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話を聞いたのはこんな人

高校卒業後、携帯販売員として約3年働いたあと、ナイトワーク(キャバクラ)で約10年生計を立てたというHさん。「いずれは稼げなくなるとわかっていたので」と30歳をめどに昼の仕事に戻ることを決めていました。
32歳になり、将来のキャリアを見据えて選んだ仕事が、医療事務でした。
未経験でも“手に職をつけられる”医療業界へ
──キャリアを考えた際に、なぜ医療事務の仕事を選ばれたのでしょう?
Hさん:高卒で自動車免許しか持っていないので、専門的なことを学んで手に職をつけたいと思ったんです。未経験でも挑戦できる仕事を探したら、医療事務の求人がたくさん出てきたので、やってみようと思いました。
最初は派遣社員として、総合病院に配属されることになりました。派遣を選んだのは、医療事務の仕事が自分に向いているか、長く続けられるかまだわからなかったので、まずは一度経験してみようと思ったからです。
──配属先はどのように決まったんですか?
派遣会社の人から「初めての医療事務なら、個人のクリニックよりも規模の大きい病院で基礎をしっかり学んだほうがいいですよ」と勧めてもらったからです。
実際、個人経営のクリニックだと人数に余裕がないので、教育に十分な時間を割けないことも多いです。あのとき大きい病院を勧めてもらえて良かったと思います。
──実際に医療事務として働いてみて、どんな印象を持ちましたか?
もともと持っていたイメージとは違いましたね。「受付で診察券を預かり、お会計する人」というイメージしかありませんでしたが、実際の業務はもっと幅広く、覚えることもたくさんあって、最初は大変でした。
まずは会計業務から覚え始めました。保険証や領収書の渡し忘れがないか、金額に間違いがないかなど、「絶対に失敗できない!」という緊張感を持って受付に立っていました。
それから同僚の名前を覚えるのに苦労しました。なにか質問するにも相手の名前がわからないと声をかけられないのに、事務スタッフだけで何十人といたんです。

──仕事を覚えるために何か工夫はしましたか?
物覚えが良くないので、なんでもメモに書いて読み直すようにしました。業務内容はもちろん、スタッフの特徴などもメモしていました。
──スタッフとはどのようにコミュニケーションを取っていったんでしょうか。
なるべく全員と関わろうと思って、自分から挨拶したり話しかけたりして、会話を広げることを意識していました。
当時のスタッフに少し近寄りがたい人がいて、その人がメダカを飼っていると聞いたので、私も飼い始めたんです。はじめこそ仲良くなるための話題作りでしたが、いろいろな色や形をしたメダカや水草が可愛かったです。そうしたらその人と話す機会も増えて、距離も縮まりました。
──そこまでするとは驚きです。
もともと人の話を聞くのも、新しいことを始めて何かを発見するのも好きなんですよね。
──患者さんに対しても、積極的にコミュニケーションを取るんですか?
そうですね。とくに、よく来院される患者さんと話したことは覚えておいて、次に来られたときに「この前話したあれはどうなりましたか」と聞くと、すごく喜んでいただけます。これは前の仕事から続けていることですね。
この病院は2年働いて退職したんですが、そのときは残念がって声をかけてくださった患者さんもいました。みなさんそれぞれ病気で大変なのに、気にかけてくれたのがうれしかったです。
「あまり平等な環境ではなかった」転職先での奮闘
──総合病院はどうして退職することになったんですか?
正職員になりたかったので、派遣契約が満了したタイミングで辞めることにしました。総合病院で正職員になる道も考えましたが、そのためには一度パートにならなければいけなかったのと、医療事務の資格も必要だったんです。その時間はかけられないと思って、転職することにしました。
転職先は、地元の眼科クリニックです。自宅から近く、お給料も比較的良かったので、ここだけ応募して、採用していただけることになりました。
──総合病院からクリニックへの転職だと、業務範囲も一気に広がりそうですね。
広がりましたね。これまでは基本的に会計業務だけでしたが、クリニックでは受付から会計、算定、レセプト、それから検査の補助まで任されるようになりました。
──「検査の補助」とはどんなことをするんですか?
患者さんを検査機器のある場所まで案内し、検査内容の説明や補助をおこなっていました。具体的には、眼圧測定、オートレフラクトメーター(視力測定前の気球の絵を見る検査)、視野検査、OCT撮影などを、先生の指示のもと補助していました。
▼医療事務の詳しい業務内容についてはこちらで解説!
──新しい仕事内容や人間関係はどうでしたか?
それが、もともと医療事務は私と別に3人いたんですが、私が入職した2ヶ月後に一人辞めて、さらに1年後にもう一人が辞めてしまったんです。

