1.言語聴覚士(ST)とは
音が聞こえない、あるいは聞き取りづらいという症状の聴覚障害。言葉が出てこない、言葉の意味を理解できない、読み書きが上手くできないなど言語にまつわる障害である失語症。声を発する器官の運動や形態の異常によって正しく発音・発語できない構音障害。
このような、言葉によるコミュニケーションが困難となってしまった人たちの状況を改善・軽減するためのリハビリ専門職が言語聴覚士です。また、言語以外の認知機能のリハビリや、飲み込みなどのリハビリも言語聴覚士はおこないます。
言語聴覚士は英語で「Speech Therapist」と呼ばれることから、「ST」と略されています。
2.言語聴覚士の仕事内容と障害の種類
言語聴覚士がサポートすべき障害は様々で、患者さん一人ひとりに合った訓練や指導が求められます。
言語聴覚士が対応する主な障害の種類と、仕事の内容についてみていきましょう。
2-1.聞き取りの障害(聴覚障害)
聴覚障害は周囲の音や声が聞こえない、または聞き取りづらい状態で、「難聴」とも呼ばれています。生まれつき聴覚障害を持つ先天性のものと、事故・疾病・高齢化などによる後天性のものが存在します。
言語聴覚士は聴覚検査を実施し障害の度合や種類を調べ、言語の訓練とともに、必要に応じて補聴器のフィッティングや人工内耳の調整をおこないます。
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2-2.言語・コミュニケーションの障害
言語・コミュニケーションの障害で代表的なものとして「失語症」「構音障害」「音声障害」などがあります。
これらは「話す・聞く(理解する)・読む・書く」といった、言語コミュニケーションに関する機能を妨げます。
言語聴覚士は障害の具合を観察すると同時に、原因や経過を加味して、言葉の理解や発話、読み書きの訓練をおこない、家庭や社会生活への復帰を支援します。
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失語症
大脳の言語中枢がダメージを受けることで発症。会話や読み書きなど言語全般に対して障害が生まれる。
構音障害
言葉を発する器官(舌、唇、顔の筋肉など)に問題が生じて、ろれつが回らないなど、正しく発音できなくなる障害。
音声障害
声の大きさや高さ、声質などに異常がみられる障害。声帯などの病変や損傷によって発症する。
高次脳機能障害
大脳の損傷が原因で生じる。認知(知覚、記憶、思考、判断など社会生活に適応するための機能)に関する障害が起きる。脳の萎縮や変性が進行しやすい高齢者に多くみられる。
2-3.子どもの言語発達とコミュニケーションの障害
子どもは、産まれてから3~4歳くらいまでの間に、親や周囲の人たちの会話や、自身に話しかけられる言葉などから自然と語彙や文法を学習し身に着けていきます。
しかし、なかには発達障害・知的障害・聴覚障害などの原因により、同年齢の子どもより言語発達が遅れてしまう子どももいます。
言語聴覚士はそういった子どもたちに対して、周囲の人たちのコミュニケーションに関心を持つよう指導したり、語彙や文法の習得に向けた訓練をおこなったりします。また家族や教育機関などと連携して、子どもの周辺環境を整えることも大切な役割です。
2-4.認知機能の障害
「認知機能」とは知覚・記憶・思考・感情・学習・判断など社会生活に適応するために必要な機能の総称です。
この認知機能を妨げる障害の代表的なものとして高次脳機能障害があげられます。また、高齢化が進む日本では、認知症の患者さんも増えているとみられます。
こういった認知障害を持つ患者さんへのサポートも言語聴覚士の役割の一つで、認知障害の評価や機能訓練、リハビリなどをおこないます。
2-5.摂食嚥下障害
「摂食嚥下(せっしょくえんげ)」とは、「食べて飲み込む」こと。なんらかの異常により、これら一連の行為が阻害されてしまう状態を摂食嚥下障害と言います。
とくに高齢者に多く、歯がないことや、加齢による舌や顎の筋肉の衰え、脳卒中などの後遺症による麻痺など、その原因はさまざまです。
