目次
1.「年収の壁」とは税金や控除の境目となる金額
年収103万円などの「壁」とは、税金や社会保険料が発生する境目となる年収額を指します。いくらまでは税金がかからない、いくらからは社会保険料を払うといった段階を「壁」にたとえた表現で、正式な制度名ではありません。

ある額を境に税金などが発生するため、アルバイトやパート、時短勤務などで「壁」付近の収入になりそうな場合は、超えないように調節したほうが負担を少なくできることがあります。
※この記事では、とくにことわりのない限り年収=給与収入として扱います
「年収の壁」の理解に役立つ用語解説
これから登場する103〜201万の壁に関係する用語を説明します。知っておくとわかりやすいですが、ここを飛ばして各見出しから気になる「壁」の説明を読んでもOKです。
所得税
所得税とは「もうけ」にかかる税金です。一年間に稼いだ金額全体から経費を引いた、いわば純粋なもうけのことを「所得」といいます。考え方としては、稼いだお金全体ではなく「所得」に含まないものを除いて最終的に所得と認められた金額に対して税金がかけられます(課税)。
所得税は、より多くの金額を稼いでいる人がより多く負担する累進課税制度を採用しており、最低5%から最高45%まで、段階的に設定されています。
社会保険料
いざというときや老後の生活を支える医療保険、年金、介護保険をまとめて「社会保険」といい、国民全体で少しずつその費用を負担しています。これが社会保険料です。
社会保険料は収入額に応じて細かく負担額が分かれているほか、収入のない(少ない)人の社会保険料をその家族が代わりに負担することもできるようになっています。
控除
控除とは、年収などからある決まった金額を差し引くことをいいます。そのため税金や社会保険料の計算上、決まった金額を差し引くときに「◯◯控除」という名称で用いられます。
「所得控除」は所得から差し引くことができる項目全般をいい、所得控除された分だけ税金がかからずに済みます。配偶者控除や扶養控除は「所得控除」の一種です。「社会保険料控除」は、自分のほかに身内の社会保険料を支払っている場合、その代わりに所得控除を受けられることをいいます。
2.「103万の壁」は配偶者控除・扶養控除・所得税なしの上限

配偶者控除・扶養控除適用の上限
年収103万円は、配偶者控除・扶養控除の対象の上限となる金額です。これらはどちらも「身内を養う人の所得税がかかる金額を減らし、税負担を軽くする制度」であり、その線引きが年収103万円ということです。
なお、どちらも控除を受けられる(税金が安くなる)のは年収103万円以内の本人ではなく、その配偶者や親など「養っている側」の人になります。
養っている人(納税者)と配偶者・扶養親族が同一生計であること、青色申告・白色申告の事業専従者でないことなど、主な条件は同じです。
控除がなくなると税金が増える
配偶者控除・扶養控除に関しては、扶養する人(養う人=納税者)の所得控除が適用されなくなるため税金がかかる所得が増え、その分税金が増えます。配偶者控除・扶養控除それぞれで、年齢や納税者の収入により所得控除額が異なります。
本人の所得税が発生(非課税の上限)
また、年収103万円を超えると、本人の所得税が発生します。稼いだ最初の48万円は「基礎控除」となり、所得税は課税されません。また、給与収入であれば最初の55万円が「給与所得控除」として課税されないため、この2つを合算した103万円までが所得税がかからない収入になります。
年収に交通費は含まれる?
所得税の対象となる年収に交通費は含まれません。通勤手当は月15万円まで(車通勤の場合距離に応じ月3万1,600円まで)非課税と定められています。
103万を超えたらいくら払うのか
課税所得の5%
本人に関しては、103万円を超えた分、つまり課税される所得が1,000円〜194万9,000円の間は5%の所得税がかかります。
たとえば年収104万円の場合、
課税所得(104万円−103万円)×所得税率(5%)=10,000円×0.05=500円
となります。同様に年収120万円であれば、課税所得が17万円になるので支払う所得税は8,500円です。
3.「106万の壁」は社会保険加入の最低ライン

月収8万8,000円以上だと社会保険料が発生する
月の給与収入が8万8,000円以上だと、社会保険の加入対象となり社会保険料が発生する場合があります。8万8,000円×12ヶ月=105万6,000円で、キリの良い目安として「106万円の壁」と呼ばれています。
社会保険の加入対象となる条件は以下のとおりで、すべてを満たしていれば該当します。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8万8,000円以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
106万を超えたらどうなる?
このように、社会保険の加入条件は複数あるため、一度ある月の給与収入が8万8,000円を超えたからといって必ず社会保険料の支払いが生じるわけではありません。全員が社会保険料支払いの義務が生じるのは年収130万円からです(4.「130万の壁」は社会保険の扶養が外れる で解説します)。
ただし、上記の4条件に該当した場合は、年収130万円以下でも社会保険が適用されます。社会保険料は健康保険料と厚生年金保険料からなり、適用されると給与から天引きされます。
かえって手取りが減ることもある

