1.スポーツトレーナーとは
1-1.スポーツトレーナーの概要
スポーツトレーナーとは、スポーツをする人が最大限のパフォーマンスを発揮できるように、技術指導や健康管理、ケガの予防、リハビリなどの指導をおこなう専門職です。
指導対象はプロのアスリートや実業団が中心ですが、近年のスポーツ志向・健康志向の高まりから、フィットネスクラブやスポーツジム、地域のスポーツチーム、部活動など、一般人向けにもおこないます。
1-2.スポーツトレーナーの仕事内容
スポーツトレーナーの主な仕事内容は次の3つです。
■運動能力・パフォーマンスを高めるトレーニング指導
指導相手の運動能力やパフォーマンスを高められるよう、状況に合わせたトレーニングメニューを作成し指導します。各スポーツの特性に応じた筋力を強化するトレーニング、柔軟性を高めるトレーニング、バランス感覚を高めるトレーニングなどがあります。
■ケガの予防と応急処置、リハビリ
ケガを予防するためのマッサージや、ケガをした際のアイシングやテーピング、止血などの応急処置をおこないます。ケガをしたあとは主治医らが定める治療方針に従いながら、回復期の過ごし方やトレーニング内容について提案します。
■日々の健康管理をはじめとしたコンディショニング
試合や練習にベストな状態で臨めるよう、日々の健康管理をはじめとしたコンディショニングを担当します。食事や睡眠などの生活習慣に関するアドバイスのほか、良い精神状態で競技に取り組めるよう、モチベーション管理などのメンタルサポートも重要です。
1-3.スポーツトレーナーの種類
プロのアスリートへ指導をおこなうスポーツトレーナーには、得意とする役割ごとに以下のような呼び名があります。それぞれの業務範囲は重なるところも多く、1人のトレーナーが役割を兼務することも少なくありません。いずれのトレーナーもケガを防ぎ、選手のコンディション調整をサポートする点は共通しています。
■ケガの処置から健康管理をおこなう「アスレティックトレーナー」
ケガの応急処置や復帰に向けたサポートを中心に、ケガ予防のための情報提供、健康管理などをおこなう。スポーツトレーナーの中でも認知度が高く、アスレティックトレーナーの資格も複数存在する。
■日々の健康管理を支える「コンディショニング(フィジカル)トレーナー」
指導相手がパフォーマンスを発揮できるよう、日々の健康管理をサポートし、試合や練習前後のコンディションが整うようにサポートする。「フィジカルトレーナー」とも呼ばれる。
■パフォーマンス向上を支える「ストレングストレーナー」
指導相手のパフォーマンスを向上するために、体力や身体機能を高めるトレーニングメニューの作成やトレーニング方法の指導を中心におこなう。
■ケガの回復をサポートする「メディカルトレーナー」
ケガをした人の身体機能・運動機能の回復をはかり、復帰に向けたサポートをする。治療やリハビリを担当する医師や理学療法士らとも連携を取りながら、日常生活のアドバイスや復帰に向けたトレーニングメニューの作成・指導をおこなう。
またこれら以外にも、フィットネスクラブやスポーツジムなどで一般人を対象に指導する「フィットネストレーナー」も、スポーツトレーナーの一種です。
■スポーツジムなどで活躍する「フィットネストレーナー」
フィットネスクラブやスポーツジムなどで、利用者の目的に合わせたトレーニングメニューの作成・提案・指導、マシンの使い方のレクチャー、スタジオレッスン、施設内の清掃や点検などをおこなう。「スポーツインストラクター」とほぼ同じ役割を担うことが多い。
tips|「スポーツトレーナー」と「スポーツインストラクター」の違いは?
スポーツトレーナーとよく似た職業に「スポーツインストラクター」がありますが、この2つの仕事は指導内容と指導対象に違いがあります。
指導内容について、スポーツインストラクターは「技術指導」がメイン。一方のスポーツトレーナーは「トータルサポート」として技術指導以外にも健康管理やケガの予防、リハビリなどのより広範囲を担当します。
指導対象については、スポーツインストラクターは一般人に教えることが多いのに対し、スポーツトレーナーはプロのアスリートや実業団を中心に指導します。
実際の働き方を見るとこの2職種の境界は曖昧になっていることもありますが、トレーナーとインストラクターには原則このような区別があることを理解しておくと良いでしょう。
スポーツインストラクターについて詳しくはこちら
>スポーツインストラクターとは?