──何か原因が……?
あまり平等な職場環境ではなかったからですね。リーダーの男性がいたんですが、その人が絶対的な存在になっていて。リーダーの裁量でシフトが組まれ、人によって業務量に差が出るような状態でした。
ある日、この状況をどうにかしたいと思ってマネージャーに相談したら、「じゃあHさんをサブリーダーにするから」と言われてサブリーダーになりました。
そこからはもうバチバチの日々で。私がシフトを作っても拒否されるし、リーダーとサブリーダーではまだ役職差があり、まともに取り合ってもらえませんでした。なので2年目には私もリーダーになって、ようやく対等な立場で渡り合えるようになったんです。
仕事は担当制に変えて、業務量の偏りが出ないようにしました。それから、属人的だった仕事を整理したりマニュアル化したりして、誰かが抜けても回るようにしました。
──入職1年目から役職に就いたんですね! 大変な時期に辞めようとは考えませんでしたか?
辞めたかったんですけど、2人辞めたあとに残っていた事務の子がものすごく頑張って仕事を回してくれていたので、その子を残して辞めるわけにはいかないと思って。私の入職後に新しく入ってきたスタッフもいて、辞めるタイミングを逃しちゃいましたね。
むしろリーダーになってからは、「こんなクリニック変えてやる!」という気持ちが強くなりました。事務のスタッフや看護師さんたちが味方でいてくれたので、なんとか頑張れた感じですね。
──管理職は初めてかと思いますが、マネジメントするうえで何か参考にされたり、勉強されたりしましたか?
とくにはないんですけど、自分が先輩や同僚にしてもらって良かったことを、今度は自分がしようと考えて動いていましたね。
このクリニックでの4年間は大変なこともありましたが、リーダーを経験させてもらったことで、マネジメントについて考えたり、院長から経営の話も聞くようになったりして、すごく視野が広がりました。
──ちなみに、管理職になって給与はどのくらい変わりましたか?
リーダーになってからは、手取りで33〜34万円ほどでした。役職手当がついて、残業ありの金額です。派遣時代は21万円くらいだったので、だいぶ上がりましたね。
小児科クリニックで託された、新しい挑戦
──眼科クリニックは4年で退職されたんですか?
そうです。体制を整えることができたので、もう私はいなくても大丈夫だろうと思い転職を決めました。また違う診療科で学びたいと思ったので、今度は小児科のクリニックを選びました。
条件としては、自宅から通いやすいこと。それから、転職すると管理職ではなくなるのでお給料は下がってしまいますが、最小限の減額に留められるところを探しました。
──現在の新しい職場はどうですか?
眼科はご高齢の患者さんが多かったので新鮮です。診察が嫌で泣いたり暴れたりする子どもたちに「病院は怖いところじゃないよ」と伝えたくて、注射した跡に貼るシールに絵を描いたり、おもちゃのボールペンで気を紛らわしたりしています。こういう時間を持てるようになったことがうれしいです。
また、いまは受付だけでなく、診察の補助として診察室に入ることもあります。予防接種などでお子さんの体を支えたり、診察で使用する器具などの準備をしたりしています。
親御さんから先生や看護師さんには話しづらいことを伝えられることもあり、間を取り持つことにもやりがいを感じています。

