介護における接遇マナーの5原則とは?重要性や心構えを解説

介護業界に入りたての新人さんや、これから介護の仕事に就こうと考えている人が知っておきたい「介護サービスの接遇」について。基本的なマナーから、利用者とその家族、同僚と良好な関係を築くためのポイントまで解説します。

介護に求められる接遇とは

1.介護における接遇

・そもそも接遇とは?

「接遇(せつぐう)」とは、そもそもどんな意味でしょうか? 接遇を辞書で調べると、「もてなすこと」「応接すること」といった意味が出てきます。よく似た言葉に「接客」がありますが、接客はお客さんを相手に応対することを指し、「もてなす」意味は含まれていません。

介護現場で使う「接遇」の意味とは、「おもてなしの心を持って利用者や関係者と接すること」です。

人とのコミュニケーションでは、話す内容や言葉遣い以外にも、表情や態度、身だしなみなどによっても相手の印象は大きく変わりますよね。接遇では、こういった非言語のコミュニケーションも含め、おもてなしの心を持って接することが大切だとされています。

・介護で接遇が重視される理由

介護で接遇が重要な理由 利用者の安心安全を守り、優れたサービスを提供するため

介護現場において接遇が重視される理由は、「利用者の安心安全を守り、優れたサービスを提供するため」です。

介護業務は人命にも関わる仕事です。安心安全な介護を提供するためには、しっかりとした接遇をもって利用者との間に信頼関係を築くことが重要です。関係性が築けていないと身体をあずけるのに恐怖を感じたり、介護拒否につながったりする可能性があります。同様に、大切な家族の介護を安心して任せてもらうために、利用者の家族から信頼を得ることも大切です。

さらに職員同士の関係においても、接遇は重要です。人間関係が良くない職場では、報連相(報告・連絡・相談)などの必要なやりとりが適切におこなわれず、業務に支障をきたしてしまう恐れがあります。また、利用者や家族にも職場の空気感が伝わってしまうでしょう。

社内・社外を問わず接遇を心がけることで、優れた介護サービスが提供でき、結果的に利用者やその家族、職員の満足度向上につながります。

・介護の接遇で大切な心構え

介護とほかのサービス業との大きな違いは、介護の現場は利用者にとっては日常生活の場だということです。なかには富裕層向けの施設のように特別感の演出が求められる施設もありますが、多くの施設では自宅のように過ごすことができる安心感が求められます。

あまりにもかしこまった対応をすると、利用者はよそよそしい印象を受け、かえって心の距離が開いてしまう恐れがあります。時にはあえて近い距離感で、親しみを感じられる接し方が良い関係性づくりに繋がることもあるでしょう。

接し方による距離感の違いの例

ただし注意すべきなのは、「親しさ」と「馴れ馴れしさ」は別物であるということです。いくら距離感が近いとはいえ、タメ口での会話やマナーを欠いた対応は禁物です。あなたは問題ないと思っても、相手は馴れ馴れしく感じるかもしれません。また、利用者の家族がその光景を見たときに、「自分の親をぞんざいに扱って、不躾な対応をされた」と感じてしまうことも、介護現場ではよくあるクレームのひとつです。

2.介護における接遇の5原則

介護職員として働くうえで求められる「接遇の5原則」を紹介します。利用者と適切な距離感を保って接するためには、まずは基本を習得することが大前提。基本をしっかり身につけたうえで、徐々に自分にあった接遇スタイルを見つけていきましょう。

なお、介護事業所によっても推奨する接遇やルールは異なります。これから紹介する内容のほか、職場の方針も併せて確認するようにしましょう。

・挨拶

挨拶はコミュニケーションの第一歩です。利用者やその家族はもちろん、施設を訪れる人や職員に対しても、自分から先に、明るく元気に挨拶しましょう。気持ちのいい挨拶をすることで、好意的な第一印象を与えられます。

利用者に対する挨拶の仕方では、気をつけたいポイントがあります。声をかけるときは、利用者の正面から笑顔でゆっくりと近づき、少し手前で止まってからやや大きめの声で話すようにしましょう。高齢者は耳が遠いからといって、素早く近づいて大声で話しかけるような挨拶の仕方は、相手を驚かせてしまうので止めましょう。

さらに、「おはようございます」「こんにちは」などに続けて、「今日はいいお天気になりそうですね」「◯◯さん、今日は顔色がいいですね」などのちょっとした会話もできると、相手との交流が深まるきっかけにもなります。

tips|利用者の呼び名に注意

介護施設では利用者の呼び名を、名字で「◯◯さん」と呼ぶことが一般的です。しかし同姓の利用者が複数いる場合は、区別するために下の名前で呼ぶケースも考えられます。また利用者によっては、あえて下の名前やあだ名で呼ばれることを好む人もいるかもしれません。