(例)月給10万3,000円の場合
社会保険料額=健康保険料5,200円+厚生年金保険料9,516円=14,716円
40歳以上の場合、介護保険料も加わるため健康保険料が6,146円となり、合計15,662円となります。
※2023年東京都の保険料
このケースでは、月給は8万8,000円から1万5,000円増加しているもののそのほとんどが社会保険料にあたり、40歳以上では手取りで662円のマイナスとなります。とくに時給制で働いている場合は、労働時間が増えたのに手取りが減るという状況になってしまいます。
しかし、月給10万3,000円以上(40歳以上は10万4,000円以上)になると給与の増加分が社会保険料を上回り、少しずつ手取りが増えることになります(2023年東京都の場合)。社会保険料を支払うと自身で健康保険を利用でき、将来の年金も増えるため手取りが減ったからといって総じて「損」だとは言い切れませんが、仕事の負担に対して手元の収入が減ってしまうとモチベーションに影響するのも事実です。
年収103万円を超えた場合の所得税は低額なので、時短やパート勤務で仕事量を調節する場合は「106万円を超えずに働く」か「思い切って仕事量を増やし、社会保険料で手取りの逆転が起きないようにする」のがベターかもしれません。
tips|「106万円の壁」撤廃に向け議論開始
厚生労働省は「106万円の壁」撤廃に向けた議論を進めています。実現した場合、手取りや厚生年金の加入要件、そして企業の社会保険料負担にどのような影響が及ぶのか、2024年11月時点の情報をもとに詳しく解説します。
4.「130万の壁」は社会保険の扶養が外れる

年収130万円になると、社会保険の扶養から外れ、自身で社会保険料(健康保険、厚生年金)を負担しなくてはなりません。
社会保険の扶養とは、以下の条件に当てはまる場合に、社会保険料の負担なく家族の社会保険に加入できる仕組みです。
- 年収130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年収180万円未満)
- 同居の場合、収入が扶養する人の半分未満
- 別居の場合、収入が扶養する人からの仕送り額未満
なお、扶養される人(被扶養者)の収入が扶養する人の収入の半分より多い場合でも、扶養する人がメインで家計を支えていると判断される場合は、社会保険の扶養対象となります。
年収130万円は過去の収入ではなく年間の見込み収入で認定され、月給10万8,333円にあたります。つまり、月給10万円を超えてくると働く条件により社会保険料が発生する場合があり、月給約11万円になると働き方にかかわらず社会保険料を支払うことになります。
コラム|年収の壁・支援強化パッケージとは
2023年10月から、年収の壁対策として以下の施策が実施されています。
106万円の壁対応:106万円を超えた場合の手取り減少を補填する企業に対し、労働者1人あたり最大50万円の助成
130万の壁対応:本来年収130万円を超えない額面だが繁忙期などで一時的に収入が上がった場合、合計130万円以上になっても事業主の証明により社会保険の扶養から外れないようにできる
5.「150万の壁」は配偶者特別控除が満額となる上限
150万の壁は、配偶者が満額の配偶者特別控除(38万円分)を受けられる上限額です。
配偶者特別控除は段階的に金額が少なくなるよう設定されており、合計所得金額95万円までは、その配偶者が受けられる所得控除が38万円に設定されています。自身が年収150万円の場合、給与所得控除を引いた合計所得金額が95万円となります。

6.「201万の壁」は配偶者特別控除の上限

段階的に減少する配偶者特別控除がゼロとなるのが年収201万円以上(合計所得金額133万円以上)です。自身の年収が201万円以上になると、配偶者の収入にかかわらず配偶者特別控除はなくなります。
7.時短やパート勤務は「壁」に気をつけよう
年収103万円から201万円にかけて、所得税や配偶者控除、社会保険料の有無により「壁」がいくつもあります。場合によっては年収が増えても手取りが減ることがあるため、「壁」付近になりそうなときは少し労働量を抑えるか、思い切って増やしてしまうほうが得に感じられる場合があります。
200万円以内で働く人は、「壁」にあたるのかチェックしてみてください。