目次
1.年俸制とは
一年単位で給与額を決定する給与体系
年俸制とは、一年の給与総額をあらかじめ決定する給与体系です。前年度の評価や、転職してきた場合は前職の給与水準やスキルをもとに一年ごとに合意した給与額が支払われます。年功序列制度とは対照的に毎年給与を見直すため、実力主義の業界・職種を中心に取り入れられています。
支払いの頻度については、労働基準法で「給与は毎月1回以上、期日を定めて支払わなければならない」と定められています。そのため年俸制であっても一括払いをすることはできません。年12回、または12回を超える分を賞与(ボーナス)として年14回や16回に分割して支払われることが一般的です。
年俸と年収の違い
年俸は給与の支払い方法の一つであるのに対し、年収は年間の収入すべてを指します。そのため、年俸以外の収入がなければ年俸=年収となりますが、副業や不動産収入などがあればその合計が年収となります。
副業などの収入が年20万円を超える場合や、年間の給与が2,000万円以上の場合は確定申告が必要です。該当する場合は忘れずに申告をおこないましょう。
年俸制と月給制の違い
一年単位で給与額が決められる年俸制に対し、月給制は月単位で給与が決められます。そのため半期・四半期といったタイミングや、人事評価などで年の途中でも給与額が変わることがあります。
月給制では、遅刻や早退などがあっても給与額が変わらない「完全月給制」と、遅刻などの時間分が減額される「日給月給制」のいずれかの形態がとられています。
年俸制のメリット・デメリット
年俸制のメリットは、一年の給与が確定しているため収支の計画を立てやすいこと、一年間は会社の業績変動や仕事の成績の影響を受けないことが挙げられます。また、実力次第で大幅に給与が上がる可能性があることも特徴です。
表裏一体ではありますが、年間の給与が変動することはないため、期の途中で目覚ましい活躍があっても、給与への反映は翌年まで待たなければなりません。年功序列制度などと異なり、成績によっては給与が下がる可能性もある点もデメリットだといえるでしょう。
2.年俸制の残業代や手取りはどうなる?
年俸制でも残業代はある
労働時間が一日8時間、週40時間を超えた場合、年俸制でも残業代が支払われます。年俸制ではあらかじめ年間の所定労働時間の給与が決まっていますが、時間外労働、深夜残業、休日出勤があれば月給制などと同様に割増賃金が支払われます。
ただし、固定残業代(みなし残業代)が含まれている年俸契約は例外です。固定残業時間分までは給与額は変わらず、固定残業時間を超えた分の割増賃金が支払われることになります。なお、一日8時間を超えて労働させることの根拠になる36協定を結んでいる必要があり、その場合でも月45時間を超える残業は原則できません。
tips|年俸制と裁量労働制の違い
裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらずあらかじめ決まった時間分労働したものとみなす制度です。年間給与を固定する年俸制に対し、労働時間を固定する考えに近い方法です。所定労働時間より実労働時間が少なくても給与が変動しないのが特徴で、高度な専門性を有する場合やクリエイティブ職など、時間による成果を測りにくい仕事に適用されます。
裁量労働制の場合、みなし労働時間が一日8時間を超える場合や、深夜・休日労働があった場合は、その分の割増賃金が支払われます。
年俸制の手取り
年俸制であっても、ほかの給与体系と同様に総支給額から所得税や社会保険料が引かれたものが手取りになります。
たとえば年俸額600万円(残業代含む、ほかの収入を考慮しない)であれば、手取り額は470万円程度です。給与から引かれる項目(控除)は、主に以下のものがあります。
- 社会保険料(健康保険、厚生年金、40歳以上は介護保険)
- 雇用保険料
- 所得税
- 住民税
年俸制の場合、支払いの回数によって控除額に若干の変動が生じる場合があります。
具体的には、毎月の給与とは別に賞与(扱い)が年4回以上支給される場合、社会保険料の計算上は賞与ではなく通常の給与として扱われるため、賞与年3回以下のケースに比べて1回(毎月)あたりの保険料額が高くなります。住民税は賞与にはかからないため、年3回以下の賞与では控除されず、4回以上は給与として住民税の対象となります。
このようにみると支給回数が多いと損であるように思えるかもしれませんが、社会保険料の等級(標準報酬月額)が上がるということは将来の年金額が上がるということでもあり、一概に損か得かは断定できません。また、累進課税や1〜2万円刻みの保険料等級により、同じ額面で極端な控除・手取りの差は生じないよう設定されています。
tips|標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、社会保険料の算出のために用いられる一定の幅で区切った等級(に該当する金額)をいいます。入社時、または4〜6月の報酬(給料)の平均額が、どの等級に該当するかで社会保険料が決まります。厚生年金では32段階、健康保険では50段階の等級が設定されています。
たとえば報酬月額が28万円の場合、厚生年金の18等級・健康保険の21等級にあたり、保険料はそれぞれ2万5,620円・1万4,000円(40歳以上は1万6,548円)です。※令和5年3月時点・東京都
また、賞与では1,000円未満を切り捨てた額が「標準賞与額」となり、厚生年金では1回150万円、健康保険では年間573万円がそれぞれ上限となっています。
3.年俸制を採用している職種や業界
給与体系として年俸制を採用している業界や職種はあまり多くありません。代表的なものとしては以下のような例があります。
プロ野球などのスポーツ選手
プロ野球をはじめとするプロのスポーツ選手は、毎年年俸更改をおこない給与が決まるケースが多くなっています。
外資系企業
ジョブ型雇用で成果主義を採用するIT企業やコンサルティングファームなどでも、年俸制が採用されています。エンジニア、営業職、コンサルタントなどで採用されているケースが多くみられます。職種を決めずに部署異動を経験しながらの日本型雇用(いわゆるメンバーシップ型雇用)に対し、ジョブ型雇用ではあらかじめ職務内容と必要なスキルが決まっているため、スペシャリストとして高い能力が求められます。
医師、薬剤師
医療・福祉関連の職種では、医師や薬剤師の求人で年俸制がとられていることがあります。いずれも専門性が高く労働時間でスキルを評価することが難しいため、前年の評価を反映して年間の給与額を決めるのに向いている仕事といえます。
4.給与体系をしっかり把握しよう
年俸制に限らず、特徴の異なる給与体系はそれぞれメリット・デメリットがあります。とくに変則的な労働時間で働く職種では、一般的な月給制以外の方法が採用されていることもあります。
就職・転職にあたっては求人情報をよく確認し、自分の働き方に合った給与体系の仕事を探しましょう。