ただし、たとえ本人が望んでいても、利用者の家族にとっては「親を下の名前やあだ名で軽々しく呼ぶなんて」と不快に感じる可能性があります。イレギュラーな対応が必要な場合には、上司や先輩に相談するようにしましょう。

・言葉遣い

<正しい敬語と相手に配慮した表現を使う>

正しい敬語と相手に配慮した表現の例

介護をするうえで「〜してあげる」という表現は、利用者との間に上下関係を生むので使わないほうがいいとされています。この表現を使うと、利用者は「自分は面倒を見てもらっているんだ」とプライドを傷つけられたと感じたり恐縮したりすることがあります。

利用者のために何かをする際は、上の例のように「〜いたします」「お〜します」のように、謙譲語を使用するようにしましょう。

また、排泄介助や入浴介助のようにデリケートな内容については、ほかの利用者に聞かれたくないものです。利用者が気まずく感じないよう言葉を選ぶ、周囲に聞こえない大きさで話しかけるなどの点にも気を配りましょう。

tips|外部の人との会話では、同僚に対して敬語を使わない

とくに新社会人が間違えやすい敬語の使い方として「社外の人との会話で自社職員に対して尊敬語を使ってしまう」ミスがあります。

・NG例

「看護師さんに血圧を測定していただいたあとに、入浴の準備をおこないました」

・OK例

「看護師が血圧を測定したあとに、入浴の準備をさせていただきました」

外部の人との会話においては、上司や先輩であっても同じ組織の人間として自分と同じ立場となるため、尊敬語は使いません。尊敬語と謙譲語の使い分けに自信がない人は、一度調べてみることをおすすめします。

<短くても丁寧な言葉遣いを心がける>

短くても丁寧な言葉遣いの例

介護職員の方から「認知機能が低下していると長い敬語は伝わりづらいので、短い言葉を使っている」という意見を聞くことがあります。上の例では「〜食べる?」と聞いていますが、いくら短くわかりやすいからといって、年配の方への聞き方として好ましくありません。

「〜を召し上がりますか?」と敬語で尋ねてうまく伝わらない場合は、「〜を食べますか?」や「〜にされますか?」などの丁寧語に切り替えてみましょう。これなら丁寧さを保ちながらも、短く簡単な言葉で意味もわかりやすくなります。

さらにそれでも意味が伝わりづらければ、言葉を短くするのではなく、ジェスチャーを取り入れましょう。例えば食事を指差してから口に運ぶ動作を加えることで、視覚的にも理解がしやすくなり効果的です。

<状況に応じてクッション言葉を使う>

クッション言葉の使い方の例

相手に質問や意見を言うとき、または反対に相手の頼みを断るときなどは、なかなかストレートには伝えづらいものですよね。そういったときは「クッション言葉」を使うと良いでしょう。具体的な内容を伝える前に、次のような言葉を挟むことで気遣いが感じられ、相手も受け入れやすくなります

クッション言葉の例
相手に依頼するとき 「恐れ入りますが」
「お手数をおかけしますが」
「ご面倒をおかけしますが」
「折り入ってお願いがあるのですが」
相手に質問するとき 「失礼ですが」
「差し支えなければ」
「お尋ねしたいことがあるのですが」
相手に意見するとき 「失礼かもしれませんが」
「申し上げにくいことですが」
「厳しいことを言うようですが」
相手の依頼を断るとき 「あいにくですが」
「心苦しいですが」
「申し訳ございませんが」
「お力になれず申し訳ございません」

・表情

人の第一印象は、出会って3秒で決まるとも言われています。わずか3秒ですから、会話の内容ではなく相手の表情や態度、身だしなみなどの目から入る情報が非常に大切です。

とくに高齢者は相手の表情や態度からさまざまなメッセージを読み取りますので、話すときは笑顔を心がけましょう。いつも穏やかな笑顔で接することで、安心感や信頼感を与えることができます。

また、人と話していないときの表情にも注意が必要です。もし利用者が職員に何かを頼もうとする際に、怒り顔の職員、疲れた顔の職員、微笑んでいる職員がいたら、話しかけやすいのは「微笑んでいる職員」ですよね。

常に気をはっている状態は、慣れないうちは疲れてしまうかもしれません。しかし介護施設では、職員一人ひとりの態度や表情がその事業所全体の空気を作ります。業務中につい無表情になってしまったとき、このことを思い出してみてください。

