福祉主事任用資格が必要なんですが、偶然資格を持っていたんです。
──偶然?
そうなんですよ。自分でも驚きました。短大で介護や福祉を専攻していたわけではなくて、友人と一緒に必要な授業を取っていただけなんです。
相談員をしている友人に「どうやって資格を取ったの?」と聞いたら、「たぶんあなたも持ってるよ」と言われて。短大に確認したら、本当に取得していました。

──そんなことがあるんですね! 介護職員から生活相談員になって、業務内容はどのように変わりましたか?
現場と兼任だったので、最初は「仕事が増えて困ったな……」と思っていました。 ただ、ケアマネさんとやりとりするうちに、「利用者さんの生活やご希望について深く考えているんだ」と視野が広がっていきました。続けるうちにほかの施設とのつながりができて、良い取り組みを知る機会も増え、次第にこの仕事が好きになっていったんです。
──そういったやりがいを感じながらも、転職を考えたのはなぜですか?
相談員の仕事にやりがいを感じたからこそ、専門的に取り組みたいと思ったからです。当時は現場を兼務してたので、勤務時間の半分以上を利用者さんの対応に費やしていました。すると相談員の仕事をする時間がないので、休憩時間や早出・残業を使って、なんとか業務をこなしていました。
また、入所施設での相談業務にも関心があったので、老健の支援相談員*にチャレンジしようと思い、転職することにしました。
パワハラで退職「なんて根性のない人間なんだ」
──転職先の老健は4ヶ月で退職したと伺いました。何があったのでしょうか?
入所施設での勤務は初めてだったので、仕事の内容にギャップを感じていました。続けながら慣れればいいやと思った矢先、入職して1週間くらいでパワハラが始まったんです。指導役の先輩が高圧的な方で、利用者さんの情報も共有してくれず……。
それで自分で調べながら資料を作っていたんですが、それも止めろと言われる始末で。空き部屋に呼び出されて問い詰められたこともありました。
──それは大変な経験をしましたね。
周りのスタッフは理解してくれていたので、なんとか頑張ってたんですけど、体調崩してしまい。仕事どころではなくなってしまったので、4ヶ月で退職してしまいました。
こんなに早く辞めてしまうなんて、自分はなんて根性のない人間なんだとショックでしたし、もう介護から離れようかと弱気になったこともありました。
でも、家でじっとしているのは性に合わないし、専業主婦は向いていないと思って。介護の仕事自体は好きだったので、すぐに次の職場を探し始めたんです。

──次の職場選びは慎重になりそうですが、どのように決めたんですか?
近所に相談員を募集しているデイサービスがあったので応募しました。面接で、前職を4ヶ月で辞めたことを正直に話したら、「大変だったね、うちではそんなことないよ」と言ってくださって。その言葉に安心して入職したんですが、入ってみたらブラックな職場だったんです。
──今度はブラックですか……。どんな環境だったんですか?
残業申請はできず、有休も取れない、1日3時間のサービス残業があるのが当たり前の職場でした。利益優先の雰囲気もあって、次第に「長く続けられる職場ではないな」と考えるようになりました。入職して10ヶ月ほど経ったころ、退職者が相次いだタイミングで、私も退職を申し出ました。
ただ、このデイで初めて請求業務を担当することができたんです。仕事の幅が広がったことは、自分にとって大きな収穫でした。
へこたれながらもキャリアは続く
──不遇が続いて、本当に介護の仕事から離れようとは思わなかったですか?
少し考えました。でも、ここまで続けてきたし、何より介護の仕事が好きなんです。あとは、諦めずに仕事を探して、自分に合う職場に出会えたことが大きかったですね。
今の職場は、老健に転職したときから知っていた施設なんです。当時は応募しなかったのですが、ダメもとで応募して採用してもらったんです。
──面接で短期離職についてどのように説明しましたか?
嘘をつくとあとでつじつまが合わなくなるので、正直に答えました。介護の仕事を続けるか悩んでいることも伝えました。そしたら担当者が、「うちで働いて、それでもダメだと思ったら辞めればいいんじゃない」と言ってくださって。その言葉に救われたというか、気持ちが軽くなって入職を決めました。
──安心して働ける職場に出会えたんですね。今の職場は長く働けそうですか?
ええ、ようやく腰を据えて働けそうです。人間関係も良いし、ちゃんと休みも取れるようになりました。子どもにも「ママ、休み増えたね」って言われるくらいです(笑)。
業務でもこれまでの経験が活きていています。請求業務を担当していて、人手が足りない日は現場にも出ています。
先日、利用者さんたちと足湯に行ったら、とても喜んでくださって。職員も利用者さんも、みんなが気持ちよく過ごせる環境をつくることが、今のやりがいですね。
──これまでいろんな経験をされてきたNさんだからこそ、短期間での退職を迷っている方へ、伝えたいことはありますか?
「辞めてもどうにかなる」と考えてほしいです。パワハラやブラックな職場では、へこたれて退職してしまいました。でも、諦めなかったからこそ今の職場にたどり着けたんだと思います。どんな経験も無駄にはならないので、諦めずに続けてくださいと伝えたいです。