2.スポーツトレーナーの働き方・就業先
2-1.スポーツトレーナーの活動形態
下の表は、日本スポーツ協会がおこなった「第一回日本のトレーナー実態調査」の結果です。これによると、スポーツトレーナーとしてフルタイムで働いている人は全体の約2割。本業を別に持ちながらトレーナー業務をおこなっていたり、複数チームを掛け持ちで担当したりする人が多いようです。
現在の活動形態に最も近いものは? | |
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パートタイム(有償)のトレーナーとして活動している | 32.0% |
フルタイム(有償)のトレーナーとして活動している | 23.0% |
ボランティア(無償)のトレーナーとして活動している | 15.2% |
教育機関で教員としてトレーナー活動をしている | 6.2% |
トレーナーとしては全く活動をしていない/ほかの業種で働いている | 23.6% |
※調査対象数:1,294人
(出典:日本スポーツ協会|第一回日本のトレーナー実態調査|2018年)
2-2.スポーツトレーナーの就業先
スポーツトレーナーの働く場所は多岐に渡り、就職難易度や安定性、収入面などもそれぞれ異なります。どのような選択肢と特徴があるのか見てみましょう。
■プロのアスリートチームで働く
プロ野球球団やプロサッカーチームなどと契約を結ぶ働き方。人気が高く狭き門であり、実力主義のため成果を出せない場合は契約打ち切りになることもある。
■プロの個人アスリートと契約して働く
ゴルフやテニス、水泳、陸上などの個人種目で見られる、個人と契約を結ぶ働き方。マンツーマンでのトレーニングが基本となるため、相手との相性が重要となる。プロのアスリートだけでなく、マラソンの市民ランナーなどを指導する人もいる。
■企業の実業団チームで働く
企業のスポーツチームである実業団で働くスポーツトレーナーは、選手と同じくその企業の社員として勤めることが一般的。そのため給与や福利厚生などの待遇が良く、比較的安定して働ける環境と言える。
■フィットネスクラブやスポーツジムで働く
フィットネスクラブやスポーツジムに、正社員やパート・アルバイトとして働く方法。社内研修や教育体制がある企業に入社すれば、未経験や無資格でもスポーツトレーナーとしてキャリアを始めることができる。
■地域の部活動やチームで働く
スポーツに力を入れている中学校・高校・大学の部活動や、地域のスポーツチームなどと契約を結ぶ働き方。ほかの就業先と比べて報酬は低めのため、複数チームを掛け持ちするか副業として働く人が多い。
■スポーツトレーナーの派遣会社に登録して働く
スポーツトレーナーを扱う派遣会社に登録しておき、必要に応じてフィットネスクラブやスポーツジム、クラブチーム、部活動などへ派遣される働き方。
■海外で働く
スポーツトレーナーはアメリカなどの海外のほうが認知度が高く活動場所も多いと言われている。国際的に通用する資格を取得し、海外で活動するという道もある。
■芸能・芸術分野で働く
スポーツシーン以外では、芸能人や歌手などのアーティスト、劇団などと契約を結び、ダンスやパフォーマンスの指導、身体づくりや健康管理などをサポートするスポーツトレーナーもいる。
tips|病院や治療院で働くスポーツトレーナーが多い
本業として病院や治療院(整骨院・整体院・鍼灸院など)で働きながら、副業としてスポーツトレーナーの仕事をしている人は多くいます。前述の「第一回日本のトレーナー実態調査」の結果で「パートタイムのトレーナーとして働いている」と回答した人のうち、約6割が病院や治療院で働いているという結果でした。
3.スポーツトレーナーになるには
3-1.資格は必須ではない
スポーツトレーナーになるのに必ずしも必要な資格はありません。しかしトレーナーとして教える立場になる以上、スポーツに関する知識はもちろん、解剖学や生理学、医学、栄養学などの幅広い知識と、それらを実践できる指導力が求められます。スキルを証明するためにも、スポーツトレーナー関連の資格は取得しておいて損はないでしょう。
先述した日本スポーツ協会の実態調査でも、8割以上の人が「何らかの民間資格または医療系の国家資格を保有している」と回答していました。
3-2.持っていると有利な資格
実際にスポーツトレーナーの資格取得者が多く、実業務でも役立つ資格をいくつか紹介します。
理学療法士 | |
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認定団体 | 厚生労働省(国家資格) |
特徴 | 病気やケガにより体力や筋力などが低下した人の基本的な運動能力を回復させる専門職。運動や電気刺激、マッサージなどの治療方法がある。 |
