目次
1.育休(育児休業)とは
子どもの養育のために休める制度
育児休業(育休)とは、子どもを養育する労働者が取得できる休みで、1992年に「育児休業法」として施行されました。その後、少子高齢化や女性の社会進出が進んだことなどから、仕事と育児・介護を両立するための制度を求める声があり、1995年に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」となりました。
2022年10月には同法改正により「産後パパ育休(出生時育児休業)」が加わり、男性が子の出生後8週間以内に最大4週間まで2回に分割して取得できるようになりました。
育休 | 産後パパ育休 | |
---|---|---|
対象者 | 1歳に満たない子を養育する男女労働者 | 出生後8週間以内の子を養育する産後休業をしていない男女労働者 |
対象期間 | 原則子が1歳(最長2歳)まで | 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能 |
申し出期限 | 1ヶ月前まで | 2週間前まで |
分割取得 | 分割して2回取得可能(取得時にそれぞれ申し出) | 分割して2回取得可能(初めにまとめて申し出る必要がある) |
休業中の就業 | 原則就業不可 | 労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で就業可能 |
1歳以降の延長 | 1歳6ヶ月(最長2歳)までの間で夫婦交代で休業できる | – |
1歳以降の再取得 | 可能* | – |
>産後パパ育休の詳しい内容はこちらの記事をチェック!
育児休暇との違い
育児休業が法律で定められているのに対し、育児休暇は会社が独自に規定する制度です。育児目的休暇ともいわれ、配偶者の出産や子どもの行事参加などのために取得できます。
会社には育児休暇設置の努力義務が課されていますが、すべての事業所に制度が普及しているわけではありません。育休と違って給付金の支給はなく、給与の有無も会社ごとに異なり無給のところが多いようです。
2.育休の取得条件と取得の流れ
対象となる労働者
1歳に満たない子どもを養育する男女労働者が対象で、正社員以外にも契約社員、パート・アルバイトも取得可能です。実子、養子は問わず配偶者が専業主婦(夫)であっても取得できます。
以前の有期雇用労働者の育休取得条件は、「同一事業主に1年以上雇用されていること」「子が1歳6ヶ月に達する日までに、労働契約の期間満了が明らかでないこと」の2点でした。しかし、2022年4月以降は緩和され「有期雇用の契約期間満了が明らかでないこと」のみとなっています。ただし、日雇い労働者は対象外となります。

育休の申請はいつ? 取得の流れ

育休は開始予定日の1ヶ月前、育休の延長もしくは産後パパ育休の場合は2週間前までに事業主に申し出る必要があります。通常、出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)には産前休業に入るケースが多いため、連続して育休を取得する場合は産前産後休業中に申し出をおこないます。
妊娠・出産の申し出があった場合、事業主は妊婦健診などのために必要な時間を確保する必要があり、妊娠・出産を理由に解雇や降格など不利益な取り扱いをすることは男女雇用機会均等法で禁止されています。
3.育休期間はいつからいつまで?
育休の開始は出産から57日以降
通常、出産予定日より6週間(42日)前から産前休暇に入り、出産した翌日から8週間(56日)が産後休暇となります。出産は予定日が前後することもあり、早く出産した場合産前休暇の日数は少なくなります。
産後休暇が終わった翌日(57日以降)から育休に入り、終了時期は個人の希望や事情に応じて異なります。配偶者が産後パパ育休を取得する場合は出生後8週間以内に取得できます。
原則1年最長2年まで延長可能
子どもが1歳になるまで2回まで分割して取得できますが、保育所に入れない、配偶者の死亡や病気、ケガ、離婚などの事情があれば最長2歳まで延長できます。延長の申請は1歳の誕生日を迎える2週間前、2回目の延長の場合は1歳6ヶ月になる日の2週間前までにおこなう必要があります。
また両親ともに育休を取得する場合、1歳2ヶ月まで期間を延長できる「パパ・ママ育休プラス」の対象となり、それぞれ給付金を受け取ることができます。ママとパパが同時に取得することはできますが、それぞれが1年2ヶ月取得できるわけではなく、あとから育休を取得した配偶者のみが延長して取得できます。

4.育休中にもらえる手当・給付金
受給資格
育休中は、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。育休手当ともいわれ、育休を取得し受給資格を満たした人に給付される制度です。今後、給付対象を非正規社員やフリーランス、自営業者にも広げる考えが2023年3月に発表され、具体的な期間や制度の詳細については2023年6月にかけて順次公開される見込みです。

