庄司さんは、全国の施設での勉強会やセミナーに登壇する傍ら、ジョブメドレースクールの介護職員初任者研修でも教壇に立つ介護講師です。講義では、介護のいい面だけでなく、厳しい面まで包み隠さず伝えています。本人の実体験に基づいたリアルなエピソードは、受講生に深い気づきを与えています。
そんな庄司さんは、「介護は誰でも始められるが、誰でもできる仕事ではない」と断言します。プロの介護職であるためには何が必要なのか。庄司さんが考える「いい介護」について話を聞きしました。

“冷たいご飯”が許せなかった

──庄司さんが介護業界に入ったきっかけを教えてください。
庄司さん:学生のころに介護保険法が成立すると知り、世の中に「これからは福祉」という空気がありました。中学高校と、子ども会のリーダーなどのボランティア活動を続けていたので、「子ども向けボランティアの高齢者版かな」という感覚で、介護の専門学校への進学を決めました。
──もともと福祉に興味があったんですか?
いえ、小学生のころに転校をして友達づくりがうまくいかない時期があったことから、「人とつながりたい」という気持ちが人一倍強かったのだと思います。困っている人を見ると手を差し伸べてしまうタイプなので、この仕事は自分にあっていると直感したんです。
──子どもと高齢者では関わり方も違いますよね。専門学校に入ってから戸惑いはありませんでしたか?
専門学校に入るまで、お年寄りと触れ合う機会はほとんどありませんでした。でも実習に行くと、利用者さんからすごくかわいがってもらえたんです。「こんなに楽しいことで、お金ももらえるなんて最高じゃないか!」と衝撃を受けました。
──就職後もその気持ちに変化はありませんでしたか?
その気持ちは今でも変わりません。ただ、実習生から職員になり、責任や現場の見え方は変わりましたね。身内が運営する特別養護老人ホーム(特養)に入職したのですが、現場には、利用者さんの生活を第一に考えているとは思えない慣習が残っていたんです。それがどうしても許せなくて……。
──どんな慣習があったんですか?
例えば食事の提供です。その施設では250人分をまとめて調理し、配膳していたので、利用者さんが食べるころにはご飯も味噌汁も冷め切っていました。
その状況がどうしても我慢できず、事務長に「お金払って冷たいご飯を出されたら嫌でしょ。当たり前のことじゃないですか」と直談判しました。
──入職して1年目で、ですか?
生意気ですよね(笑)。周りからは「変なやつが入ってきた」と思われていたはずです。でも、結果的に事務長を説得できて、温冷配膳車が導入され、利用者さんに温かいご飯を提供できるようになりました。
このとき、介護現場には当たり前と感じることでも、積極的に主張できる職員が少ないことに気づきました。自分が声を上げなければ、利用者さんの生活は守れないと思い、違和感を覚えたら発信していこうと決めたんです。
──それで講師の道を志したんですか?
いえ。当時は講師になろうとはまったく考えていませんでした。まずは発信の根拠となる知識と経験を積もうと考えたんです。
それから、訪問介護、訪問入浴、デイサービス、小規模多機能、グループホームなど、老健(介護老人保健施設)以外のほぼすべてのサービスに入職して現場を経験しました。面接では「勉強をしたいので半年だけ雇ってください」と頭を下げたこともあります。
「心を動かす」ことがプロの介護職