取得方法 | 理学療法士の養成校にて3年以上の教育課程を修了し、年に1度実施される国家試験に合格する必要がある。 |
詳細 | 理学療法士とは? |
柔道整復師 | |
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認定団体 | 厚生労働省(国家資格) |
特徴 | ケガ(骨折、脱臼、打撲、捻挫など)によって損傷した骨、関節、筋肉、靱帯などに対して治療をおこなう専門職。骨や関節の調整やテーピングなどの固定法、電気などを用いた治療法がある。 |
取得方法 | 柔道整復師の養成校にて3年以上の教育課程を修了し、年に1度実施される国家試験に合格する必要がある。 |
詳細 | 柔道整復師とは? |
あん摩マッサージ指圧師 | |
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認定団体 | 厚生労働省(国家資格) |
特徴 | あん摩、マッサージ、指圧の技術を用いて身体の不調を改善する専門職。国家資格を持たずにマッサージをすることは法律で禁止されているため、この資格が必須となる。施術において器具は使用せず「撫でる・揉む・押す・さする」などの方法で症状を緩和する。 |
取得方法 | あん摩マッサージ指圧師の養成校にて3年以上の教育課程を修了し、年に1度実施される国家試験に合格する必要がある。 |
詳細 | あん摩マッサージ指圧師とは? |
鍼灸師(はり師・きゅう師) | |
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認定団体 | 厚生労働省(国家資格) |
特徴 | 鍼(はり)や灸(きゅう)を用いて身体のツボを刺激し、痛みや疲労などを軽減する専門職。はり師ときゅう師は独立した資格だが、同時に資格取得する人が多いことと、鍼・灸両方を扱う院が多いことから一般に「鍼灸師」と呼ばれる。 |
取得方法 | はり師・きゅう師の養成校にて3年以上の教育課程を修了し、年に1度実施される国家試験に合格する必要がある。 |
詳細 | 鍼灸師とは? |
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー | |
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認定団体 | 日本スポーツ協会(旧名:日本体育協会) |
有資格者数 | 4,331人(2020年10月1日時点) |
特徴 | 日本スポーツ協会が認定する公認スポーツ指導者資格のひとつ。プレーヤーの安全・健康管理、スポーツ外傷・障がいの予防、救急対応、アスレティックリハビリテーション及び体力トレーニング、コンディショニングなどの知識と技術を証明する資格。 |
取得方法 | 下記いずれかの方法で取得が可能。 ・日本スポーツ協会や加盟団体等が開催する養成講習会を受講する ・指定の大学・専門学校の授業を履修する |
詳細 | アスレティックトレーナー – スポーツ指導者 – JSPO |
日本トレーニング指導者協会 トレーニング指導者 | |
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認定団体 | 日本トレーニング指導者協会(JATI) |
有資格者数 | (2019年度のトレーニング指導者の合格者数) 1,153人 |
特徴 | トレーニング指導者として必要な知識と技能を得られる資格。レベルは3段階あり、スポーツ選手や一般人への指導レベルから、国際的なトップアスリートなどへの指導ができる特別上級レベルまでがある。 |
取得方法 | 「トレーニング指導者(基礎資格)」を取得する場合は以下のいずれかの方法で取得が可能。 ・JATIの養成講習会を受講し、認定試験に合格する ・JATI指定の養成機関で所定の科目を履修し、認定試験に合格する |
詳細 | JATI-日本トレーニング指導者協会 |
3-3.スポーツトレーナーに向いている人・必要な素質
スポーツが好きでスポーツトレーナーを目指す人は多くいますが、スポーツトレーナーの役割は徹底した“縁の下の力持ち”です。スポーツに対する情熱はもちろんのこと、指導相手である選手やチームのことを第一に考え、努力を惜しまずに支え続けることが大前提です。他人のために尽くすことをいとわない、奉仕精神がある人が向いていると言えるでしょう。
ほかにもスポーツトレーナーに求められる能力は、スポーツやトレーニングなどについて学び続ける「向上心」、人や環境の変化に気がつける「洞察力」、重要なタイミングで意思決定を下せる「判断力・決断力」、自分の考えやトレーニング手法などを言葉で伝えられる「言語化力」などがあります。
