変形労働時間制をわかりやすく解説!メリット・デメリット、残業の取り扱いなどについて

求人情報を見ていると「変形労働時間制」という記載を見ることがあります。今回は変形労働時間制のメリットとデメリット、残業代の取り扱い、そのほかの労働制度との違いをわかりやすくご紹介します。

目次

1.変形労働時間制とは

転職や復職の準備で求人情報を見ていると「変形労働時間制」の記載がある求人があることに気づきます。しかしながら、実際にどのような働き方なのかきちんと理解している人は少ないのではないでしょうか。いざ働きはじめて「思っていた働き方と違う!」ということにならないよう、基本知識を押さえておきましょう。

変形労働時間制は、事業所の繁忙期と閑散期がある程度決まっている場合、その時期に合わせて労働時間を調整できるというものです。

労働基準法では、労働時間は1週間40時間、1日8時間までと定められており、この基準を超えると労働基準法違反になってしまいます。とはいえ、繁忙期にはやるべき仕事が積み重なり、勤務が1日8時間を超えてしまうこともあるでしょう。

そんなとき、変形労働時間制を取り入れていれば、法定労働時間を月単位・年単位で調整することで、勤務時間が増加しても時間外労働として扱わなくてもよくなります

たとえば、1日8時間または月40時間を超える分の労働時間を想定して、ほかの週の労働時間を短く調整していれば問題ないということです。

変形労働時間制には、以下の4つのタイプがあります。

  • ・ 1か月単位の変形労働時間制
  • ・ 1年単位の変形労働時間制
  • ・ 1週間単位の非定型的変形労働時間制
  • ・ フレックスタイム制

この中で企業がおもに採用しているのは、1か月単位の変形労働時間制と1年単位の変形労働時間制です。

厚生労働省の「平成29年就労条件総合調査」によると、1年単位の変形労働時間制を採用している企業は33.8%、1か月単位の変形労働時間制を採用している企業は20.9%、フレックスタイム制を採用している企業は5.4%となっています。

・変形労働時間制のメリット

変形労働時間制が設定された目的は、多様な働き方に対応することです。一定時間内で漫然と仕事をするのではなく、仕事の状況に応じて働き方を変えることで、業務の効率化につながることが期待されています。

従業員が変形労働時間制で働くメリットは、忙しい時期とそうでない時期を見越して、メリハリをつけて働けることでしょう。

忙しいときは長く働き、暇なときや休みたいときは労働時間を短くしたり、休んだりして、自分のために時間を使うこともできます。

仕事の状況と労働者の希望が合えば、忙しい時期は1日の所定労働時間を10時間にして、週休3日にすることも制度的には可能です。総労働時間の減少にもつながるので、心身のリフレッシュにもなります。

一方、一部の企業では、固定労働時間制のときには必要だった残業代を削減する目的で、変形労働時間制を採用しているところもあります。変形労働時間制の仕組みや、残業時間算出のルールなどを知っておけば、「長時間働いているのに給料が下がってしまった」という事態になる前に疑問をなげかけることもできます。

・変形労働時間制のデメリット

変形労働時間制は、年単位や月単位で一日の労働時間を平均化するため、繁忙期には労働時間が長くなってしまう場合があります。

例えば、忙しい時期は10時間労働で、そうでない時期は7時間労働として平均労働時間を法定時間内に収めるとします。その場合、忙しい時期の労働時間は10時間と設定されているため、8時間を超えても残業代が支給されることがありません。一方で、7時間労働とされている日に8時間働いた場合は1時間分の残業代が支給されます。

こういった労働時間のばらつきを、人によってはデメリットとして捉えてしまうかもしれません。

2.変形労働時間制の種類

・1か月単位の変形労働時間制とは

1か月単位の変形労働時間制とは、法定労働時間を1か月以内の労働時間を平均し、1週間あたりの労働時間が40時間以内になるようにするものです。

病院などの医療系や社会福祉施設は特例措置が敷かれる事業となっていて、特例を満たす場合には1週間あたり44時間まで時間外扱いになりません。この制度を導入する事業者側は、就業規則への記載が必要となります。

・1年単位の変形労働時間制とは

1年単位の変形労働時間制は、法定労働時間を1か月以上から1年までの労働時間を平均し、1週間あたりの労働時間が40時間以内になるようにするものです。1年の中で繁忙期と閑散期の波がある業種に多く見られる制度です。

しかしながら、便利な制度である一方、1年の総労働時間の基準さえ超えなければ偏ったシフト編成が可能になってしまうという欠点があります。

そのため、1日あたりの労働時間は10時間まで・連続勤務は6日までという決まりがあります。こちらは1か月単位の変形労働時間制と異なり、設定した内容で労使協定を結んだ上で、労働基準監督署にその内容を提出しなければなりません。

・1週間単位の非定型的変形労働時間制とは

変形労働時間制の中で業種を限定しているのが、1週間単位の非定型的変形労働時間制です。導入できる業種は、労働者が30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店に限られます。

