そもそも生活行為とは
日本作業療法士協会では、「生活行為とは、人が生きていくうえで営まれる生活全般の行為」と定義しています。生活行為には、食事やトイレなどの日常生活活動(ADL)、買い物や家事などの手段的日常生活活動(IADL)、仕事や趣味、余暇活動などの行為すべてが含まれます。
従来、作業療法では、人の日常生活に関わるすべての目的ある活動を「作業」と呼んできました。この「作業」について、一般の人にもわかりやすくするために、作業療法で使われていた「作業」の言葉や意味について、「生活行為」と呼ぶようになったのです。
地域包括ケアシステムとの関係性
厚生労働省によると、2025年には日本の高齢化率は30%を超えると予想されています。高齢化が進む中、「誰もが住み慣れた地域で、自分らしい人生を最後まで続けられるように」という考えから「地域包括ケアシステム」という仕組みが作られました。
地域包括ケアシステムでは、各地域の特性に合わせて、医療・福祉・介護予防サービス・生活支援サービスが一体となって提供されます。
このような地域包括ケアシステムの中で、一般の人にも、作業療法の役割をわかりやすくするために、生活行為向上マネジメント(Management tool for daily life paformance:MTDLP)が開発されたのです。
作業療法を「見える化」したツール
生活行為向上マネジメントは、以前から行われてきた作業療法を「見える化」したツールです。
今までも、作業療法では、対象者の評価を行い、対象者やご家族の希望にそった生活目標を立て、支援を行ってきました。しかし、実際に行われる作業療法の中には、生活目標と支援内容とが合致しにくく、対象者やご家族などが、作業療法の目的を捉えにくい側面もありました。
生活行為向上マネジメントでは、作業療法で立てた生活目標や支援内容の一連の流れについて、書式にそって記載していきます。生活目標と支援内容を書式化し、作業療法の流れを視覚化することによって、対象者、ご家族などに、作業療法の目的を共有しやすくしたツールが、生活行為向上マネジメントなのです。
作業療法を「見える化」したことによって、対象者を支援する他の医療・介護スタッフや地域で対象者を支える方々とも情報を共有しやすくなり、チームで支援をしていくことが期待できます。
生活行為向上マネジメントを使った支援の流れ
生活行為向上マネジメントを使った支援は、インテーク(面接)、生活行為アセスメント(評価)、生活行為向上プランの立案、介入、再評価・見直し、介入の修了と課題の申し送りの6つの流れで行われます。順を追って見ていきましょう。
1. インテーク(面接)
生活行為向上マネジメントでは、作業療法士は、「生活行為聞き取りシート」を使って、対象者やご家族が希望する生活行為について、面接を行います。対象者が、希望する生活行為について、言葉や文字などで上手く表現できない場合には、「興味・関心チェックシート」を使います。
作業療法士は、面接で、対象者、ご家族が希望する生活行為について、情報を共有することで、筋力の向上、痛みの改善といった機能的な変化だけに留らずに、対象者のより良い生活行為の実現を目指していきます。
2. 生活行為アセスメント(評価)
対象者やご家族と希望する生活行為を情報共有できた後、作業療法士は、「生活行為向上マネジメントシート」を使って、対象者の生活行為を制限している要因を整理していきます。
「生活行為マネジメントシート」は、「生活行為アセスメント(演習シート)」と「生活行為向上プラン(演習シート)」の2つで構成されています。
生活行為アセスメント(評価)は、ICF(国際生活機能分類)に基づいて行われ、対象者やご家族、周辺環境にいたるまで、対象者が置かれている状況を評価し、評価内容を整理し、生活行為アセスメント(演習シート)に記載していきます。
作業療法士は、アセスメント結果をもとに、生活行為を制限している課題の達成や課題解決の優先度について、対象者やご家族と相談し、支援の方向性に合意を得るまでが、生活行為向上アセスメントです。
ここまででも、すでにたくさんのシートや似たような名前が出てきているので、頭の中が混乱しやすいですよね? しかし、今まで行ってきた作業療法について、生活目標や支援内容がわかりやすくするために“自分の作業療法を書式に表しているだけ”と考えると、頭の中が整理しやすいですよ。
3. 生活行為向上プランの立案
生活行為アセスメントの結果をもとに、作業療法士は、対象者が希望する生活行為を達成するためのプランを立案します。
生活行為向上プランの立案は「基本的プログラム(心身機能に対するアプローチ)」「応用的プログラム(活動や参加に対するアプローチ)」「社会的適応プログラム(生活する環境への適応や環境を調整するアプローチ)」の3つに分類されます。
今までの作業療法では、生活行為の課題を解決するために、対象者・ご家族・支援者の役割分担が、不明確になりやすい傾向がありました。
生活行為向上プランでは、作業療法士が立案したプランについて、いつ・どこで・誰が・なにを実施または支援するかについて書式化することで、対象者・ご家族・支援者の役割分担が明確になったことが特徴です。
役割分担が明確になったことで、対象者の生活行為の課題解決が、実現しやすくなっています。
4. 介入
生活行為向上プランの立案で計画した内容にそって、対象者の生活行為の課題解決に必要となる訓練・支援・環境調整を行います。
5. 再評価(アセスメント)・見直し
一定期間の介入後に、作業療法士は、対象者の生活行為の状況について、アセスメント(評価)を行います。対象者の課題となっていた生活行為が達成していた場合には、介入の終了を検討し、解決していない場合には、生活行為の計画を見直し、介入を継続します。
6. 介入の終了と課題の申し送り
対象者が希望する生活行為の課題が達成した場合、作業療法士は、「生活行為申し送り表」に、生活行為向上マネジメントの実施結果や一連の経過をまとめ、対象者の生活支援に関わる介護支援専門員(ケアマネジャー)や介護職などに、今後の生活行為の向上に必要な支援方法などを申し送ります。
生涯教育制度における位置付け
現在、生活行為向上マネジメントは、作業療法士の生涯教育制度にも取り入れられ、作業療法士が学習していくべき内容に位置づけられています。作業療法士の生涯教育制度では、現職者共通研修・選択研修の中で、生活行為向上マネジメントの履修が必要です。
現職者共通研修
現職者共通研修を終了する条件のひとつに、事例報告があります。この事例報告の方法のひとつとして、「生活行為向上マネジメント実践者研修における事例検討会での事例発表」があります(任意)。
現職者選択研修
現職者選択研修では、生活行為向上マネジメント基礎研修の受講が必要です(必須)。日本作業療法士協会では、作業療法士が、生活行為向上マネジメントの知識を身につけることや実践的な活用ができることを推進しています。そのため、各都道府県の作業療法士協会でも、生活行為向上マネジメントの研修が行われています。
生活行為向上マネジメントについて学ぶには?
生活行為向上マネジメントについて学ぶには、作業療法士協会が主催する研修会へ参加する方法があります。
生活行為向上マネジメントは、書籍などからも学べますが、実際に、ツールを活用した経験を持つ講師から教えてもらう方が、生活行為向上マネジメントについての知識が身につきやすいでしょう。
また、平成30年度現在、日本作業療法士協会の会員数は57,093人います。日本作業療法士協会では、「平成30年度末までに、生活行為向上マネジメントの基礎研修修了者を26,763人(全会員の49.7%)に、増やすこと」を目標にしています(日本作業療法士協会の発表に基づく。
こうした現状から考えると、生活行為向上マネジメントは、今後の作業療法士にとって、欠かせないツールになっていくと予想されます。生活行為向上マネジメントについて学びたい時には、各都道府県の作業療法士協会のホームページを見ると、研修会の情報が掲載されているので、参考にしてみてくださいね。