【2026年度診療報酬改定】給料や仕事内容、働き方はどう変わる?現場の疑問に専門家が回答

2026年6月から実施される診療報酬改定。今回の改定は、単なる点数の見直しにとどまらず、インフレへの対応や深刻な人手不足を見据えた医療提供体制の変化が注目されます。改定の主なポイントと、給料や働き方など現場への影響について、20年近く医療機関で改定対応をおこなってきた専門家に聞きました。

【2026年度診療報酬改定】給料や仕事内容、働き方はどう変わる?現場の疑問に専門家が回答_KV

目次

診療報酬改定とは?

診療報酬とは、医師の診察や検査・手術・投薬など、医療行為ごとに国が定めた「公定価格」のことです。医療機関はこの価格に基づいて保険請求をおこなうことで収入を得ています。

診療報酬の仕組み

この価格体系は2年に1度見直されており、診療報酬改定の内容によって、医療機関の経営方針やスタッフの処遇、働き方が大きく左右されます。

これまでの改定は主に、医療費の適正化と抑制に重点が置かれていました。しかし今回の改定では、限られた人員で医療を維持するための仕組みづくりを重視した内容となっています。

少子高齢化・人口減少が加速するなか、2040年には団塊ジュニア世代が65歳以上となり、高齢者人口がピークを迎えます。医療・介護の需要が急増する一方、働き手は減り続ける事態に対応した改定といえます。

2026年診療報酬改定の重要ポイント3つ

今回の改定は多岐にわたりますが、医療従事者が特に注目すべきポイントは以下の3点です。

1.賃上げの推進

幅広い職種を対象に、2026年度〜2027年度それぞれに+3.2%のベースアップという数値目標が掲げられています。こうした賃上げを実現するために、今回の診療報酬全体の改定率は、直近5回と比較しても突出して高く設定されています。

*40歳以上の医師・歯科医師・薬局薬剤師、業務委託により勤務する者、経営者、法人役員を除く

コロナ禍以降のインフレと物価上昇の影響で、他産業のベースアップが進むなか、医療業界の賃金は構造的に上がりづらく、このままでは人材流出が加速する懸念がありました。

なかでも、看護補助者と事務職員に+5.7%(他職種では+3.2%)という高い目標が設定されている点が特徴です。無資格でも勤務できるこれらの職種は、飲食や小売など他産業との人材争奪戦になっており、重点的な手当てが必要と判断されました。

給料への具体的な反映のされ方については、「Q.実際に給料は上がる?」をご覧ください。

2.人材不足を前提とした医療体制の再編

都市部と地方の医師偏在や地域格差への対応として、小規模地域・離島での医療提供体制への評価が強化されます。また、大病院は高度専門医療に集中し、診療所・クリニックはかかりつけ医として日常の管理をおこないながら、必要に応じて大病院と連携する役割を担うという機能分担が、対応しなければ報酬に直結する実効性を伴った仕組みとして組み込まれました。

在宅医療は引き続き重視される一方、同一建物(高齢者向け住宅など)への集中的な訪問に依存したモデルへの評価は厳格化されています。現場への具体的な影響は「Q.在宅需要は増える?」で触れます。

3.業務効率化と協働の推進

ICT・AI活用がこれまでの「推奨」から制度的な後押しへと格上げされました。ICTを組織的に活用している場合、配置基準が緩和されるケースもあります(詳細は「Q.業務負担は減る?」をご確認ください)。

また、地域の急性期医療を担う保険医療機関に管理栄養士理学療法士作業療法士言語聴覚士臨床検査技師などの多職種が配置され、チームとして協働することを評価する「看護・多職種協働加算」が新設されます。さらに、医師がオンラインで診療をおこなう際に現場の看護師が患者のそばに同席する「D to P with N(看護師同席オンライン診療)」の評価も強化されました。

現場の疑問に専門家が解説

今回の改定は、給与・業務内容・受診体制・就労先選びにも大きく関わります。制度の説明だけではなかなか解消されない現場目線の疑問を、専門家に聞きました。

話を聞いた人

吉澤さんアイコン

社会保険労務士 吉澤宏行さん

吉澤社労士事務所代表。医療機関で27年間事務職に従事し、総務・経理・医事・健診部門など幅広く経験。2024年4月に独立し、現在は医療機関専門の社労士として労務と人材課題に取り組む。著書に『医療機関のペイシェントハラスメント対策実務:「職員を守る」組織体制のつくり方・動かし方』(kindle出版)がある。

Q.実際に給料は上がる?

A.今回盛り込まれた賃上げ分の目標数値を見ても「必ず賃上げを実現する」という国のメッセージに感じます。なので、多くの医療機関で何らかの形で賃上げがおこなわれる見込みです。

ただし、反映のされ方や時期は職場によって異なります。ベースアップ評価料の原資は「月々の賃金への反映(基本給)」が望ましいとされていますが、処遇改善手当やベースアップ手当、または賞与や一時金としてなど、実際にどう支給されるかは医療機関によって異なります。

Q.業務負担は減る?