摂食嚥下障害を放置することによって、本人の栄養状態が悪くなってしまうことはもちろんですが、食べ物や飲み物などが誤って気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」も頻発します。誤嚥が原因で肺炎を引き起こし、命を落としてしまうこともあるため、摂食嚥下障害のサポートは非常に重要な役割です。
言語聴覚士は、胃ろうやチューブによる栄養摂取を選択しないですむように、食事機能の維持回復の支援に努めると同時に、摂食嚥下可能な範囲の評価や助言をおこないます。
病院で働く場合は、この摂食嚥下障害への対応が多くなることもあります。過去にインタビューをした、言語聴覚士のEさんは、病院での働き方について次のようにお話ししていました。
実は多くの方がイメージするような『言語障害の訓練』ってそれほど多くないんです。
圧倒的に多いのは、嚥下(飲み込むこと)が困難な高齢者の評価ですね。簡単に言うと「どこからどこまでの物なら飲食できるのか」という評価やアドバイスをします。なので、その判断を誤ると命の危険性も。
ちなみに言語障害の訓練内容は原因や症状によっても変わるんですが、「伝えたい気持ちを引き出す」「自己プロフィールを書く」「発声練習」などがあります。
3.言語聴覚士の働く場所
このグラフは、言語聴覚士がどのような職場で働いているかを示した割合です。これを見ると7割を超える言語聴覚士が医療領域で、残りは主に介護・福祉領域や教育領域で働いていることがわかります。
参照:日本言語聴覚士協会HP
※小数点以下は四捨五入
次に言語聴覚士の主な就業場所について詳しく見ていきましょう。
3-1.医療機関
医療機関のなかでは主に、病院のリハビリテーション科やリハビリテーションセンター、回復期病棟などで働きますが、口腔外科や耳鼻咽喉科などでも活躍しています。
対応する患者さんの年代や障害の種類・状態は、医療機関によって様々です。言語聴覚士は患者さん一人ひとりに合わせた機能回復訓練やリハビリテーションを実施するとともに、社会復帰に向けた相談や支援もおこないます。
3-2.介護・福祉機関
特別養護老人ホーム、老人保健施設、デイサービスセンターなどの高齢者を対象とする施設や訪問リハビリテーション事業所などで働く場合、介護職員や栄養士などと協力して摂食嚥下障害の訓練や指導をおこないます。そのほか、レクリエーションなどによって言語・認知機能の維持回復も図ります。
肢体不自由児施設や重症心身障害児施設などの、児童を対象とする施設では、聴覚障害や摂食嚥下障害などの訓練・指導のほか、発達障害を持つ子どもへの言語およびコミュニケーション訓練を実施。また、その家族への助言・指導などもおこないます。
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肢体不自由児施設
四肢や身体の一部に麻痺や障害がある子どもが入所し、訓練や指導による機能回復を目的とした施設。
重症心身障害児施設
重度の知的障害や身体障害が重複している子どもが入所する。療育と日常生活の指導、助言を目的とした施設。
3-3.教育機関
教育機関での働き方は、小中学校や特別支援学校で教員として障害を抱える子どもの指導や言語聴覚士養成校の講師としての働き方が挙げられます。
ただし小中学校や特別支援学校で教員として働く場合は「教員免許」が必要となるため注意が必要です。
4.言語聴覚士になるには
言語聴覚士は国家資格であるため、国家試験に合格しなければ資格を取得することができません。
言語聴覚士になるためのルートは大きく分けて2つあります。1つは高等学校を卒業後、言語聴覚士養成課程のある大学(短期大学)や指定の養成校に進むルート(3~4年制)。もう1つは一般の4年制大学を卒業後、言語聴覚士養成課程のある大学・大学院の専攻科か指定の養成校を卒業するルート(2年制)です。
※図は言語聴覚士を目指す場合の主なルートを示す
4-1.専門学校や通信教育でも言語聴覚士になれる?
国家試験の受験資格を得られる養成校として、3年制の専門学校は存在しますが通信教育のみで取得することはできません。
しかし、一般的な4年制大学を卒業した後であれば、夜間過程のある2年制養成校を修了することで受験資格を得ることができます。
社会人から言語聴覚士を目指す場合には、選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか?
