
1. 保健師とは?
保健指導を通じて人々の病気の予防や健康の維持に貢献する医療専門職
保健師とは、保健指導を通じて多くの人々の病気の予防や健康の維持に貢献する医療専門職です。英名はPublic Health Nurse(Public Health=公衆衛生、Nurse=看護師)です。
公衆衛生──つまり、多くの人々の健康を守るという仕事の特性上、保健師の勤務先は主に市区町村(保健センター)や保健所となります。住民からの健康相談に応じたり、乳幼児健診をおこなったり、生活習慣病や感染症、依存症について啓蒙活動をおこなったりとその活動は多岐にわたります。行政機関以外にも、医療機関や一般企業、学校で働く保健師もいます。
2020年に実施された国勢調査によると、保健師の就業者数はおよそ4万9,000人、そのうち97%が女性という結果になりました。
保健師に女性が多いのは、看護師と同じように“女性の職業”とされていた時代が長かったためです。1993年の法改正で男性も保健師として就業できるようになりましたが*、その数はまだまだ少ないのが現状です。
保健師と看護師の違い
看護師が主に病気になったあとの“治療”に携わるのに対して、保健師は主に病気になる前の“予防”に携わります。そのため支援対象者が幅広く、公務員として行政機関に勤務することが多いのが保健師の特徴です。
保健師 |
看護師 |
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主な仕事 |
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主な支援対象 |
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主な勤務先 |
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2. 保健師になるには?
保健師免許が必要
保健師として働くには、看護師国家試験と保健師国家試験の両方に合格して保健師免許を取得しなくてはなりません。
〈看護師免許を持っている場合〉
看護師免許を持っている場合は、1年以上の保健師養成課程を修了することで保健師国家試験の受験資格を得られます。

大学院の修士課程への進学や、大学の3年次への編入以外にも、大学・短大の保健師専攻科や専門学校の保健師学科への進学が選択肢として考えられます。
〈看護師免許を持っていない場合〉
看護師免許を持っていない場合は、保健師養成課程のある大学や4年制の専門学校に進学し、看護師と保健師の国家試験をW受験(同年受験)するのが最短ルートとなります。

保健師養成課程のある学校の多くが選択制を採用しています。選択制の場合、希望者多数の場合は選抜審査が実施されるため、保健師養成課程のある学校に進学したからといって、必ずしも受験資格を得られるわけではありません。
また、保健師国家試験に合格していても、看護師国家試験が不合格だった場合には保健師免許を得られません。ただし、保健師国家試験の合格実績に有効期限はありませんので、翌年以降に看護師国家試験に合格すれば、保健師免許を申請することができます。
なお、保健師の養成校は全国保健師教育機関協議会のWebページで確認できます。
>全国保健師教育機関協議会|会員校一覧
保健師国家試験の概要
保健師国家試験は年に一回、毎年2月に実施されます。
- 11月上旬〜12月上旬:願書等提出
- 2月中旬:試験日
- 3月下旬:合格発表
保健師国家試験は次の配点で全110問出題されます。
- 一般問題75問:75点満点(1問1点)
- 状況設定問題35問:70点満点(1問2点)
合格基準は毎年一定(絶対基準)で、正答率60%以上(採点除外問題がなければ87点以上)となっています。
そのほか、保健師国家試験に関する最新情報は厚生労働省のWebページからご確認ください。
>厚生労働省|資格・試験情報
保健師国家試験の合格率の推移
過去5年間の保健師国家試験の平均合格率は89〜95%で推移しています。
直近、2025年2月に実施された第111回保健師国家試験の結果は次のとおりです。
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受験者数 |
合格者数 |
合格率 |
---|---|---|---|
全体 |
7,658人 |
7,196人 |
94.0% |
新卒者 |