給付金の申請は、2ヶ月に1回の頻度で事業主がハローワークでおこないます。労働者が手続きする必要はありません。
受給期間
給付金の受給期間は、原則子どもが1歳になる日の前日までです。1歳を迎える前に復職した場合は、復職日の前日までが受給期間となります。保育所に入れないなどの理由から育休を延長する場合は、子どもが1歳6ヶ月まで最長2歳まで給付期間を延長できます。ただし、育休開始から180日(6ヶ月)を超えると給付金の額が変わります。

また、育休中に第2子以降を妊娠した場合、第2子の産前休業開始日の前日までの支給となり、産前休業を取得しない場合は出産日までの支給となります。
給付金の計算方法
育児休業給付金は2ヶ月ごとに決められた金額が支給されます。支給単位期間に給付金以上の賃金が支払われている場合はもらえません。支給金額は育児休業開始前6ヶ月間の賃金を180で割った数(休業開始時賃金日額)に、支給日数をかけた金額の67%(または50%)です。
育児休業開始から180日以内の場合
育児休業給付金 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数(原則30日)×67%
例
休業開始前の1ヶ月の給与が30万円(額面)の場合
休業開始時賃金日額 = 180万円(30万円 × 6ヶ月)÷ 180 = 1万円
1ヶ月の育児休業給付金 = 1万円 × 30日間 × 0.67 = 20万1,000円
育児休業開始から181日以降の場合
育児休業給付金 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数(原則30日)× 50%
例
休業開始前の1ヶ月の給与が30万円(額面)の場合
休業開始時賃金日額 = 180万円(30万円 × 6ヶ月)÷ 180 = 1万円
1ヶ月の育児休業給付金 = 1万円 × 30日間 × 0.5 = 15万円
支給金額には上限があります。2022年現在給付率67%の場合は上限30万5,319円、給付率50%の場合は上限22万7,850円です。
厚生労働省のウェブサイトでは、いくら育児休業給付金がもらえるのか計算できます。
なお、2023年におこなわれた少子化対策に関する首相会見において、産後の一定期間に男女で育休を取得した場合、給付率を手取り10割に引き上げる方針が打ち出されました。これにより、育休中でも働いているのと同等の収入を得られます。制度の詳細は今後明らかになっていく予定です。
給付金の振込時期
事業主の手続き後、ハローワークでの審査が通ると受給者に「育児休業給付金支給決定通知書」が届きます。支給決定から約1週間で指定の口座に振り込まれます。
扶養控除が受けられる
育休中は収入が減ってしまうため、扶養に入り配偶者控除を申請することで配偶者の税金負担を減らすことができます。配偶者控除を受けるための条件や詳しい情報は下記の記事を参考にしてみてください。
また、育休を取得する人は自身が加入している社会保険に事業主を経由して申請すると、産休・育休中の社会保険料が免除となるほか、健康保険や厚生年金も継続と見なされます。
年末調整が必要
育休に入ったため数ヶ月しか働いていないという場合でも、源泉徴収額と差額が生じ納付額が還付されることもあるため年末調整が必要です。収入以外にも、社会保険料や生命保険料などの支出があれば控除の対象となりますので申告するようにしましょう。
また、出産・休業にあたって支払われる出産一時金や、出産手当金、育児休業給付金は所得には当たらないため年末調整で記入する必要はありません。
5.医療・福祉業界の育休取得の現状と課題
男女で育休取得率に大きな開き

医療・福祉を含む16の産業を対象におこなった雇用均等調査によると、女性の育休取得率は、80〜90%台で推移しています。一方、男性は1%代から大幅に取得率が増加したものの、いまだ14.0%と女性の取得率との差が大きい状態です。
2023年3月に発表された新たな少子化対策目標では、男性の育休取得率を2025年度に50%、2030年度に85%にするとの目標が掲げられています。産後パパ育休や給付金制度の充実などにより、男性の育休取得率の向上が期待されています。
女性の育休取得率は高い一方、離職する人も一定数いる
2021年における医療・福祉業界における育休取得率は女性が88.1%、男性が13.2%となっており、女性では全16産業の割合より高い結果となっています。

育休取得率が9割近い一方で、日本看護協会がおこなった調査によると、看護師の離職理由で最も回答が多かったのは「出産・育児」(42.7%)という結果でした。職場によっては夜勤や土日出勤などもあり、育児との両立が難しいと感じる人もいることが伺えます。



6.最後に
少子化が進む日本では、労働力の減少による経済への影響など深刻な問題が起こりえます。男女ともに育休が取りやすく、復帰後も安心して働けるよう事業主側には制度の普及や復帰後のフォローが求められます。労働者側は制度を活用し、不安や悩みがあれば職場に相談してみるのも良いでしょう。
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参考
- 厚生労働省|育児・介護休業法のあらまし
- 厚生労働省|Q&A~育児休業給付~
- 厚生労働省|育児・介護休業法の改正について