実務者研修とは?
実務者研修とは、基本的な介護提供能力と、医療的ケアに関する知識・技能の習得を目的とした資格です。介護の入門資格といえる介護職員初任者研修の上位資格にあたり、実務経験ルートで介護福祉士を目指す際の受験条件でもあります。
2013年4月、従来の「ホームヘルパー1級」と「介護職員基礎研修」が廃止され、実務者研修へ一本化されました。その後、2016年度の介護福祉士国家試験から、実務経験3年以上に加えてこの研修の修了が必須となっています。
このように、介護職のキャリアにおいて重要な位置付けとなる実務者研修ですが、名称の使われ方には一定のばらつきがあり、「介護福祉士実務者研修」や「介護職員実務者研修」といった表記も多く見られます。
では、なぜこうした違いが生まれたのでしょう。また、現場や教育機関では、どの表記が主に使われているのでしょうか。
法令上の正式名称は?
前提として、介護職の資格制度の根拠となる「社会福祉士及び介護福祉士法」には研修の正式な名称は示されておらず、また、「介護職員実務者研修」「介護福祉士実務者研修」「実務者研修」といった名称も明記されていません。
この点について厚生労働省に確認したところ、「法律で明文化はしていないが、『介護福祉士実務者研修』が正式な名称としての位置づけである」との回答がありました。
ただし、制度設計の過程では「実務者研修」と呼ばれていたことが確認できます。
例えば、2011年1月に厚生労働省が公開した「今後の介護人材養成の在り方について(概要)」では、国家試験の受験要件を「実務者研修」を用いて説明しています。また、2011年5月25日の第177回国会 厚生労働委員会で、大塚耕平厚生労働副大臣(当時)が「実務者研修」という言葉を用いて次のように答弁しています。
また、研修の件でございますが、確かに今回は実務者研修を六百時間から四百五十時間に減らすことといたしておりますが、これは、介護保険制度が始まって十年がたつわけでございますが、これまでの経験、あるいは現場の皆さんの実務経験を通じて習得できる知識や技術を改めて検討した結果、研修時間を四百五十時間としたわけでございます。
引用:第177回国会 厚生労働委員会 第15号(平成23年5月25日(水曜日))
さらに、介護福祉士国家試験の実施機関である公益財団法人 社会福祉振興・試験センターなど、制度運用の現場でも「実務者研修」という呼称が一般的に用いられています。
このように、制度設計段階から現在にかけて、「実務者研修」という語は、制度運用上の名称として一貫して使われてきたことがわかります。
一方で、「介護福祉士実務者研修」や「介護職員実務者研修」といった表現は、実務の現場で自然発生的に使われるようになり、徐々に通称として定着していきました。こうしたなかで、厚生労働省は「介護福祉士実務者研修」を運用上の正式名称として位置づけるようになったと考えられます。
実務者養成施設で使用されている用語はどれか
実際にこの研修を提供する養成校では、「実務者研修」「介護福祉士実務者研修」「介護職員実務者研修」のうちどの名称を使用しているのでしょう。厚労省が公開している「実務者養成施設指定一覧(1321課程)」に掲載された全1,321課程を調査したところ、次の結果になりました。

※「その他/判別不可」は介護福祉士実務者研修、介護職員実務者研修、実務者研修のいずれも使用していない、または公式情報が確認できないもの
件数ベースで見ると「介護福祉士実務者研修」が圧倒的に多く、次いで「実務者研修」、差が開いて「介護職員実務者研修」が用いられていることがわかりました。
研修の目的や受講対象を明確に示す名称として、養成施設の現場では「介護福祉士実務者研修」が多く採用されていると考えられます。
検索されているのはどちらか
一般の検索関心度を示すGoogleトレンドで「介護福祉士実務者研修」と「介護職員実務者研修」の2語を比較してみました。以下は、2013年1月1日から2025年7月23日までの検索関心度の推移を示したグラフです。
なお、「実務者研修」というキーワードは検索数が圧倒的に多いため本比較からは除外しています。

結果、「介護福祉士実務者研修」のほうが検索ボリュームは一貫して高く、言葉としての認知度が高い傾向が見てとれます。養成施設での使用実態とも一致しており、一般的に定着している表現と考えられそうです。
厚生労働省のドメイン内を調査
厚生労働省が公表する資格取得の流れやパンフレットなどでは、「実務者研修」はもちろん、「介護福祉士実務者研修」「介護職員実務者研修」のいずれの表記も確認できます。厚労省も複数の呼称を併用している状況です。
では、厚生労働省のサイト(www.mhlw.go.jp)では「介護福祉士実務者研修」「介護職員実務者研修」のどちらが多く使われているのでしょうか。Google Programmable Search Engineを使ってドメイン内を検索したところ、次のような結果となりました。
介護福祉士実務者研修:約388,000件
介護職員実務者研修 :約444,000件
(2025年7月23日現在)
わずかではありますが、「介護職員実務者研修」のほうが多くヒットしており、養成校やGoogleトレンドとは逆の傾向が見られました。
検索結果には重複ページや旧文書も含まれるため、あくまで傾向ですが、厚労省内では「介護職員実務者研修」という表記のほうがやや優勢に使われている可能性があります。
呼び名が分かれたのはなぜか
制度設計の段階から「実務者研修」が広く使われてきましたが、明確な呼称の統一がされなかったためか、制度に関わる省庁や試験センター、自治体、教育機関では、それぞれの立場で通称を設定・運用してきたと考えられます。
「介護福祉士実務者研修」は国家試験に必要な研修であることを、「介護職員実務者研修」は介護職向けの研修であることを強調するなど、目的や対象によって自然に使い分けが広がっていったのかもしれません。
厚生労働省は「介護福祉士実務者研修」を正式名称として位置づけていますが、それぞれの現場の文脈で複数の呼称が併存しており、今後も完全な一本化には至らない可能性があります。