──同僚との人間関係はどうでしょう?
私のほかにベテランの事務の女性が2人いて、親しくできていると思います。
ただ、私が採用されるときに、院長から「院内のデジタル化を進めたい」という要望を受けていて。電子カルテやレセコンは導入済みなんですが、受付だけが今でも紙カルテを併用していて、そこを変えていきたいという話だったんです。
事務の先輩方は何十年もずっと紙カルテでやってきたので、どうにも電子カルテを信用できないみたいで……彼女たちの説得とデジタル化の推進を任されている状態です。
──なんと、またしても大きな役割を背負っているんですか。
そうですね(笑)。なので、電子カルテを実際に使って効率よく操作できるところを見てもらったり、ベンダーの方に勉強会を開いてもらったりして、少しずつ説得を試みているところです。
資格がなくても医療に携わって、感動を届けたい
──Hさんは医療事務の仕事のどんなところにやりがいを感じていますか?
医療に携われるのは、学校に通って資格を取る必要がある職種ばかりですよね。でも医療事務は、無資格や未経験でも医療に携わることができて、「誰かのためになっている」と感じられます。それがすごいことだと思っていて、やりがいにもつながっています。
──仕事をするうえで、いつも心掛けていることはありますか?
私は、相手の期待を超えたサービスを提供できたときに、感動につなげられると思っているので、いつも少しだけ“足す”ことを意識しています。
たとえば、毎日大勢の患者さんを見送っていると機械的な「お大事にどうぞ」になりがちです。でも、どんなに忙しくても、目を見て笑顔で「お大事になさってください」とお辞儀をして伝えるようにしています。長い待ち時間や診察で疲れたあとに、少しでも穏やかな気持ちで帰っていただきたいからです。
ちょっとしたエピソードなんですけど……総合病院に勤めていたとき、当時の課長が私の仕事ぶりを評価してくれ、本来は正職員だけが担当する朝礼の挨拶を私に任せてくれたことがありました。派遣の私でも認められた気がして、少し誇らしかった出来事です。

──それではここからは、これから医療事務として働く方が抱きやすい質問をしていきます。まず、医療事務になるうえで、資格や経験はあったほうがいいと思いますか?
資格がなくても始められる仕事ですが、あったほうが有利な場面もあると思います。実際、私の勤めていた総合病院で正職員になるには、医療事務の資格が必要でしたから。
とはいえ、私自身は無資格・未経験で始めましたし、眼科クリニックで私のあとに入職した医療事務の2人も未経験でした。経験者だと以前の職場でのやり方にこだわってしまう人もいるので、当時の院長も「未経験のほうがいい」とよく話していました。
──「未経験のほうがいい」は意外でした。ではHさんの経験者としての転職は不利だったということですか?
経験者であることのアピールはしませんでしたね。面接では、自分にとって初めての診療科で学び、経験を積みたいということを主に伝えていたと思います。
──アピールポイントを変えるんですね。続いて、受付に立つ場合、時にクレームを受けることもあると思いますが、どう対応すればいいですか?
たぶん想像される以上に理不尽なクレームって少ないです。もし「待ち時間が長い」って不満を言っている人がいても、それは当然のことで、私はクレームとは思いません。どうしたら待ち時間を短くできるか改善方法を考えるべきだと思います。
そういう方には、何に不満を感じているのか、話を最後まで聞くことを大事にしています。それだけで落ち着いてくださることも多いですね。
──会計や算定業務などで数字を扱うことが多いですが、数字や計算に苦手意識がある場合はどうでしょう?
計算はレセコンがしてくれるので、計算スキルは必要ないと思いますよ。以前システムの不具合で手計算したことはありますが、過去に一度だけです。
──では、医療事務に興味がある方に向けて、一言いただけますか。
もし興味があるのなら、一度は挑戦してみてほしいです。とりあえずやってみて、ダメだったら次に行けばいいですし、いい職場に出会えればきっと長く続けられる仕事だと思います。
──Hさんも、今後も変わらず医療事務を続けていきますか?
そうですね、まずはいまのクリニックでのデジタル化を進めて、医療事務としての経験を積んでいくことが当面の目標です。
もっと先の話ですと、今後ますます在宅医療の需要が増すので、そういった方々を支える訪問介護の領域にも関心があり、いつか挑戦するかもしれません。
──介護業界へ挑戦される際は、ぜひまた話を聞かせてください。本日はありがとうございました。