1.訪問美容(訪問理容)とは
サロンへ来られない方のもとを訪れ、美容サービスを提供する
訪問美容とは、高齢や病気などの理由でサロンへ行くことができない方のために、自宅・病院・施設を訪れてヘアカットなどの施術をおこなうサービスです。介護美容(介護理容)や福祉美容(福祉理容)と呼ばれることもあります。
美容と理容の違い
美容は美容師が提供するサービスです。主にヘアカット・ヘアセット・メイク・着付けなどをおこない、容姿を美しくします。
理容は理容師が提供するサービスです。主にヘアカット・ヘアセット・シェービングなどをおこない、容姿を整えます。
訪問美容が利用できるケース
美容(理容)サービスを提供できる場所には規制があり、保健所から認可を受けた美容所(理容所)でしか営業ができません。ただし、次のような特別な事情がある場合に限り、訪問美容のサービスが認められています*。
- 高齢、病気、障害などでサロンへ来ることが困難な場合
- 介護、育児でサロンへ来ることが困難な場合
- 結婚式の参列者などへの施術が必要な場合
- 山間部など、住んでいる地域にサロンがない場合
2.訪問美容で働くには
美容師免許/理容師免許が必須
訪問美容で働くには、訪問美容を提供しているサロンに入職するパターンと、自身で開業するパターンがあります。どちらの場合でも美容師免許あるいは理容師免許が必要です。美容師・理容師免許を取得するには、専門学校等を卒業したのち国家試験(筆記・実技)に合格しなければなりません。
訪問美容では介護の知識が求められる
訪問美容で働くために、介護に関する資格は必須ではありません。しかし高齢者や入院中の方、障がいを持った方などを対象とするため、施術では基礎的な介護の知識が求められます。
またケアマネジャーなどの専門職から依頼を受けることや、病院や施設へ訪問することもあるため、専門用語も理解しておきたいところ。そのため次のような資格や研修で、介護の知識を身につけることが一般的です。
〈介護職員初任者研修〉
介護職員の入門的な研修であり、年齢・学歴・保有資格を問わず誰でも受講できます。研修は講義と演習で構成され、研修時間は合計で130時間です。
受講資格
- とくになし
講習内容
- 職務の理解
- 介護における尊厳の保持・自立支援
- 介護の基本
- 介護・福祉サービスの理解と医療との連携
- 介護におけるコミュニケーション技術
- 老化の理解
- 認知症の理解
- 障害の理解
- こころとからだのしくみと生活支援技術 など
〈訪問福祉理美容師〉
一般社団法人日本訪問福祉理美容協会が認定する資格です。講習を受けることで取得できますが、受講には美容師または理容師免許が必要です。福祉や介護の基礎知識のほか、高齢者とのコミュニケーションや訪問美容の概要、施術時の注意点などを学ぶことができます。
受講資格
- 美容師または理容師免許の保有者
*厚生労働省指定の美容師・理容師養成教育機関を卒業し、美容師・理容師試験受験履修単位取得見込み証明が可能である者も可
講習内容
- 訪問美容とは
- 福祉・介護・医療等の基礎知識
- 訪問美容の準備
- 道具の取り扱い
- 施術時の注意
- 高齢者とのコミュニケーション
- 消毒・感染症等
>訪問福祉理美容師について詳しく知る
※一般社団法人日本訪問福祉理美容協会のページに遷移します
〈福祉理美容士〉
認証NPO法人日本理美容福祉協会が認定する資格です。テキスト学習や2日間の講習を経て取得できますが、受講には美容師または理容師免許が必要です。寝たきりのカット・シャンプー技法や、介助方法を学ぶことができます。
受講資格
- 美容師または理容師免許の保有者
講習内容
- テキスト学習
- レポート提出
- 講習(1日目:講義、2日目:実技)
>福祉理美容士について詳しく知る
※認証NPO法人日本理美容福祉協会のページに遷移します
3.訪問美容の仕事
サロンワークとの違い
訪問美容の仕事は、通常のサロンでおこなうサロンワークと大きく異なります。
