
1. 副業・兼業とは
・副業と兼業の違い
「副業」と「兼業」の定義は法律や公文書で決まっている訳ではありませんが、一般的に副業・兼業ともに「収入増を目的とした本業以外の仕事」を意味しています。
しかし、漢字の意味や本業との関係をふまえると、ニュアンスの違いがあるようです。「副業」は本業をメインとしているのに対し、「兼業」は本業とほぼ同等と捉える傾向にあります。
副業 | 兼業 |
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漢字の意味 副…つけ加える。ついでに起こる。 | 漢字の意味 兼…一つある上にもう一つ持つ。あわせ持つ。 |
本業との関係 労働時間や労力が本業に比べて少ない傾向。 本業>副業 | 本業との関係 労働時間や労力が本業とほぼ同等の傾向。 本業≧副業 |
・複業やダブルワークとどう違う?
ダブルワークは副業や兼業と同様、2つの仕事を掛け持ちしている状態。どちらも同じくらいの力と時間をかけていることが多いため、兼業とほぼ同義語と言えるでしょう。
一方、複業は数に限らず複数の仕事を持つことを意味します。それぞれにかける時間も労力も均等で、本業をいくつか持っているようなイメージに近いです。
2. 医療・福祉業界における現状
・副業・兼業をしている人の割合
労働政策審議会 (安全衛生分科会)がおこなった調査によると、副業(兼業)をしている人の割合は業種全体で9.7%。医療・福祉を本業とする人のうち、副業をしている人の割合は9.9%でした。医療・福祉業界においても一定の人が副業に取り組んでいることがわかります。

出典:労働政策審議会安全衛生分科会|副業・兼業に係る実態把握の内容等について
・副業・兼業をしている理由
医療・福祉を本業とする人が副業をしている理由は、多いものから「収入を増やしたい」「1つの仕事だけでは生活自体ができない」「自分で活躍できる場を広げたい」「時間のゆとりがある」となっています。収入を増やすことが大きな理由ではあるものの、スキルアップや時間を有効に活用する傾向があります。

出典:労働政策審議会安全衛生分科会|副業・兼業に係る実態把握の内容等について
・副業・兼業ではどんな仕事をしている?
経済産業省の調査によると、医療・福祉業界では同じ業種内での副業をおこなう人が多いことがわかります。需要が高いことから資格や経験を副業にも活かす傾向があると考えられます。

出典:経済産業省|労働市場の構造変化の現状と課題について
医療・福祉業界での副業には、従事者としての経験を活かしてメディアや書籍に記事を書く「医療・福祉系ライター」や、「他の施設や事業所での勤務」があります。本業とは異なる環境で働くことで、新たな考え方や価値観を得ることができるでしょう。
ジョブメドレーでインタビューした方の中にも、医療・福祉業界での副業経験がある方がいらっしゃいました。
公認心理師 兼 臨床心理士 Mさん
“現在は放課後等デイサービス2社、精神科クリニック、カウンセリングルームの仕事を掛け持ちしています。”
公認心理師と臨床心理士の資格を持つMさんは「形態の異なる事業所で幅広い経験を積みたい」という想いから、複数の職場で働くことを選んだようです。
歯科医師 Sさん
“最初の歯科医院で2年半勤務してたんですけど、忙しすぎて疲れたので、週1日ずつ4つの歯科医院のアルバイトを掛け持ちしてました。”
歯科医師のSさんは、それぞれ専門分野の異なる医院で技術を身につけるため、インプラント専門、子どもの矯正専門、一般歯科医院、自費診療の歯科医院での仕事を掛け持ちしたのち、勤務先を自費診療の歯科医院1つに絞っています。
管理栄養士 31歳女性
“学業と並行してパートで働ける医療法人に転職し、管理栄養士兼インストラクター兼リハビリ助手として、整形外科・内科クリニックとメディカルフィットネスクラブの2ヶ所で兼務しました。”
【管理栄養士インタビュー】31歳女性の履歴書・職務経歴書・志望動機・面接対策(給食委託→宅配食→クリニック&メディカルフィットネスクラブ→調剤薬局)より
この方は長年マラソンに取り組んでいたことから、副業として大学の駅伝部の栄養サポートの仕事に従事。「スポーツ栄養指導」の領域でのスキルアップに繋げています。
他業界と比べて同じ業種内での副業・兼業が多い医療・福祉業界ですが、異業種で副業・兼業している方も半数近くいます。八丈島で働く姫崎さんは、特別養護老人ホームの介護スタッフ、地域活動支援センターの支援員の仕事に加え、農業を営んでいます。
介護職員 姫崎さん
“1週間の働き方でいうと、週2で養和会の介護スタッフ・週1で地域活動支援センター・週3〜4で農業という感じですね。それぞれ非常勤なので、シフトに応じて休日を作っています。”
「自分の活躍の場を広げたい」「幅広い知見を身に着けたい」「知人に紹介されて」など、副業を始める経緯はさまざまです。仕事を選ぶ際は資格や経験だけでなく、目的や体力、労働時間を考慮するといいでしょう。
3. ガイドラインに記載されている注意点
実際に副業を始める際には、どのようなことに注意したらいいのでしょうか。 厚生労働省が発表している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に記載されている内容について説明します。
・【仕事を選ぶ前に】勤務先のルールを確認
まずは勤務先の就業規則で副業禁止されていないかを確認しましょう。副業が認められていても、上長への許可が必要な場合や、労働時間や業務内容が制限されている場合があります。就業規則違反とならないよう、定められたルールをしっかり把握しておきましょう。
・【仕事を選ぶときに】業務内容や就業時間は適切か
厚生労働省が定める「モデル就業規則」では、副業を禁止または制限できる場合を以下のように記載しています。
(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
- 1.労働提供上の支障がある場合
- 2.企業秘密が漏洩する場合
- 3.自社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
- 4.競業により、自社の利益が害される場合
厚生労働省|モデル就業規則第14章 副業・兼業
たとえば、同業他社で本業のノウハウや独自技術を流用することは「企業秘密が漏洩する場合」や「自社の利益が害される場合」に該当し、マルチ商法など法律に違反する副業をおこなうことは「信用を損なう行為」です。副業を選ぶ際は、業務内容が適切かを確認しましょう。
また、労働時間に関しても注意が必要です。一部の例を除き、労働時間は本業・副業を問わず労働基準法で定められた時間内に収める必要があるため、本業と副業の労働時間を通算しなくてはなりません。
労基法第38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む(労働基準局長通達(昭和23年5月14日付け基発第769号))とされている。
厚生労働省|副業・兼業に関するガイドラインP.9
法定労働時間の上限は1日8時間、週40時間。休日労働を含む時間外労働の制限は単月100時間未満、複数月平均80時間以内です。本業と副業を通算してこれらの範囲内に収まるか、副業を始めることで本業に支障が出ないか、あらかじめ確認しておきましょう。
なお、労働時間の通算方法については「副業・兼業促進に関するガイドライン」パンフレットに詳細が記載されています。
労働時間が通算されない仕事とは?
フリーランスや個人事業主などの指揮監督されない仕事は、労働基準法が適用されないため労働時間が通算されません。また、天候に左右されやすい農業など労働時間を定めることが難しい仕事は、労働基準法は適用されるものの労働時間規制は適用外となります。
【労働基準法が適用されない仕事】
フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事等
【労働基準法は適用されるが労働時間規制の適用除外の仕事】
農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度
・【仕事が決まったら】就業規則に従って届出を提出
副業の仕事が決まったら、勤め先の規定に従って副業・兼業内容を申告しましょう。職場と自身がお互いに納得感を持てるよう、十分なコミュニケーションをとることが重要です。「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、届出の様式例が記載されていますので確認しておくと安心です。

