1. 管理栄養士とは?
栄養指導・管理を通して人々の健康を支える
管理栄養士は厚生労働大臣から免許を受ける国家資格であり、栄養に関する知識と技術を用いて栄養指導・管理をおこなう専門職です。健康な人だけでなく、病気を患っている人、高齢で食事がとりにくい人など、一人ひとりの状況とライフステージに合わせて栄養面をサポートします。
管理栄養士は栄養士の上級資格として1962年に誕生しました。就業者数が急増した2000年には栄養士法の一部改正が公布され、管理栄養士が登録制から免許制となったほか、管理栄養士の業務が明確に規定されました。その背景として、もともと栄養士をまとめる管理職の役割を持っていた管理栄養士が、栄養指導を通した生活習慣病の予防医療まで担うようになり、管理栄養士の重要性が増したことが挙げられます。
厚生労働省によると、令和3年度の栄養士免許公布数が1万6,771人なのに対し、管理栄養士は9,958人となっています。また、管理栄養士を含む栄養士の就業者数は12.1万人、平均年齢は38.5歳となっていますが(令和2年国勢調査)、管理栄養士取得に栄養士資格取得後数年を要することから、管理栄養士のみの場合平均年齢が数歳高くなると考えられます。
管理栄養士と栄養士の違い
大きな違いは免許の取得方法と業務範囲です。栄養士は、厚生労働省が指定する栄養士養成施設を卒業し、都道府県知事から免許を受けます。対して管理栄養士は、栄養士免許を取得したあとに管理栄養士国家試験に合格し、厚生労働大臣から免許を受ける国家資格です(詳しくは「管理栄養士になるには 」を参照)。
栄養士も管理栄養士も、栄養指導や給食管理といった基本的な業務は同じですが、管理栄養士にしかできない業務がいくつかあります。
栄養指導を例にとると、栄養士は主に健康な人向けに栄養指導をおこなうのに対し、管理栄養士はそれに加えて、病院で傷病者の療養のために必要な栄養指導をおこなったり、特定保健指導*で個人の健康保持・増進のために栄養指導をおこなったりもします。
管理栄養士 | 栄養士 | |
免許の種類 | 国家資格 | 都道府県知事免許 |
受験要件 | 栄養士免許の取得 | 栄養士養成学校の修了 |
栄養指導 | 一般的な栄養指導に加え、病院や特定保健指導での栄養指導をおこなう | 一般的な栄養指導 |
給食管理 | 一般的な給食管理に加え、特別な配慮を必要とする給食の管理・指導をおこなう | 一般的な給食管理 |
かつてがん・脳卒中・心臓病・糖尿病などは「成人病」と呼ばれ、加齢と共に発症・進行するものだと考えられていました。しかしこれらの発症には食生活や運動といった生活習慣が深く関わっていることがわかり、生活習慣病という概念へと変わりました。管理栄養士は生活習慣病の予防に食の面から貢献し、高齢化社会において健康寿命*を延ばすことにも寄与しています。
2. 管理栄養士になるには?
