目次
1.特定行為看護師とは
特定行為看護師とは、厚生労働省の「特定行為に係る看護師の研修制度」を修了した看護師を指します。法律上、「特定行為看護師」や「特定看護師」という資格は存在しません。
特定行為は21区分38行為があり、それぞれの区分ごとに研修が設けられています。修了した特定行為に限り、医師があらかじめ用意した手順書に基づいて自律的に実施することが認められています。
特定行為とは
特定行為の21区分38行為は次のとおりです。
特定行為区分 | 特定行為 |
---|---|
1.呼吸器(気道確保にかかるもの)関連 | 1.経口用気管チューブまたは経鼻用気管チューブの位置の調整 |
2.呼吸器(人工呼吸療法にかかるもの)関連 | 2.侵襲的陽圧換気の設定の変更 |
3.非侵襲的陽圧換気の設定の変更 | |
4.人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整 | |
5.人工呼吸器からの離脱 | |
3.呼吸器(長期呼吸療法にかかるもの)関連 | 6.気管カニューレの交換 |
4.循環器関連 | 7.一時的ペースメーカの操作および管理 |
8.一時的ペースメーカリードの抜去 | |
9.経皮的心肺補助装置の操作および管理 | |
10.大動脈内バルーンパンピングからの離脱をおこなうときの補助の頻度の調整 | |
5.心嚢(のう)ドレーン管理関連 | 11.心嚢(のう)ドレーンの抜去 |
6.胸腔ドレーン管理関連 | 12.低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定およびその変更 |
13.胸腔ドレーンの抜去 | |
7.腹腔ドレーン管理関連 | 14.腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿刺針の抜針を含む) |
8.ろう孔管理関連 | 15.胃ろうカテーテルもしくは腸ろうカテーテルまたは胃ろうボタンの交換 |
16.膀胱ろうカテーテルの交換 | |
9.栄養にかかるカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 | 17.中心静脈カテーテルの抜去 |
10.栄養にかかるカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 | 18.末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入 |
11.創傷管理関連 | 19.褥瘡(じょくそう)または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去 |
20.創傷に対する陰圧閉鎖療法 | |
12.創部ドレーン管理関連 | 21.創部ドレーンの抜去 |
13.動脈血液ガス分析関連 | 22.直接動脈穿刺法による採血 |
23.橈(とう)骨動脈ラインの確保 | |
14.透析管理関連 | 24.急性血液浄化療法における血液透析器または血液透析濾(ろ)過器の操作および管理 |
15.栄養および水分管理にかかる薬剤投与関連 | 25.持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整 |
26.脱水症状に対する輸液による補正 | |
16.感染にかかる薬剤投与関連 | 27.感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与 |
17.血糖コントロールにかかる薬剤投与関連 | 28.インスリンの投与量の調整 |
18.術後疼(とう)痛管理関連 | 29.硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与および投与量の調整 |
19.循環動態にかかる薬剤投与関連 | 30.持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整 |
31.持続点滴中のナトリウム、カリウムまたはクロールの投与量の調整 | |
32.持続点滴中の降圧剤の投与量の調整 | |
33.持続点滴中の糖質輸液または電解質輸液の投与量の調整 | |
34.持続点滴中の利尿剤の投与量の調整 | |
20.精神および神経症状にかかる薬剤投与関連 | 35.抗けいれん剤の臨時の投与 |
36.抗精神病薬の臨時の投与 | |
37.抗不安薬の臨時の投与 | |
21.皮膚損傷にかかる薬剤投与関連 | 38.抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整 |
厚生労働省の「特定行為研修を修了した看護師数(特定行為区分別)」によると、2023年時点で特定行為看護師は6,875人で、なかでも「栄養および水分管理にかかる薬剤投与関連」の行為区分を受講した看護師が最も多い5,611人という結果でした。次いで呼吸器(人工呼吸療法にかかるもの)関連が2,868人、創傷管理関連が2,513人でした。病院や訪問先で実施頻度が高い区分の受講が多いことがわかります。
特定行為看護師と認定看護師・専門看護師の違い