これらの業種は多忙な日と暇な日の差があったり、天候によっても集客に差が出やすくなったりします。そのため、業務状況にあわせた労働条件を就業規則などに記載することができません。この状況を改善するために、毎日の労働時間を1週間単位で柔軟に決められるようにしたものです。

1週間の変形労働時間制を採用する場合、1日あたりの労働時間は10時間までになります。よって1日10時間・1週間の労働時間が40時間を超えない範囲でシフトが作成されます。

シフトはその週が始まるまでに、書面で通知されなければなりませんが、台風等の緊急でやむを得ない状況が発生した場合は、前日までであれば変更も可能となります。

また、シフト作成時には、労働者の都合も確認した上で作成することも通達されています。これらの規定が守られた上で運用されているのか確認しておくとよいでしょう。

・フレックスタイム制とは

フレックスタイム制も変形労働時間制の1つです。日々の始業時間・就業時間を自分で決めて労働することができます。また、就業規則で必ず労働すべき時間をコアタイムとして設けることもできます。

対象となる業務や労働者の制限はなく、3か月以内の一定期間を「精算期間」と定め、その期間を平均し、1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内で労働します。

労働時間は生産期間内で算出します。実際の労働時間が過剰だった場合は、時間外労働として精算し、不足があった場合には、次の生産期間に繰り越したり賃金をカットして精算します。

1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制との違いは、1日の労働時間が決まっているかどうかです。また、始業時間・終業時間を自分である程度決めることができるという点も異なります。

労働者が自分のライフスタイルにあわせて勤務時間を調整できるというメリットがある一方で、日々の残業申請がないため、退社時間が遅くなったり、時間調整のために仕事がなくても会社にいる労働者が出やすくなったりします。

3.変形労働時間制のポイント・注意点

・残業時間はどうなるの?

固定時間制では定時が決まっているので、残業時間はわかりやすいのですが、変形労働時間制では、残業時間をどのように考えたらよいのでしょうか。

1か月単位の変形労働時間制では、残業を次のように考えます。

1日単位

・8時間を超える労働時間が定められている日は、その時間を超えた分が残業時間

・8時間を超えない労働時間が定められている日は、8時間を超えた分が残業時間

1週間単位

・40時間を超える労働時間が定められている週は、その時間を超えた分が残業時間

それ以外の週は、40時間を超えた時間が残業時間

1か月単位

変形労働時間制の対象期間の法定労働時間(週平均40時間)を超えた分が残業時間

1年単位の変形労働時間制でも、1日単位と1週間単位の残業時間の考え方は同じです。そのほか、月単位ではなく、年単位で所定労働時間を超えていた場合は残業とみなされます。

もし、就業規則等に記載されている労働時間の合計が、法定労働時間を超えている場合も、超えた分は時間外労働です。

また、22時から5時の深夜労働に対しては、就業規則で決められた所定労働時間内であっても割増賃金が発生します。

・変形労働時間制は労働時間を繰り越せない

変形労働時間制で働いている場合に注意すべきことは、月単位で労働時間を算出するからといって、日をまたいでの労働時間の調整はできないということです。そのため、本来定められているその日の労働時間と実際の労働時間が異なってしまったときには注意が必要です。

たとえば、就業規則で8時間労働が定められている期間に1日9時間働いたからといって、翌日労働時間を1時間短くしても、平均して8時間働いたことにはなりません。

1時間超えて仕事をした日は、1時間分残業代が出ることになりますし、翌日1時間短くした場合は1時間の早退扱いとなってしまいます。

・変形労働時間制の会社では就業規則をチェック

とくに1年単位の変形労働時間制を採用している場合、年間の労働時間が法定労働時間内に収まっていないこともあります。年間の休日が少い場合などは注意が必要です。もし、法定労働時間をオーバーしている場合は、変形労働時間制を採用していても、オーバー分には割増の残業代が発生します。

しかし、そのまま「規定時間内」であると考えている企業もあります。そんな状況に陥らないためには、就業規則の確認が大切です。勤務日カレンダーや、月単位のシフト表などを確認すると同時に、「休日」項目に目を通し、年間の労働時間を確認してみるとよいでしょう。

変形労働時間制を採用している企業で働く場合は、就業規則を確認し、法定時間を超える時間が所定労働時間として設定されている場合は、遠慮なく問いあわせてみましょう。

4.その他の労働制度との違い

労働時間制度には、変形労働時間制以外に以下のような制度があります。

  • ・固定時間制
  • ・みなし労働時間制

固定時間制は、始業時間と終業時間、休憩時間などを就業規則で定めた労働時間制度です。これに対して、固定時間制以外の変形労働時間制、みなし労働時間制を「弾力的労働時間制度」といいます。