──では、何がきっかけで現場職から講師業に?
きっかけは、25歳のときに勤め先で受講した認知症研修です。講師の方に質問をぶつけていたのですが、その姿を見ていた講師から「君は伝える側に向いているよ」と声をかけていただいたんです。
そのときに「現場を変えるには、教育から変える必要があるかもしれない」と感じ、現場での仕事を続けながら、空き時間に講師としての活動もスタートさせました。
僕の講義やセミナーで大切にしているのは、現場を知っているからこそ言える“本物の介護”です。どんな相談にも実体験に基づいたアドバイスができるよう、今も変わらずさまざまな現場に足を運んでいます。
──「本物の介護」について、もう少し詳しく伺えますか?
初任者研修ではそこまで深く話しませんが、現場視点で見ると、教科書に書いてあることはある意味表面的なんです。
例えば入浴介助の目的は「清潔の保持」と書かれていますが、ただ体を清潔にするだけなら家族でもできます。それを介護職の仕事と呼んでほしくないんです。
──では、「本物の介護」とは?
入浴介助であれば、「あなたが声をかけてくれたから、お風呂に入りたくなった」と利用者さんの心を動かすことです。
僕らにとって入浴は、体を清潔にするだけでなく、お湯の音、湯船に浸かる心地よさなどを楽しむ時間でもありますよね。だから利用者さんには「今日は何の入浴剤にしますか」「いいお湯加減ですよ」などと声をかけて心を動かす。それができて初めてプロの介護職です。
介護サービスは、それまでの日常を自力で送れなくなった方が利用するものです。失われかけていた日常を取り戻すお手伝いをする。それが介護職の奥深さであり、おもしろさなんです。
介護は誰でも始められるが、誰でもできる仕事ではない

──初任者研修の講義で意識していることはありますか?
受講生や授業の雰囲気にもよりますが、質問があれば自分の経験をもとに厳しい話もします。
いいところだけを切り取って伝えると、現場に出たときのギャップでこの仕事を辞めてしまう人が出てきます。それは、新しいスタッフが来て喜んでいた利用者さんを間接的に裏切ることになりますよね。
介護講師の役割は、介護職の人数を増やすことではなく、正しい知識と技術を持った人材を育て、利用者さんの生活を間接的に支えることです。だからこそ、現場のリアルは包み隠さず伝えています。
──講義をとおして、受講生にはどんなことを伝えたいと考えていますか?
受講生には「利用者さんは介護職を選べない」ということを必ず伝えています。厳しい言い方になりますが、介護は誰でも始められても、誰でもできる仕事ではありません。
施設に入居した人の晩年が幸せなものになるか、不幸なものになるかは、担当する介護職次第です。僕の講義を受けた人には、利用者さんから「出会えてよかった」と思ってもらえる存在になってほしい。そのために僕も、受講生から「この先生でよかった」と思ってもらえるよう、毎回全力で教壇に立っています。
──「出会えてよかった」と思われるほどの信頼関係を築くのは難しいですよね。「仕事の割に対価が見合わない」という声も多いですが、庄司さんはどうお考えですか?
もちろん、制度上賃金が低いという課題はあります。しかし、現場を見ていると「今の働きでこの対価をいただくのは、むしろ高すぎるのではないか」と感じる場面もあります。
介護サービスは、自己負担が1〜3割なので安く感じがちですが、本来は高価なものです。もし自分が客だとして、作業的なケアや放置に近い対応をされたら、その金額を支払いたいと思うでしょうか。
真面目な職員も多くいますが、ルーチンワークとしてこなしている職員が、待遇への不満だけを口にするのは少し違うと思います。プロである以上、「私のケアにはこれだけの値段の価値があります」と胸を張って言える仕事を目指すべきです。
──自分のケアに値段をつけるのは興味深い考え方ですね。
安売りする必要はありません。その代わり、プロとしての責任を持ち、対価に見合う価値を届ける義務がある。それが専門職というものです。
──さまざまな介護講師の方に伺っているのですが、庄司さんにとって「いい介護」とはどんな介護ですか?
私たち提供者にとって都合のいい介護は、「座って」と言えば座ってくれて、「お風呂」と言えば入ってくれる、管理しやすい介護です。
でも、利用者さんにとっての「いい介護」はその真逆で、わがままを言えることなんです。もし人生の最期のステージに立ったら、我慢なんてしたくないですよね。わがままな人はわがままに、怒りっぽい人は怒りっぽく、その人らしさを最期まで貫いてもらう。それを支えるのが「いい介護」だと思います。
──最後に、これから介護職を目指す人へメッセージをお願いします。
綺麗事だと言われるかもしれませんが、一緒に笑って、一緒に泣いて、人の人生の最期を彩れるのが介護の仕事の醍醐味だと思います。
介護職は、泥臭いかもしれないし、「3K(きつい・汚い・危険)」などと、ネガティブな言葉で語られることもあります。でも、誰かが言い続けなければ、誰も理想を目指せなくなるので、僕は胸を張って綺麗事を言い続けます。
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