目次
1.診療看護師(NP)とは?
従来より幅広い診療医行為ができる看護師
診療看護師とは、大学院の診療看護師養成課程(修士)を修了し認定試験に合格した、一定の診療をおこなうことができる看護師です。米国で1960年代に広まったナースプラクティショナー(NP)の日本版にあたり、2010年度から試験が始まりました。
ドラマ『ザ・トラベルナース』で岡田将生さんが演じたトラベルナース・那須田歩もナースプラクティショナーの資格を持っている設定です。
>インタビュー記事はこちら
岡田将生と中井貴一が明かすドラマ『ザ・トラベルナース』の舞台裏「看護師の所作に嘘があってはいけない、それがドラマのあり方」
国内では(一社)日本NP教育大学院協議会が認定しており、2024年3月時点の認定者数は872人、うちプライマリ領域(成人・老年、小児)が198人、クリティカル領域が674人となっています。
看護師としてのスキルに加えて初期医療の知識・技術を身につけることで、医療現場のタスクシフトや、在宅医療などでの医師不在時の迅速な対応、医師と多職種の橋渡しなどさまざまな役割が期待されています。
また、診療看護師の勤務先は病院が最も多く、ほかに診療所や訪問看護などがあります。

診療看護師のメリット
タイムリーな処置が可能に
診療看護師は、医師があらかじめ作成した包括指示に基づき、従来の看護師ではおこなえなかった特定行為を自律的に判断し、タイムリーに実施できます。
とくに訪問看護など在宅医療の現場では医師が不在の場面も多く、指示を待つのに時間がかかってしまいます。患者の負担になる処置の遅れを減らし、看護師の業務時間の短縮にもつながります。
資格手当がつくことが多い
日本NP教育大学院協議会が公開する「令和5年度 診療看護師(NP)活動実態調査報告」によると、手当があるのは66%、看護師と別の俸給表が設定されているのは9%と、7割以上の診療看護師が何らかの手当や加算を受けています。

2.診療看護師になるには
実務経験と修士号取得・試験合格が必要
診療看護師になるためには、看護師として5年以上の実務経験を有し、かつ大学院修士課程を修了してNP資格認定試験に合格する必要があります。日本国内の大学院修士課程NP養成コースを修了(見込でも可)または、海外のNP資格取得者であれば、NP認定試験を受験することができます。

試験内容
受験領域は診療看護師論などの共通科目と、プライマリ・ケア(成年・老人または小児)、クリティカルのいずれか一つを選択して回答する領域別部分で構成されています。筆記試験のみで、実技試験はありません。
出題科目は下記のとおりです。
- NP(診療看護師)論
- 疾病予防・健康増進
- 医療倫理
- 医療安全・関係法規
- 病態機能学
- 臨床薬理学
- クリニカルアセスメント
- クリニカルマネジメント
診療看護師養成課程がある大学院一覧
2025年4月時点でNP養成コースがある大学院は下記の19校です。
- 学校法人 北海道医療大学大学院
- 国立大学法人 秋田大学
- 学校法人 東北文化学園大学大学院
- 国立大学法人 山形大学大学院
- 学校法人 東京医療保健大学大学院(看護学研究科)
- 学校法人 国際医療福祉大学大学院
- 学校法人 佐久大学大学院
- 学校法人 藤田医科大学大学院
- 学校法人 愛知医科大学大学院
- 公立大学法人 島根県立大学大学院
- 公立大学法人 大分県立看護科学大学大学院
- 国立大学法人 富山大学大学院
- 学校法人 東京医療保健大学大学院(医療保健学研究科)
- 学校法人 令和健康科学大学大学院
- 国立大学法人 大阪大学大学院
- 学校法人 聖隷クリストファー大学大学院
- 公立大学法人 名古屋市立大学大学院
- 学校法人 純真学園大学大学院
- 学校法人 帝京大学大学院
3.診療看護師と特定看護師の違い
特定看護師(特定行為研修を修了した看護師)は、特定行為をおこなうために指定研修機関で必要な研修を修了した看護師です。特定行為には21区分38行為があり、それぞれ区分ごとに研修があります。研修を修了することで受講した区分の特定行為が実施できるようになります。
診療看護師は、日本NP教育大学院協議会が認定する民間資格です。特定行為を含む診療行為(絶対的医行為を除く)を、医師の包括的指示のもとで迅速に実施するための教育を大学院修士課程で受けており、患者が満足できる質の高いケアとキュア(治療をとおして患者とその家族を支援すること)を提供し、医療現場の効率化に貢献します。
特定行為とは
特定行為とは、「看護師が手順書によりおこなう診療の補助で、実践的な理解力、思考力および判断力並びに高度かつ専門的な知識および技能がとくに必要とされる」ものをいい、21区分38行為が定められています。
医行為は医師のみができるいわゆる「絶対的医行為」と、医師の指示のもと看護師がおこなえる「相対的医行為」があり、特定行為は相対的医行為の中で高度なものの区分と具体的な行為を明示したものです。
区分 | 特定行為 |
---|---|
呼吸器(気道確保に係るもの)関連 | ・経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整 |
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | ・侵襲的陽圧換気の設定の変更 ・非侵襲的陽圧換気の設定の変更 ・人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整 ・人工呼吸器からの離脱 |
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | ・気管カニューレの交換 |
循環器関連 | ・一時的ペースメーカの操作及び管理 ・一時的ペースメーカリードの抜去 ・経皮的心肺補助装置の操作及び管理 ・大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整 |
心嚢ドレーン管理関連 | ・心嚢ドレーンの抜去 |
胸腔ドレーン管理関連 | ・低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更 ・胸腔ドレーンの抜去 |
腹腔ドレーン管理関連 | ・腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された 穿刺針の抜針を含む) |
ろう孔管理関連 | ・胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換 ・膀胱ろうカテーテルの交換 |
栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 | ・中心静脈カテーテルの抜去 |
栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 | ・末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入 |
創傷管理関連 | ・褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去 ・創傷に対する陰圧閉鎖療法 |
創部ドレーン管理関連 | ・創部ドレーンの抜去 |
動脈血液ガス分析関連 | ・直接動脈穿刺法による採血 ・橈骨動脈ラインの確保 |
透析管理関連 | ・急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析濾過器の操作及び管理 |
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 | ・持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整・脱水症状に対する輸液による補正 |
感染に係る薬剤投与関連 | ・感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与 |
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 | ・インスリンの投与量の調整 |
術後疼痛管理関連 | ・硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整 |
循環動態に係る薬剤投与関連 | ・持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整 ・持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整 ・持続点滴中の降圧剤の投与量の調整 ・持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整 ・持続点滴中の利尿剤の投与量の調整 |
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 | ・抗けいれん剤の臨時の投与 ・抗精神病薬の臨時の投与 ・抗不安薬の臨時の投与 |
皮膚損傷に係る薬剤投与関連 | ・抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整 |
4.診療看護師の活躍に期待
診療看護師になるには最短でも7年かかり、合格後は通常より広い範囲の判断力や責任が求められます。負担は大きいですが、それだけやりがいのある働き方ともいえるでしょう。
医師と多職種間のタスクシフトが進む昨今、診療看護師は課題解決のキーマンになり得る存在です。在宅医療・介護の現場でも、診療看護師のスキルが必要とされる場面は多々あります。活躍の場は今後ますます増えるのではないでしょうか。