特定行為看護師と似た制度に、認定看護師と専門看護師があります。それぞれの内容は次のとおりです。
・認定看護師
看護現場のスペシャリストとして、高度な看護技術を活かした看護や後進の指導に従事します。
・専門看護師
熟練した看護技術を用いて看護を実践する人を指し、看護職の教育や医師と患者、地域の各機関との調整役も担います。
特定行為看護師 | 認定看護師 | 専門看護師 | |
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種類 | 修了証の交付 | 資格の付与 | 資格の付与 |
必要な経験 | おおむね3〜5年以上の実務経験 | 5年以上の実務経験があり、うち3年以上は認定看護分野に従事 | 5年以上の実務経験があり、うち3年以上は専門看護分野に従事 |
条件 | 指定研修機関で21区分38行為のうち選択した研修を修了し、試験に合格 | A課程の場合615時間以上、特定行為研修を含むB課程の場合には800時間程度の認定看護師教育を修了し、認定看護師認定審査に合格 | 看護系大学院修士課程を修了し、必要な単位の取得後に、専門看護師認定審査に合格 |
役割 | 手順書内にある処置の実施 ※修了した特定行為の区分・行為に限る | 実践、指導、相談 | 実践、相談、調整、倫理調整、教育、研究 |
>認定看護師、専門看護師それぞれの目的やより詳しい違いはこちらをチェック
2.特定行為看護師になるには
厚生労働省が指定した特定行為研修をおこなう学校や病院などで研修を受け、筆記試験に合格することで特定行為看護師になれます。特定行為研修には、すべての区分に共通する知識や技術の向上をはかる共通科目(250時間)と、区分ごとに異なる知識や技術の向上をはかる区分別科目(5〜34時間)があり、いずれの研修も受講が必要です。
また、2020年の保健師助産師看護師法の改定により実施頻度が高い特定行為をパッケージ化し研修することが可能になりました。これにより、領域ごとに定められている一部の特定行為の研修が免除されます。
受講にかかる費用は30〜250万円と高額ですが、研修の実施機関が厚生労働省の指定を受けていれば、以下の支援制度が利用できます。
- 教育訓練給付:一定の要件を満たした雇用保険の被保険者、または被保険者でなくなってから1年以内であれば受講費用の4割(上限20万円)を受給できる
- 人材開発支援助成金:事業主が雇用者に専門的な知識および技能の習得のための訓練等を計画的に実施した場合、受講費用や受講期間中の賃金の一部が助成される
- 地域医療介護総合確保基金:いくつかの都道府県では、受講生や受講生が所属する施設に対して、受講料や代替職員を雇用するための費用を支援
特定行為研修をおこなっている機関は222ヶ所あり(2020年時点)、すべての研修がeラーニングで実施されるところもあれば、登校が必要なところなど受講方法はさまざまです。受講期間も各機関ごとに異なりますので、業務と両立ができるよう職場と相談のうえスケジュールを立てましょう。
研修を実施している指定研修機関はこちらから探せます
3.特定行為看護師がいることで変わること
必要な処置を素早く提供できる

特定行為看護師になることで、医師があらかじめ作成した手順書をもとに看護師の判断で特定行為がおこなえます。手順書には主に以下の内容が記載されています。
- 看護師に診療の補助をおこなわせる患者の病状の範囲
- 診療の補助の内容
- 当該手順書にかかる特定行為の対象となる患者
- 特定行為をおこなうときに確認すべき事項
- 医療の安全を確保するために医師または歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制
- 特定行為をおこなったあとの医師または歯科医師に対する報告の方法
診療報酬加算の対象になる
2022年度の診療報酬改定では、特定行為研修修了者の活用の推進と評価が新設されました。これにより訪問看護における褥瘡ケアにかかる専門の研修を受けた看護師が看護を実施した場合や、医師が手順書を作成した場合に加算されるようになりました。
給料アップが見込める
特定行為研修を修了すると給与が上がるところや、受講中の給与も勤務扱いとして支給されるなど金銭面のサポートをおこなっているところがあります。ジョブメドレーに掲載中の求人にも、「所得補償」や「研修費用等の補助」が明記されているものもあります。また、給与面だけでなく、特定行為看護師であることが歓迎要件に記されている求人もあり、転職活動で有利に働くことも期待できます。
4.スキルアップや質の高い医療の提供につながる
特定行為研修は専門性の高い知識や技術を習得できる研修制度です。研修を修了することでより高度な医療技術の提供や、迅速な処置提供による患者の苦痛軽減につながります。また、医師の負担軽減策であるタスクシフトを担うなど、活躍の機会が見込まれます。
高齢化や在宅医療の推進、病床数の削減、医療従事者不足など医療現場を取り巻く課題はさまざまです。特定行為看護師になることでスキルアップだけでなく質の高い医療提供が可能になります。
参考
- 厚生労働省|特定行為研修制度に関するトピックス
- 厚生労働省|看護師の特定行為研修制度ポータルサイト