2022年2月開始、保育士の賃上げ補助金とは
2022年2月から「保育士等処遇改善臨時特例交付金」が始まりました。保育に携わる職員の月額給与を平均9,000円上げる政策です。保育に携わる職員からは「自分の勤務先は賃上げが実施されるのか」「いくら支給されるのか」など不安の声が飛び交いました。
保育士等処遇改善臨時特例交付金の支給条件
- 補助額の全額を賃金改善に充てること
- 賃金改善について最低でも改善額全体の3分の2以上を基本給または決まって毎月支払われる手当によりおこなうこと
- 賃金改善の計画書・実績報告書を市町村に提出すること
保育士等処遇改善臨時特例交付金の対象施設
- 保育所
- 幼稚園
- 認定こども園
- 家庭的保育事業
- 小規模保育事業
- 居宅訪問型保育事業
- 事業所内保育事業
- 特例保育を行う施設
※公立の施設・事業所も対象
参考:内閣府|保育士・幼稚園教諭等を対象とした処遇改善(令和4年2月~9月)について
「やらない理由がなかった」保育士の社会的地位向上のために
今回は実際に賃上げを実施した株式会社グローバルキッズを取材し、実施に至るまでの経緯やその後の対応について聞きました。
話を聞いたのは株式会社グローバルキッズの本部に勤める松元広宣さんです。グローバルキッズは東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪で、保育所・認定こども園・学童保育(放課後児童クラブ)・児童発達支援・児童館など160以上の施設を運営しています。
話を聞いた人
株式会社グローバルキッズ 人事部
松元広宣さん
──まず、今回の処遇改善政策が発表されたときの第一印象はどうでしたか?
松元さん:保育士がクローズアップされる政策が実現したのは喜ばしいことだなと感じました。
グローバルキッズでは創業当初から、代表自ら「保育士の処遇を上げていくんだ」と言っていて、我々も同じ思いで取り組んでいます。
──では今回の処遇改善も「是非やろう!」と。
はい。代表の思いからも、やらない理由がなかったと言いますか、検討の余地がなかったです。
保育士の社会的地位が向上する──子育てに必要不可欠な職業として、もっと認知されることにもつながりますし。
──申請を担当したのは?
私が所属する本部が全施設の申請を担当しました。本部というのは、新規園の開園・園の運営サポート・職員の採用・新規事業・財務といった会社全体の運営に関わるバックオフィスの役割を担っている部署の総称です。
支給額や対象職種について
──職員への支給がスタートしたのは何月ですか?
まずは3月末に一時金として、2〜3月分を支給*しました。
──一時金の支給額はいくらほど?
各園への交付額が園児数に応じて算出されるため、園によって異なりますが、全体を平均すると正職員1人あたり月額9,000円ほどですね。看護師や栄養士、事務員など、保育に携わるすべての職種が支給対象です。
──支給額は雇用形態によって異なるのでしょうか。
所定の勤務時間が違いますので、パート職員の方への支給額や支払い方法は正職員と異なっています。今回の補助金を財源とした手当を、一時金として9月末に支給予定です。
──グローバルキッズでは保育所以外の施設も運営していますが、それらの施設でも同様に賃上げを?
はい。学童や児童発達支援などの施設でも同様に実施しました。施設業態などによって計算方法に違いはあるものの、平均して正職員1人あたり9,000円というのは保育所と変わらないですね。
──保育所以外の施設でも、全職種が支給対象ですか?
そこが課題ではありました。
例えば児童館の場合は中高生も利用するので、保育に関わらない職員もいるんですが、そういった職員は今回の特別交付金においては対象外となっているんです。
でも保育に関わらない職員に対しても、会社から補填して支給しました。なので今回の処遇改善をきっかけに、グローバルキッズの全職員がベースアップしていますよ。
──なるほど。2〜3月は一時金として支給したとのことですが、4月以降の支給額はどうでしたか?
正職員の保育士へは、平均で6,000円ほどを支給しています。今回の処遇改善の要綱に「総額の2/3以上を支払うこと」とある通りですね。残った1/3の金額は、9月末にパート職員を含めた全職員に一時金として支給します。
──今回の処遇改善は9月までですが、10月以降の計画は?
現時点で想定しているプランはありますが、行政から10月以降についての通知が来次第、内容を加味したうえで今後検討していく予定です。
円滑に対応できたのが一番の成功

──賃上げ実施に関して、職員のみなさんへどのように周知しましたか?
やはり政策発表当時から「1人あたり9,000円」が一人歩きしていて。園児の利用状況や職員の配置状況によっては9,000円とは限らないというのを、みなさんに理解してもらえるように丁寧に説明をしました。
具体的には、施設長が出席する月例会議で1〜3月まで毎回説明をしていました。現場の職員へは施設長から伝えてもらい、支給の際にも給与明細に説明を入れて改めて周知しました。
──早々に周知したんですね。では職員の方からの問い合わせもなく?
1月にすぐ「やります」という意向を周知したので混乱はなかったですね。ただ、周知を始めた1月時点では、パート職員が対象になるかが決まっていなかったので、その辺りへの問い合わせはありました。現時点では職員のみなさんにご理解いただいているかと思います。
今思うと、円滑に対応できたことが一番良かったことなのかなと感じています。職員のみなさんが納得してくれて良かったなと安堵していますね。支給される職員の立場にたって、あらゆる状況を想定しながら運用したことが、会社としてうまくできている証拠かなと思います。
スムーズに対応できたのは会社の強みを活かしたから
──準備期間が短いなか、意思決定や周知などの対応がスムーズにできたのは「本部」の存在が大きいのでしょうか?
そうですね。行政から今回の処遇改善の通知をいただいたのが2021年のクリスマス頃。そこから2ヶ月ほどの準備期間で実施までたどり着けたのは、本部という機能と、本部メンバーの現場に対する思いがあったからこそだと思います。
グローバルキッズでは保育以外の業務を本部に集約していて、現場の職員が保育に集中してもらえるような体制が整っています。それが今回の迅速な対応に活かせましたし、会社としての強みかなと感じています。
──同業他社の方と今回の処遇改善に関して情報交換することは?
同じくらいの事業規模の会社さんと話をすることはありました。事業規模が大きい分、動く金額も大きいので、スピードが求められるなかでも慎重に検討していましたね。
今回の処遇改善では何億という数字を計算しましたし、給与規定を改定する必要がありましたので、ギリギリまで社労士に相談していました。
──最後に、国の政策に今後期待することがあれば教えてください。
現場のみなさんの希望としては、今あるいろんな補助金や支援制度が、今後も継続的におこなわれる、または児童福祉のあり方が抜本的に見直されることだと思います。
そんな中でも今回の政策で、保育に携わる職種の必要性──社会的な注目度が、コロナの影響もあって再認識されたので、それが今後も続いていくといいなと思います。保育士は子どもたちの未来につながるサポートをするお仕事ですので。
終わりに
代表自ら「保育士の処遇を上げたい」と掲げているグローバルキッズ。今回の処遇改善も実施決定に迷いがなく、その裏側では急ピッチで対応を進める本部の姿がありました。
公定価格を基に運営される保育所。国が定める制度下で職員の賃金を上げるのは簡単なことではありません。松元さんが言うように、保育に携わる職種の社会的地位の向上が、今後も続いていくことが期待されます。