7,308人 |
7,045人 |
96.4% |
既卒者 |
350人 |
151人 |
43.1% |
3. 保健師の勤務先と仕事内容
保健師の勤務先は市区町村や保健所といった行政機関が7割を占めます。そのほか、医療機関や一般企業で働く保健師もいます。

行政機関(行政保健師)
市区町村や都道府県、またはそれらの自治体が管轄する保健センターや保健所で働く保健師を行政保健師と呼びます。
行政保健師は、乳幼児から高齢者まであらゆる世代の人々を対象に地域住民の健康づくりを支援しています。
〈行政保健師の活動領域〉
母子保健/精神保健/感染症対策/生活習慣病対策/難病対策/障害者支援/高齢者介護/医療安全/災害時対策/地域包括ケア推進/職員の教育・研修/職員の健康管理 など
市区町村や都道府県の本庁では、地域全体の企画調整や施策立案を担当します。さらに保健センターや保健所では次のような役割を担っています。
〈保健センター〉
保健センターは市区町村によって設置された施設で、母子保健や老人保健を中心に地域住民の健康づくりを支援します。具体的には母子健康手帳の交付や両親学級の開催、各種健診(乳幼児健診、3歳児健診、定期健診、がん検診など)の実施、健康に関する相談支援、訪問支援などをおこなっています。
保健センターは法律で設置が義務付けられた施設ではないため、保健センターを設置せず、保健所がその役割を兼ねる場合もあります。また、自治体によって保健事務所、保健相談所、健康サポートセンターなどさまざまな名前が付けられています。
〈保健所〉
保健所は都道府県や特別区、保健所政令市*によって設置された施設で、より広域的で専門性の高い業務をおこないます。主に地域の健康に関する現状と課題について調査を実施し、その結果を基に事業を立案・推進しています。そのほか、難病患者や障がい者の療養支援、感染症や依存症に関する啓発や相談支援、市区町村の保健師に対する情報提供や技術支援、人材育成などをおこなっています。
*地域保健法で定められた保健所を設置できる市(政令指定都市、中核市、そのほか政令で定める市)のこと。保健所設置市ともいう。
医療機関(病院保健師)
病院や診療所で働く保健師を病院保健師と呼びます。
病院保健師は、主に保健指導室(健診センター)や地域連携室に所属し、健診受診者の保健指導や入院患者の退院調整をおこないます。
〈保健指導室(健診センター)〉
保健指導室(健診センター)では各種健診や人間ドックを担当します。検査結果に応じて保健指導を実施し、病気になりにくい健康的な生活習慣を身につけられるようサポートします。そのほか広く健康相談にも応じています。
〈地域連携室〉
地域連携室では退院調整を担当します。退院を控えた患者さんやその家族の相談に応じ、退院後も安心して療養生活を送れるよう、行政やケアマネジャー、かかりつけ医、訪問看護ステーションと連携して支援計画を立てます。
そのほか、訪問看護ステーションで管理者や看護職員として在宅での療養生活を支えることもあります。
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一般企業(産業保健師)
一般企業や事業所で働く保健師を産業保健師と呼びます。
産業保健師は、産業医や衛生管理者と連携して従業員の健康管理をおこないます。定期健診のデータ管理や健診後のフォロー、メタボリックシンドロームや生活習慣病、インフルエンザの予防など健康に関する情報発信、そのほか従業員からの健康に関するさまざまな相談に応じることが主な業務となります。
近年は職場でのハラスメントや過労によるうつ病が社会問題となっていることから、メンタルヘルスに対するケアも重視されています。定期的なストレスチェックの実施やそのアフターフォロー、心療内科の紹介、休職・復職時の面談など必要なサポートをおこないます。
学校(学校保健師)
学校で働く保健師を学校保健師と呼びます。
学校保健師は、保健室に常駐して生徒や教職員の健康管理をおこないます。体調不良やけがに対する応急処置や定期健診の計画と推進が主な業務となります。そのほかにも、保健便りや講習会を通じて生徒たちが自分で自分の健康を守れるように啓蒙したり(保健教育)、学校や家庭での心身の悩みに寄り添ったり(保健相談)するのも大切な業務です。
ただし、学校保健師として働けるのは大学や専門学校、私立の小学校・中学校・高校のみで、公立の小学校・中学校・高校の保健室で働くには養護教諭の免許状が必要です。