管理栄養士免許が必要
管理栄養士として働くには、国家試験に合格して管理栄養士免許を取得しなくてはなりません。なお管理栄養士国家試験の受験には栄養士免許が必要です。
管理栄養士免許の取得ルートには栄養士養成施設ルートと管理栄養士養成施設ルートがあり、栄養士養成施設ルートで管理栄養士国家試験を受験する場合、養成施設の修業年限に応じた実務経験が求められます。
管理栄養士国家試験の概要
管理栄養士国家試験は年に一回、2月に実施されます。
- 11月中旬〜12月上旬:願書等提出
- 2月下旬:試験日
- 3月下旬:合格発表
管理栄養士国家試験は1問1点で全200問出題されます。試験科目は次の通りです。
試験科目
- 社会・環境と健康
- 人体の構造と機能及び疾病の成り立ち
- 食べ物と健康
- 基礎栄養学
- 応用栄養学
- 栄養教育論
- 臨床栄養学
- 公衆栄養学
- 給食経営管理論
合格基準は60%(120点/200点)となっています。
そのほか、管理栄養士国家試験に関する最新情報は厚生労働省のWebページからご確認ください。
>厚生労働省|資格・試験情報
管理栄養士国家試験の合格率の推移
合格率は60%を超え緩やかに上昇していましたが、2年連続で低下し第38回では50%を下回っています。
直近2024年におこなわれた第38回管理栄養士国家試験の結果は次のようになりました。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
管理栄養士ルート (新卒) |
9,087人 | 7,309人 | 80.4% |
管理栄養士ルート (既卒) |
1,647人 | 128人 | 7.8% |
栄養士ルート (既卒) |
5,595人 | 619人 | 11.1% |
参考|厚生労働省「第38回管理栄養士国家試験の結果について」より作成
新卒者の合格率が約8割なのに対して、既卒者は1割前後と大きな差が見られます。実務経験を積んだうえで受験する場合は、国家試験対策の時間を十分確保しましょう。
3. 管理栄養士の仕事内容
管理栄養士が担う仕事内容は、主に次の通りです。
栄養指導
健康な人に対する栄養指導以外に、専門的な知識や技術が必要な栄養指導も担当します。例えば病院に入院している傷病者に対して療養のために必要な栄養指導をしたり、特定保健指導で生活習慣病のリスクがある人に対して食生活を改善するための栄養指導をしたりします。
給食管理
給食の献立作りや食材の発注、調理スタッフへの指導などをおこないます。一般的な給食管理以外に、特別な配慮を必要とする人向けの給食管理も担当します。
例えば保育所や乳児院などでは、調乳、離乳食、アレルギー食、摂食・嚥下機能*に応じた刻み食など、子どもの状態に合わせて献立・調理法を考えます。
同様に病院給食でも、一人ひとりの病態に応じて食事を管理します。嚥下機能が低下している人でも飲み込みやすい嚥下食、固形物が飲み込めない人のための流動食、カロリーや塩分などの制限がある人向けの特別治療食など、さまざまな食事を管理します。
食育
食育とは「子どもたちが食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けること」(参考:文部科学省)です。学校給食は法律で、食育の中心となる教育活動として位置付けられています。管理栄養士は栄養教諭*として、子どもたちに食に関する知識を伝えます。
食育は学校に限らず、幼稚園や保育所などでもおこなわれます。子どもたちに“食の大切さ・楽しさ”を伝えられるよう、簡単な調理や野菜の収穫体験などを企画・実施します。
4. 管理栄養士の勤務先
2021年度の管理栄養士養成施設卒業生の就職先を見ると、病院が33.6%と最も高く、次いで企業、給食会社等、介護保険施設と続きます。
栄養士の就職先と比べると、児童福祉施設や学校といった献立作成・調理がメインとなる職場の割合は少なくなっています。反対に患者さんの栄養管理が必要な病院、特定保健指導をおこなう保健事業など、専門的な業務が求められる職場の割合が高くなっています。
なお、管理栄養士養成施設であっても、栄養士資格のみ取得して卒業する場合もあります。
病院
患者さんの栄養管理・指導をおこないます。病気の状態や症状は一人ひとり異なるため、医師の指導のもと必要な栄養量を計算して献立に反映します。