A.ICT・多職種連携をうまく活用できれば負担は減りますが、導入の仕方次第で「二重作業」が増えるリスクもあります。

ICTやAIの活用により、職種別に以下のような業務軽減が期待され、配置基準の緩和が認められる場合もあります。

職種

軽減が期待される業務例

配置基準の緩和

看護師

  • 夜間の見守り訪室(センサー代替)
  • 音声入力による記録
  • 多職種チャット連絡 など

配置基準の1割緩和

医師事務作業補助者

  • 生成AIや定型的な作業を自動化する仕組みを組織的に活用

1人を1.2〜1.3人としてカウント可能

事務職員

  • AI問診による窓口入力
  • ICTによる予約・会計・処方連携
  • 会議・委員会などの議事録自動作成

要件変更なし

医師

AIによる

  • 診断書の作成
  • 紹介状の作成
  • 退院サマリーのドラフト作成 など

要件変更なし


ただし、ツールを導入するだけでは現場にとっては、操作に慣れるための手間や時間が余分に発生し、負担が増すこともあります。

「単純作業を減らして、患者さんとじっくり向き合う時間をつくり出す」という目的を現場で共有することが大切です。業務フローそのものを再設計したうえで導入を進めることで、配置基準の柔軟化という制度メリットも活かせます。

Q.受診体制は変わる?

A.今回の改定で、大病院は高度専門医療に集中し、診療所・クリニックはかかりつけ医機能と大病院との連携体制を担うという方向性が組み込まれました。

大病院(特定機能病院等)で起きること

  • 診療所・クリニックへの逆紹介割合の基準が引き上げられ(30‰未満→50‰未満)、基準に達しない場合は初診料・外来診療料が減算
  • 同じ大病院に12回以上再診している「安定した患者」も逆紹介の対象に

診療所・クリニックで起きること

  • 「特定機能病院等紹介患者受入加算」が新設され、大病院からの紹介患者の受け入れが評価される
  • 専門医とかかりつけ医が共同で治療管理をおこなう「連携強化診療情報提供料」の対象も拡大
  • 24時間対応やBCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)の策定など、災害などの緊急時にも責任を持って対応する体制が求められる

こうした役割分化に伴って、患者さんからは「病院で診てくれない」といった不満が出る可能性もあります。大病院の窓口スタッフには、医療制度を噛み砕いて納得していただくコンシェルジュ的なスキルが新たに求められるようになります

Q.在宅需要は増える?

A.新たな地域医療構想では入院医療の縮小がテーマとなり、急性期病院の集約・病床削減が加速する見通しです。それに伴い、2040年に向けて75歳以上の訪問診療需要は大幅な増加が見込まれています。一方で、量をこなすモデルで運営してきた訪問事業所は、質の高いサービスへの転換が求められます。

在宅需要の増加に伴い、訪問看護師には今後、次のようなスキルが求められます。

今後訪問看護師に求められるスキル

コミュニケーション力

  • 意思決定支援に関わり、患者の「どう生きたいか」に寄り添う

患者・家族への教育・指導スキル

  • 訪問頻度が減っても安定した在宅生活を維持するための自己管理支援

高度なアセスメントと言語化能力

  • 患者の変化を敏感に捉え、医師や多職種に的確に伝える

ICT活用とチームワーク

  • タブレット・チャットツールでリアルタイムに多職種と情報共有する「調整力」

また、今後新たに訪問医療に携わる場合、職場選びで以下の点を重視すると良いでしょう。

経営の安定性

  • 同一建物への訪問に過度に依存していないか
  • 重症患者への対応・看取り・24時間緊急対応体制があるか

働きやすさ

  • 記録の電子化・モバイル端末による情報共有など、ICTを活用しているか
  • 医師・リハ職・介護職と日常的に連携するチーム体制があるか

専門性の向上

  • 特定行為研修の支援など、スキルアップ支援体制が整っているか
  • 病院出身者が在宅医療に適したスキルを再習得できる教育体制があるか

Q.勤務先が改定に対応しないとどうなる?

A.制度変化に対応できる病院と、従来の立ち位置に固執する病院の格差が鮮明になるといえます。今回の改定では、自院が「地域の中でどのような役割を担う施設として残るのか」を再定義できるかが問われています。

例えば、「急性期病院」の看板を掲げながら、実態として救急や重症患者の24時間対応をおこなっていない「名ばかり急性期病院」は数多く存在します。今回新設された急性期病院A一般入院料には、以下の実績要件が課されています。

  • 看護師の配置基準 7:1人
  • 救急搬送 年2,000件以上
  • 全身麻酔手術 年1,200件以上 など

これらをクリアできない病院は高い入院料が算定できなくなり、回復期や地域包括ケアへの機能転換を迫られます。

勤務先の将来性を見極めるうえで、以下の点をチェックしてみましょう。

勤務先の将来性を見極めるチェックリスト

  • 2040年に向けて、地域の中でどの機能を担う施設として残ろうとしているのか
  • 施設長・管理職が地域医療構想を理解しているか
  • 紹介・逆紹介、在宅連携、救急受け入れの実績があるか
  • DX・ICT・タスクシフトへ具体的に動いているか
  • 賃上げや人材育成を継続的に実施しているか
  • 職種間のコミュニケーションを重視しているか(心理的安全性・HRTの原則

*HRT(ハート)の原則:Humility(謙虚)、Respect(尊敬)、Trust(信頼)の頭文字を取った行動原則。チームの心理的安全性やコミュニケーションを円滑にする考え方。

適切な処遇とスキルを発揮できる環境を

今回の改定内容から、吉澤さんは次のように話します。

吉澤さん:インフレが急激に進んだいま、従事者自身のやりがいや意欲だけでは働き続けてもらうことが難しくなっています。適切な処遇と、自分の専門性が活かせる環境の両方がそろって初めて、医療に携わりたいという気持ちになるのではないでしょうか。今回の改定は、それを実現するための制度的な後押しです。あとは、各医療機関が従事者を守るためのアクションを起こすことが期待されます。

本記事は2026年4月時点の情報をもとに作成しています。診療報酬改定の詳細は厚生労働省の公式告示・通知をご確認ください。

参考

厚生労働省|令和8年度診療報酬改定説明資料等について

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