弾力的労働時間制度は、ワークライフバランスの観点から「多様な働き方」が実現できるように整備されたものです。

弾力的労働時間制度を採用する場合は、労使協定を結んだ上で、始業・終業の時間やみなし時間など、運用方法を決定します。それにより、労働基準法で規定されている法定労働時間の原則を適用せず、例外的な取扱ができるようになるのです。

厚生労働省の「平成29年就労条件総合調査」によると、変形労働時間制を採用している企業は57.5%、みなし労働時間制を採用している企業は14.0%です。

変形労働時間制をしているのは100~999人規模の企業が多く、みなし労働時間制を採用しているのは1,000人以上の規模の企業が多くなっています。

・みなし労働時間制とは

みなし労働時間制には、以下の3つの働き方があります。

  • ・事業場外みなし労働時間制
  • ・専門業務型裁量労働制
  • ・企画業務型裁量労働制

実際の労働時間の算定が難しい業種や、仕事の進め方などを労働者の裁量に委ねる必要がある業種において、あらかじめ決定した時間労働したとみなし、労働時間を算定するものです。

正しく導入して運用すれば、労働時間の管理がしやすくなるだけでなく、労働時間と成果が連動しにくい業種で起こりがちな「成果で評価されていない」という不公平感が軽減されます。

しかし、みなし労働時間だけでは対応できない業務を担当しているなど、労働者に負担を強いてしまいがちな制度でもあります。実際の労働時間とみなし労働時間の差が大きくなっていないかどうか、確認してみるのもいいでしょう。

・事業場外みなし労働時間制の仕組み

事業場外みなし労働時間制は、事業所の外での仕事が多い外回りの営業職などが対象になる制度です。

現場や営業先に自宅から直行したり、事業所に戻らずに直帰したりすることが多いため、実際の労働時間が見えづらくなります。事業所の外で働く業種の人に対し、原則として所定の時間労働したとみなして、労働時間を決定するのが、事業場外みなし制です。

仕事の一部は事業場外で行うが、事務処理など一部を事業所内で行う場合は、事業場外労働のみが「みなし時間」となります。設定方法には以下の2種類があります。

1. 所定労働時間労働したとみなす方法
2. 一定時間残業したとみなす方法

1の場合は労使協定は不要です。2の場合は業務を遂行するために必要な時間はどのくらいか、労使協定で決定されていなければなりません。

変形労働時間制との違いは、始業や終業の時間が決められていないという点と残業時間の考え方です。事業場外みなし労働時間制では、事務所外の残業時間について規定の労働時間に含んで考えます。みなし労働時間が8時間であれば、6時間で終わっても、10時間労働しても、8時間労働したとみなされます。

・専門業務型裁量労働制の仕組み

専門業務型裁量労働制とは研究開発やシステム設計、新聞記者等、専門性が高い業務に従事する労働者を対象にした労働制度です。

厚生労働省令等で対象となる業務が制限されており、いずれも時間に縛られず、仕事を主体的にコントロールすることで効率をあげ、合理的に成果があげられるよう配慮されています。

勤務時間帯や出退勤も個人に任せられています。そのため、労使協定でそれまでの労働状況を考えながら、どのくらい労働したとみなすか、みなし時間を決定した上で、導入します。

実際の労働時間にかかわらず労働時間を計算するため、残業しても早退しても給与は変わりません。

変形労働時間制との違いは、「そもそも労働時間や時間外労働などの概念がない」ということです。もちろん、休日出勤や深夜労働等についての手当の規定はありますが、業務遂行の範囲であれば、出社時間や退社時間は自分の裁量で決定できます。

しかし、場合によっては、業務遂行手順の指示や出社時間の規定が運用されている例もあります。実際の労働状況とみなし労働の状況にどんな違いがあるか、確認しておきましょう。

・企画業務型裁量労働制の仕組み

企画業務型裁量労働制とは、事業の運営に関する事項の企画、立案、調査、分析業務を行う労働者を対象にした労働時間制度です。

対象は業務労働基準法で定められており、経営計画を策定したり、企業全体の営業方針を策定したりするなど、企業の中枢で事業方針を検討・決定する部署で働く人が対象となります。

また、自分の仕事の進め方や労働時間について、自分自身の裁量で調整できることも導入条件の1つになっており、始業・終業時間等が決められている人は対象になりません。

みなし時間をどのように設定するかだけではなく、各事業所で対象とする業務の範囲や対象労働者の健康・福祉確保措置をどのようにするかなど、決めておくべきことも多く、導入のハードルが非常に高いのも特徴の1つです。

労使協定での決定ではなく、労使委員会を設定し、5分の4以上の多数決で決議した上で労働基準監督署に届け出る必要があります。

変形労働時間制との違いは、専門業務型裁量動労時間制と同様、規定労働時間や、残業時間の考え方がないということです。

また、対象となる個人の裁量が非常に大きいという点もあげられます。また、企画型の場合は導入までの手続きが多く、導入のハードルも高いため、採用している企業も1%にとどまっています。

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