好感度の高い表情のポイント

・口角を上げる

口の両端が上がっていると、明るくにこやかな印象になります。

・目元まで笑う

マスクなどをしていると、口は笑っていても無表情に見えてしまいます。その場合は目元で笑顔を伝えましょう。目を細く目尻を下げることで笑った印象になります。

・相手の目を見て話す

会話中に適度なアイコンタクトを取ることで、相手のことを見ていると安心感を伝えることができます。

・態度

周囲の人々は、その人の態度から仕事への意欲や熱意を判断しがちです。たとえ内心はどんなに仕事への熱意に燃えていたとしても、それを表す態度が伴っていなくては、周囲からの評価は良くないでしょう。相手に誤解されない立ち居振る舞いを心がけることが重要です。

基本的な姿勢のポイント

・立つとき

背筋はまっすぐ伸ばし、胸を張りましょう。

背中が丸まっていると頼りない印象を受けます。

・座るとき

深く座りすぎると姿勢が崩れるため、浅めに腰かけ、背筋を伸ばし胸を張ります。

脚を投げ出すと行儀が悪く見えるので、膝の角度は直角になるようにします。

・腕や脚を組まない

人の話を聞くときなどに腕や脚を組むことは避けましょう。

腕や脚を組むと、高圧的で相手を拒絶している印象を与えます。

・身だしなみ

表情や態度と並び、髪型や服装などの身だしなみもあなたの印象を形作る大切な要素です。とくに高齢者は相手の見た目の印象から影響を受けやすいので、TPOにあった身だしなみを心がけましょう。

介護現場における身だしなみのポイントは、「清潔感」「機能性」「安全性」の3つです。具体的な内容については「3.チェックリストで自己評価しよう」で確認してみてください。

身だしなみのポイント

・清潔感

汚れや乱れのない髪型、服装を心がけます。

・機能性

動作の多い介護現場では、動きやすいことが不可欠です。

・安全性

直接介助などの際に、ケガの恐れがない服装にします。

3.チェックリストで自己評価しよう

ここまで紹介してきた接遇の5原則のポイントを下の表にまとめました。現在の自分ができているか、振り返って自己評価してみましょう。できていない項目があれば、明日からの業務で意識的に取り組んでみてください。

介護の接遇5原則 チェックリスト
挨拶 自分から積極的に挨拶できているか
利用者に対して笑顔で正面からゆっくりと近づき、やや大きめの声で話せているか
プラスの会話ができているか
言葉遣い 敬語の使い分けができているか
相手を配慮した丁寧な言葉選びができているか
クッション言葉を使えているか
正しい敬称を使えているか
表情 日頃から笑顔を心がけているか
口角は上がっているか
目元まで笑っているか
相手と話すときにアイコンタクトをとれているか
態度 背筋は曲がっていないか
座ったときに足を投げ出していないか
腕や脚を組んでいないか
身だしなみ 服に汚れやシワ、破れなどがないか
服は自分の体のサイズに合っているか
服から下着が透けたり見えたりしていないか
髪からフケやにおいはないか
前髪や後ろ髪が長い場合は、邪魔にならないようまとめているか
髪色は明るすぎないか
ひげの剃り残しはないか
口臭やタバコ、汗のにおいはしないか
香りの強い柔軟剤や整髪料、香水を使っていないか
濃いメイクをしていないか
アクセサリーは外しているか
爪は短く整えられているか
靴は歩きやすく疲れにくいものか

参考

  • ・蜂谷英津子『介護職が知っておきたい接遇マナーのきほん』2018年
  • ・関根健夫・杉山真知子『イラストでわかる介護・福祉職のためのマナーと接遇』2017年

読者の方へのメッセージ

社会人、職業人としてのマナー

記事をお読みになった方は、社会人なら当たり前のこと、まして対人援助を職業とする介護職員にとっては当たり前のことだと感じたと思います。しかし、当たり前すぎるからこそ、おろそかになることがあると思い出していただきたいです。直接の介護は1対1になることが多くあります。人の目がないとき、慣れてくるとついつい雑な対応にもなりがちです。時には初心にかえって自分自身の仕事ぶりを振り返ってみてください。

峯尾 武巳 (介護の会まつなみ 理事長) 2023/12/19

プロフィール

「なるほど!ジョブメドレー」は、医療介護求人サイト「ジョブメドレー」が運営するメディアです。医療・介護・保育・福祉・美容・ヘルスケアの仕事に就いている人や就きたい人のために、キャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。仕事や転職にまつわるご自身の経験について話を聞かせていただける方も随時募集中。詳しくは「取材協力者募集」の記事をご覧ください!
身体障害者療護施設、知的障害児施設、特別養護老人ホームの勤務を経て、2003年から2018年まで神奈川県立保健福祉大学にて介護福祉学を専門に教鞭を執った。介護支援専門員の養成には、制度開始前から指導者という立場で携わり、埼玉・東京・神奈川を中心に法定研修講師を務めている。その他、認定介護福祉士養成研修など数多くの研修会講師も勤め、多方面で活躍をしている。

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