5.言語聴覚士の国家試験・合格率
5-1.国家試験の合格率
2024年2月17日(土)に実施された「第26回言語聴覚士国家試験」の合格率は以下の通りです。
合格発表:2024年3月26日(火)
受験者数:2,431人
合格者数:1,761人
合格率:72.4%
同年(2024年)に実施された同じリハビリ職である理学療法士の合格率は89.2%、作業療法士は84.1%でした。過去数年間を比べてみても言語聴覚士の合格率が一番低いことがほとんどで、リハビリ職の中では比較的難易度が高いことが伺えます。
5-2.言語聴覚士資格の免許申請
国家試験に合格しただけでは言語聴覚士としてすぐに働きはじめられるわけではないので注意が必要です。合格後に言語聴覚士としての免許申請をおこない、免許証が交付されることで初めて言語聴覚士として活動することができます。
理学療法士や作業療法士は保健所や県庁にて免許申請をおこないますが、言語聴覚士の場合は異なり、申請窓口は公益財団法人 医療研修推進財団となるため注意しましょう。
免許申請の詳細や不明点などは公益財団法人 医療研修推進財団に直接お問い合わせください。
〒105-0003
東京都港区西新橋1-6-11西新橋光和ビル7F
TEL:03-3501-6592 FAX:03-3501-6593
E-mail:help@pmet.or.jp
6.言語聴覚士の給料と年収例
2023年11月時点でジョブメドレーに掲載されている言語聴覚士の給料は次の通りでした。
下限平均 |
上限平均 |
総平均 |
|
---|---|---|---|
パート・アルバイトの時給 |
1,526円 |
1,880円 |
1,703円 |
正職員の月給 |
25万4,954円 |
32万3,543円 |
28万9,249円 |
正職員の年収* |
356万9,363円 |
452万9,607円 |
404万9,485円 |
また、以前インタビューをした言語聴覚士のEさん(30歳)は、月収が約29.5万円(基本給24.7万円)。賞与が4ヶ月分の支給なので、年収にして約450万円でした。言語聴覚士の年収の一例としてご参考にしてください。
▼言語聴覚士のEさんの転職者インタビューはこちら
7.言語聴覚士のやりがい
言語聴覚士の仕事は、「話す」「聞く」「食べる」など、人間が生きていくうえでも必須とされる機能の回復を支援します。
「患者さんが少しづつ喋られるようになってくる」「ご飯を上手に飲み込めるようなる」など患者さんの社会復帰をサポートすることで、「人の役に立った」と実感することが多いようです。
また社会福祉法人で地域医療に関わってきた、言語聴覚士のEさんは過去のインタビューで次のように語っていました。
専門性にとらわれることなく、『障がいを持ってる人がどんな想いで生活してるのか』を学べたことが大きいですね。
あとは、社会資源にはどんなものがあるのかを知れたことも。病院ではそういった福祉サービスなどを耳にすることがあっても実態がわからないんですよね。実際に現場に出て見聞きしたことで、言語聴覚士としても実になる部分は多かったです。
8.最後に
言語聴覚士の約7割が医療機関で働いており、医療機関以外で働く言語聴覚士は少ないのが現状です。しかし、医療機関以外での活躍も十分に期待されており、2006年には言語聴覚士が実施する訪問リハビリにも介護保険が適用されるようになりました。
内閣府の発表した平成25年版 障害者白書によると、聴覚・言語障害者の数は幼児から高齢者まで含めると約36万人。認知症の方などを含めると、さらに多くの人たちが言語聴覚士を必要としていることになります。
これに対し、言語聴覚士の数は2020年時点で約3.4万人。あくまでも有資格者の数なので、実際に言語聴覚士として働いている人はこの数字よりも少なくなります。
実際に四病院団体協議会が2016年におこなった理学療法士・作業療法士・言語聴覚士需給調査では、「患者の状況に応じ、必要な人員(言語聴覚士)は確保できているか」というアンケートに対して、「いいえ」が37.5%、「どちらともいえない」が21.2%という結果が出ており、十分なリハビリを提供できていない病院が一定数あることがわかります。
このように言語聴覚士にはまだまだ多くの需要があり、今後、言語聴覚士を目指す人がさらに増えて、幼児から高齢者まで幅広い年代の人たちを様々なフィールドで支えていくことが期待されます。
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参考文献
中島匡子『言語聴覚士になるには』ぺりかん社