厚生労働省|「副業・兼業促進に関するガイドライン」パンフレットより
・【副業中の心がけ】業務量・健康状態の管理と報告
副業の仕事が始まったら、本業を含めた業務量や進捗、業務に費やす時間や健康状態を管理しましょう。基本的には自己管理が求められますが、勤め先が現状を把握できるよう自主的に報告をしておくと良いでしょう。
「マルチジョブ健康管理ツール」が便利!
厚生労働省では、副業をサポートする無料の管理アプリを提供しています。こうしたツールを活用することで、勤め先への情報共有がしやすくなります。
4. 社会保険や確定申告はどうなる?
・各種保険の加入について
雇用保険 | 一週間の所定労働時間が20時間以上、 継続して31日以上雇用される見込みがある場合に適用 |
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労災保険 | 本業、副業先の両方で加入 |
厚生年金 健康保険 | 事業所ごとで適用要件を判断 ※本業、副業先の労働時間を合算して適用判断しない |
雇用保険は「一週間の所定労働時間が20時間以上」かつ「継続して31日以上雇用されることが見込まれる場合」に適用されます。週の所定労働時間が20時間に満たない仕事を複数おこなう場合などは、適用外となるため注意が必要です。
なお、本業および副業先どちらも適用要件を満たしている場合は、給与が多い就業先での加入となります。
一方で労災保険は、本業と副業先の両方で加入します。今までは災害が発生した就業先の賃金に基づき給付額を算定していましたが、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)により、以下のように改められました。
- ・保険給付の金額…勤めている職場と副業先の賃金額を合算して算定する
- ・業務災害(業務上疾病)の認定…それぞれの職場での労働時間やストレス等を総合的に評価して判断する
- ・通勤災害の認定…職場からほかの職場への移動中に起こった災害は通勤災害として労災保険給付の対象になる
厚生労働省|副業・兼業に関するガイドラインP.19
厚生年金保険および健康保険の適用要件は事業所ごとに判断します。そのため、本業と副業・兼業先の労働時間を合算して適用要件を満たしたとしても、厚生年金保険と健康保険は適用されません。
・確定申告が必要な場合とは
副業で20万円を超える副収入がある場合は個人での確定申告が必要です。確定申告を忘れてしまうと、無申告加算税や重加算税、延滞税といった罰金が課されるため、副業先での収入をしっかり把握して必要な手続きをおこないましょう。
5. まとめ
副業に取り組むことで、今の職場を離れずに収入の安定や自身のスキルアップ、キャリア形成を目指せるといったメリットがあります。 その反面、ルールを正しく理解していないと本業の職場や副業先に迷惑をかけてしまう可能性も。副業を考えている方は、以下のチェックリストを活用しながら仕事を探してみてください。
副業の注意点チェックリスト
副業先を探す際に
- □勤務先のルールを確認したか
- □副業先の業務内容や就業時間は適切か
- □労働時間通算の対象か
- □副業先との労働契約の締結日、期間は?
- □副業先での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時間は?
- □副業先での所定外労働時間の有無、見込み時間数、最大時間数は?
- □副業先での実働時間等の報告方法は?
副業先での仕事が始まったら
- □届出や合意書を提出したか
- □本業と副業・兼業先での業務量や進捗を報告しているか
- □業務に費やす時間や健康を管理できているか
- □雇用保険が適用されるか
- □厚生年金・健康保険が適用されるか
- □確定申告が必要か
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