保健師資格を持っている場合、所定の単位*を修得することで2種免許状を、養護教諭の養成施設に半年以上通うことで1種免許状を得られます。ただし、申請時点で保健師免許を取得してから10年以上経過している場合、30時間以上の免許状更新講習の修了が必須となります。
地域包括支援センター
地域包括ケアの中核を担う地域包括支援センターでも保健師が活躍しています。
地域包括ケアとは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい生活を続けるために、自宅を中心に医療・介護・介護予防・生活支援に関するサービスが一体的に提供される体制を指します。
その拠点として人口2〜3万人に対して一ヶ所を目安に設置されているのが地域包括支援センターで、市区町村やその委託を受けた社会福祉法人などによって全国におよそ7,000ヶ所(ブランチ含む)が整備されています(参考:厚生労働省)。
地域包括支援センターには保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャー(主任介護支援専門員)が常駐し、その地域で暮らしている高齢者やその家族からの相談に応じています。
保健師は保健医療、社会福祉士はソーシャルワーク、主任ケアマネジャーはケアマネジメントの専門家として、それぞれの専門性を活かしながらチームで課題解決に取り組みます。
4. 保健師の働き方
保健師の一日
地域包括支援センターで働く場合を例に取ると、保健師の一日はおおむね次のようになります。

保健師の休日
保健師の仕事は保健指導が中心となりますので、勤務先を問わず(行政、病院、学校、一般企業)カレンダー通り土日祝日が休みの週休2日となることが一般的です。
ただし地域包括支援センターの場合、利用者のニーズに応えるために土曜日も開所する施設が増えています。そのため勤務先の地域包括支援センターによっては、日曜祝日+平日1日の変則週休2日となることがあります。
5. 保健師の給料
ジョブメドレーに掲載されている求人から保健師の賃金相場を算出しました。なお、残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
【全国平均】保健師の月給・時給・年収の相場
2024年12月時点の全国の保健師の時給・月給・年収の相場は次のとおりとなりました。
下限平均 |
上限平均 |
総平均 |
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パート・アルバイトの時給 |
1,438円 |
1,705円 |
1,569円 |
正職員の月給 |
25万1,113円 |
29万8,764円 |
27万3,971円 |
正職員の年収* |
351万5,582円 |
418万2,696円 |
383万5,594円 |
6. 保健師の将来性
日本における保健師の活動は、1920年代に結核患者に対する巡回看護や妊婦や乳児に対する訪問指導が積極的におこなわれるようになったのが始まりとされています。
当時は結核の全国的な流行や乳児死亡率の高さが問題となっていました。保健師は助けを必要とする人々の家を一軒一軒訪問し、健康問題を引き起こしている原因や環境を自身の目で確かめ、地域の人々と協力しながら問題の解決に努めてきました。
衛生環境が改善され、公的医療保険制度が確立され、医療技術が発達した現在でも健康問題は存在しており、保健師の活動の本質も変わらず受け継がれています。
戦後、日本では世界的に類を見ないスピードで少子高齢化が進み、社会構造が大きく変化しました。それにともない人々をめぐる健康問題は年々多様化、複雑化しています。
メタボリックシンドロームや生活習慣病、ネグレクト(育児放棄)、児童や高齢者に対する虐待、引きこもりや自殺を含むメンタルヘルスの問題、新型インフルエンザや新型コロナウイルスなどの新興感染症の流行、自然災害の増加、健康格差の拡大。思いつくだけでもこれだけの問題と対峙しなくてはなりません。
問題の解決にはさまざまな専門家や地域の人々との連携が必要です。古くから公衆衛生の専門家として訪問活動や予防活動に従事してきた保健師には、多職種連携の要として活躍することが期待されています。
参考
- e-Gov法令検索|保健師助産師看護師法
- 厚生労働省|地域における保健師の保健活動について(◆平成25年04月19日健発第419001号)
- 厚生労働省|地域包括ケアシステム