訪問美容の利用者は、高齢や病気などさまざまな理由でサロンへ来られない方です。そのため施術前は必ず利用者の健康状態を確認します。傷病が施術に耐えられない状態の場合や、認知症の周辺症状による暴力がある場合などは、施術を見送ることがあります。
健康状態などに問題がない場合でも、施術中は常に利用者の状態・体調を確認し、身体への負担を考慮して短時間で施術をおこないます。
また訪問美容では、施術を受ける利用者本人だけでなく、家族や施設職員もお客さまです。3者の要望を取り入れてヘアスタイルなどを決めるのも、通常のサロンと異なる点の一つです。
施術の流れ・ポイント
自宅または介護施設にいる高齢者(寝たきりでない)のカットを例にすると、施術の流れは次のとおりです。

〈施術のポイント〉
準備
- 施術で使う道具には刃物が含まれるため、利用者の手が届かない距離かつ自分の目が届く安全な場所に配置する
- 利用者がつまずかないよう、コードなどの配線にも注意する
カウンセリング
- 利用者・家族・施設職員の要望を聞き、イメージをすり合わせる
- 髪の長さは「耳周りは耳たぶが見えるくらい」「前髪は眉毛にかかるくらい」など具体的に示して明確にしておく
- 肌に傷・かさぶた・湿疹などがないか、毛髪にからみ・切れ毛がないかも確認する
施術
- 衛生面・安全面に配慮する
- 複数の利用者を施術する場合は、都度手指と器具を消毒する
仕上げ
- 切り残しがないか確認する
- 利用者・家族・施設職員が満足しているか確認する
〈こんなときどうする?〉
シャンプーは?
切った髪の毛が残らないよう、基本的には施術後におこないます。自力で座れる利用者の場合は、自立支援の観点から入浴時に自身でよく頭を洗ってもらうように促します。
訪問美容では、車イスやリクライニングタイプのイスで使える移動式シャンプー台を利用することもあります。利用者が身体を後ろに倒せない場合は、訪問先の洗面台やお風呂場で前向きに流します。
利用者と家族・施設職員の要望が異なったら?
例えば利用者が満足していても、家族や施設職員から「もう少し切ってほしい」と言われるなど、要望が異なる場合には両者の希望を取り入れるようにします。このケースでは家族や施設職員から「なぜもっと短く切ってほしいのか」を聞き出すことが大切です。
- 頻繁に頭を洗うことができないから
- 頭皮に皮膚疾患があり、髪が長いと悪化してしまうから
- 髪が長いとハネやすくなるから
など、要望の本質を明らかにしながら全員に納得してもらうよう心がけます。
4.訪問美容の給料・求人の募集要項
ジョブメドレーに掲載されている求人を例に、訪問美容(理容)で働く美容師・理容師の給料を紹介します。
美容師
関東の訪問美容事業所の場合
- 給与:月給 145,000円 〜 200,000円
*皆勤手当、通勤手当別途支給 - 雇用形態:正職員
- 応募要件
- 美容師免許
- 普通自動車運転免許
北海道の訪問美容事業所の場合
- 給与:時給 1,000円 〜 1,200円
- 雇用形態:パート
- 応募要件
- 美容師免許
- 普通自動車運転免許
理容師
九州の訪問理容事業所の場合
- 給与:月給 162,000円 〜 165,000円
*通勤手当別途支給 - 雇用形態:正職員
- 応募要件
- 理容師免許
- 3年以上の経験がある方
関東の訪問理容事業所の場合
- 給与:時給 1,100円〜2,000円
- 雇用形態:パート
- 応募要件
- 理容師免許
- 普通自動車運転免許
5.訪問美容の将来性
団塊世代が後期高齢者となる2025年以降は、介護や医療の需要が一層増すことが見込まれます。また在宅医療・介護を望む高齢者も多いことから、訪問美容は今後もニーズが高まっていくでしょう。
髪を切る、おしゃれをする、身だしなみを整えることはQOL(Quality of Life)の向上にもつながり、生きるうえでとても大切なことです。美容師・理容師免許を活かして新たな領域へチャレンジしたい方は、訪問美容で働くことを検討してみてはいかがでしょうか。