スポーツ界で活躍するアスリートやチームを指導する立場になるためには、単に知識や技術があるだけではなく、スポーツトレーナー自身の人間力も求められるのです。
3-4.スポーツトレーナーを目指す一般的なルート
スポーツトレーナーを目指す一般的なルートは、大学や短期大学、専門学校に通って必要な知識と技術を習得する方法です。もし通学が難しいようであれば、働きながらでも受験できる資格の取得を考えても良いでしょう。
■スポーツ系の大学・専門学校で学ぶ
「スポーツ科学」「健康科学」などの学部がある学校で人体構造や運動機能、トレーニング理論、応急処置の技術などについて学ぶことが可能。またこれらの学校では、理学療法士や柔道整復師などのリハビリ系の国家資格や、スポーツトレーナーの民間資格を取得できるカリキュラムが用意されていることが多い。
■医療系の大学・専門学校で学ぶ
理学療法士、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師・きゅう師などの養成校に通い、国家資格を取得する方法。卒業後は病院や整骨院、鍼灸院などで治療経験を積みながらスポーツトレーナーと二足のわらじで活動する道や、スポーツトレーナーを専業とする道が考えられる。
学校を卒業し資格を得たら、そこがスポーツトレーナーとしてのスタート地点です。実績がなければプロや実力ある選手・チームを指導することはできないので、まずはスポーツトレーナーとして活動できる環境に身を置き、実績を作っていくことから始めましょう。学生であればインターンシップや学生トレーナーとして早い時期から経験を積んでおくこともおすすめです。
プロのチームや選手の専属トレーナーに就ける人数は限られており、欠員が出たとしても公募がかかること自体が少ないです。まずは身近なフィットネスクラブや地域のスポーツチームなどで経験を積み、業界内での人脈を広げていくことを大切にしましょう。
4.スポーツトレーナーの年収・月収・給料
スポーツトレーナーの収入は、「フリーランスか会社員か」「専業か複業か」などの働き方によって大きく異なります。
プロのアスリートチームで働く場合は、年単位で契約を結び、年俸制をとることが一般的です。年収は300〜1,000万円、またはそれ以上とも言われており、経験・実力・成果によって幅があります。契約更新がされる保証はなく、所属チームの財政状況からも影響を受けるため、給与面では不安定だと言えるでしょう。
先述した日本スポーツ協会の実態調査によると、「フルタイムやパートタイムで働くトレーナーとしての年収」は「1万円〜100万円」の回答が全体の約4割でした。「300万円以下」まで広げると全体の約6割となるため、スポーツトレーナーの収入だけで生活できる人はまだ少数派のようです。
▼トレーナー活動による年収(フルタイム、パートタイム、教育のみ)
※調査対象数:792人
(出典:日本スポーツ協会|第一回日本のトレーナー実態調査|2018年)
一方で、フィットネスクラブなどの企業に勤めて働く場合は毎月決まった固定給が支払われるため、比較的安定した収入を得ることができます。さらに業務につながる資格を持っていると有利です。
スポーツトレーナーの平均給与
2023年11月時点で、ジョブメドレーに掲載されているスポーツトレーナー求人の平均給与額は下記のとおりです。残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
下限平均 |
上限平均 |
総平均 |
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パート・アルバイトの時給 |
1,129円 |
1,740円 |
1,435円 |
正職員の月給 |
22万6,685円 |
47万2,914円 |
34万9,799円 |
正職員の年収* |
317万3,586円 |
662万799円 |
489万7,193円 |
5.スポーツトレーナーの将来性
プロスポーツ界の限られたポジションに就くのは簡単ではありませんが、最近のスポーツトレーナーの認知拡大を受けて、今後スポーツトレーナーが必要とされる場面は増えていくことが予想されます。
地域の中学校や高校の部活動では、ケガの予防・適切な処置への意識の高まり、部活動のレベル強化などを目的に、より専門的な技術指導ができる外部指導員の必要性が問われています。また今後ますます高齢化が進むことから、リハビリや介護予防を目的としたトレーニングの重要性も増していくでしょう。
スポーツトレーナーの認知度が高まるにつれ、待遇面の改善も期待されます。発展途上から今後どのような動向になっていくのか注目です。