病院によっては医師・看護師・薬剤師・管理栄養士などの多職種から成る栄養サポートチーム(NST)を組んで、患者さんの治療に当たる体制が導入されています。NSTでは管理栄養士が中心となって、患者さんの栄養状態を改善し治療効果やQOLを高めます。
・保育所・幼稚園・学校
給食管理や食事指導をおこない、子どもの健康維持や成長をサポートします。子どもたちに食の大切さを伝える食育をおこなうことも大切な役割です。食材の収穫・観察・調理といった体験を通して、食に対する関心と知識を深めます。
介護施設
利用者さんの栄養管理をおこない、一人ひとりの状態や要介護度に合わせた食事を提供します。多くの介護施設では季節・行事に沿った食事が取り入れられており、栄養面だけでなく利用者さんに楽しんで食べてもらえるよう工夫することも求められます。
行政
保健所や保健センター、地方自治体などに勤務し、地域住民の健康づくりをサポートします。代表的な業務として、特定保健指導や乳幼児検診時の個別栄養相談などが挙げられます。
また災害時には被災地に派遣され、アレルギー対応食品や高齢者向けの食品、病気を患っている人向けの食品の提供、食に関して配慮が必要な人への個別栄養相談などをおこないます。
薬局・ドラッグストア
2016年に「健康サポート薬局制度」がスタートし、薬局は地域住民の健康をサポートする身近な存在となりました。それに伴い、管理栄養士は食事や栄養の面から地域住民をサポートしています。
健康相談、個別指導に対応することをはじめ、店内に設置してある血圧計や体組成計を使った測定のサポートや、測定結果から食事・栄養面のアドバイスをおこないます。そのほか、接客・レジ・品出しといった店舗業務も担当します。
企業
医療・福祉・食品関係の株式会社で給食メニューの企画や調理スタッフへの指導をしたり、一般企業の保健事業部に所属して社員の健康を管理します。
そのほか、歯科診療所で歯科助手業務や口腔疾患に関する栄養指導をする働き方もあります。
また、以前インタビューしたIさんはスポーツチーム専属の栄養士(公認スポーツ栄養士)として、選手たちの栄養面をサポートしています。
5. 管理栄養士の働き方
管理栄養士の一日
業務内容は勤務先によって異なります。病院で働く管理栄養士を例にすると、一日の流れはおおよそ次のとおりです。
管理栄養士の休日
勤務先によって異なります。朝・昼・晩の食事管理が365日必要な病院や介護施設は、早番・日勤・遅番などのシフト制を取り入れています。そのため、週休2日でも曜日が固定されていない場合や、4週8休となる場合があります。
保育所や学校の場合は基本的に土日祝休みとなり、夏季休暇・冬季休暇・年末年始休暇などの期間は休日となるケースが一般的です。
6. 管理栄養士の給料
ジョブメドレーに掲載されている求人から管理栄養士(栄養士含む)の賃金相場を算出しました。なお、残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
【全国平均】管理栄養士の時給・月給・年収の相場
2023年11月時点の全国の管理栄養士(栄養士含む)の時給・月給・年収の相場は次のとおりとなりました。
下限平均 | 上限平均 | 総平均 | |
パート・アルバイトの時給 | 1,126円 | 1,275円 | 1,190円 |
正職員の月給 | 19万9,632円 | 24万6,203円 | 21万8,411円 |
正職員の年収* | 279万4,848円 | 344万6,842円 | 305万7,754円 |
管理栄養士(栄養士含む)の給料は、勤続年数や勤務地によっても異なります。詳しくはこちらの記事をご確認ください。
>管理栄養士/栄養士の給料は低い?平均年収・月収・賞与の都道府県別、職場別ランキング
7. 管理栄養士の将来性
“食”は健康維持やQOLの向上に密接に関わっています。高齢化や生活習慣病の増加から健康意識・食への関心が高まっており、栄養面から人々の健康を支える管理栄養士は今後も幅広いフィールドでの活躍が期待されるでしょう。
また栄養のスペシャリストである管理栄養士は、糖尿病やがんなど特定の病気に特化した専門管理栄養士、スポーツ選手の栄養をサポートする公認スポーツ栄養士など、働く分野によってさらに専門性を深めることが可能です。あらゆる分野で必要とされる管理栄養士にとって、こうしたキャリアアップも一つの選択肢となっていくでしょう。
参考
- e-gov法令検索|栄養士法
- 藤原眞昭(2013年)『管理栄養士・栄養士になるには 』ぺりかん社