密着した人
看護師 石井智晴さん
看護学校を卒業後、病棟勤務を経験したのち、結婚・出産による8年ほどのブランクを経て看護師として復職。2014年から訪問看護リハビリステーション白樺にて所長を勤める。
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【8:30】出勤

朝は徒歩で出勤します。直接利用者宅へ向かう職員もいますが、この日は月曜日で朝に全体ミーティングがおこなわれるため、ほぼ全員が出勤します。石井さんは自宅からユニフォームを着用し、出勤後すぐに留守電の確認や職員との申し送りなどを始めます。

ミーティングではその日の予定を発表しあい、最後に会長、所長からの挨拶があります。取材当日はコロナの第7波により、利用者とその家族、職員の家族などにも陽性や体調不良などの連絡が相次ぎました。
【9:00】精算処理や業務連絡など

ミーティング後は、経費精算や職員一人ひとりに業務内容の確認などをします。9時30分から訪問開始の利用者が多いため、徐々に事業所にいる人数が少なくなってきます。
【10:00】1件目の訪問

1件目の訪問先は、事業所から自転車で5分ほどの距離にあり電動自転車で向かいます。記者も自転車で追いかけますが、あっという間に離されてしまいました。
最初の利用者さんは週2回訪問看護を受けており、主にリハビリや体操のほか、体の痛みや不調がないかなどを確認しています。

いずれの利用者宅でもまずは手洗い消毒をし、手袋を着けてから血圧の測定、体調の確認をして、合間に利用者さんの現状や気になる点をタブレット端末に入力します。
訪問看護の内容
バイタルチェック、家族からの情報共有、共有ノートを介してヘルパーからの情報収集、主治医・ナース間の連携(携帯・タブレットを使用)、処置* など
*栄養や薬に関する援助:経管栄養(胃ろう)、IVH(在宅中心静脈栄養)、点滴、静脈注射、皮下注射、在宅酸素療法(HOT)、人工呼吸療法(レスピレーター)、服薬管理、栄養管理
*排泄に関する援助:膀胱留置カテーテル、腎ろう、膀胱ろう、人工肛門(ストーマ)、人工膀胱、気管カニューレ、痰の吸引、浣腸
*衛生管理に関する援助:足浴、清掃、入浴介助、シャワー介助、褥瘡処置、爪切り、口腔ケア、リハビリ、リンパマッサージ、スキンケア など
【11:30】2件目の訪問

1時間ほどで1件目の訪問を終え事業所に戻ると、職員から入電などの情報共有を受けて、またすぐ2件目の訪問先へ。利用者宅は事業所から車で約15分のところにあり、石井さんの自家用車で向かいます。

利用者さんは事業所のなかでも6年という最も長い利用歴がある、102歳の方です。近所に住む娘さんが日々介護をしていますが、週に2〜3回は訪問看護を利用しています。これまで何度も発熱や誤嚥などがあり、5年ほど前から胃ろうを使用しています。

処置の内容は、胃ろう周辺の皮膚清掃や薬の塗布のほか、おむつ交換、清拭、経管栄養をおこないます。取材時は眠っていた利用者さんですが、石井さんがしきりに声をかけている姿が印象的でした。
【13:30】昼休憩

1時間ほどで2件目の訪問先を後にし、再び事業所へ戻ってきたら昼休憩に入ります。この日の昼食は事業所の隣にあるうどん屋で冷やしうどんをいただきました。
食後は事業所にて訪問スケジュール表を修正します。日々訪問内容は変更になることがあり、各職員が互いのスケジュールを把握できるようにしています。そのあと、訪問看護指示書*の内容をチェックして担当者へ配布します。
【15:00】3件目の訪問

3件目は事業所から車で10分ほどの距離にあり、末期がんを患っている利用者さんです。到着後、同居している息子さんと利用者さんから近況を聞きます。排便回数や認知症の進行具合、歩行能力、食事量などを確認したのち、脈拍、体重を測定します。
【17:00】申し送り

17時からはオンラインで申し送りがあり、その日の担当利用者さんについて気になったことを共有します。訪問先から自宅に帰る途中で参加している人や、自宅からの参加もあり、事業所には数名の職員しか残っていません。
【18:00】退勤

申し送り後は職員からの帰宅連絡を受けたり、報告書を作成したりと事務仕事を終えたら勤務終了です。お疲れさまでした!
訪問看護に至るまでの経緯。病院勤務との違い
訪問看護ステーションの所長を勤めて10年近くが経つ石井さん。これまでどのような経験をしてきたのでしょうか。
「看護学校卒業後は、総合病院で2年ほど勤務していましたね。そこは夜勤時に1時間おきに救急搬送されてくるような病院だったので、本当に大変でした」
機器や職員が充実しているとは決して言えない病院で、とりあえず誰でも受け入れるという体制だったそうです。出産後も子どもが4ヶ月の頃から院内託児所に預けて働いていたものの、子どもが病気がちだったこともあり、復職から4ヶ月で退職しました。
その後、8年のブランクを経てパートとして訪問看護の世界に入った石井さん。
「訪問という業務に関しては問題なかったのですが、ブランクの間に医療も進歩していて病気のことなど忘れていた部分も多く、知識を取り戻すためにも病院勤務に戻りました」
一度は訪問看護師になったものの、すぐに病院へ転職。約4年の病院勤務で学び直してから、再び訪問看護ステーションに戻り、所長となったそうです。
「所長を務めて数年後に、ちょうど父の介護が必要になって自宅で介護していたんです。残業も多く、このままの働き方じゃ介護も仕事もどっちつかずになっちゃうな……と思い、別の働き先を探していたところ、今の事業所に出会いました。今の事業所ではオンラインでのミーティング実施や連携がとれているほか、自宅から直行直帰も可能なので、子育て中の人や、私のように介護が必要な人にも働きやすい環境です」
病院勤務と訪問看護で違いは感じましたか。
「訪問看護は一日に数件まわっていれば良いから楽と思われている人もいるけれど、決してそうではありません。ほとんど一人なので病院のように指示してくれる医師や相談できる人がすぐそばにおらず、自分で判断したり、かかりつけ医などと連携するなど自分で動く必要があります。
病院やクリニックだと、外来に来て処置したり薬を処方したりして帰っていく。その後患者さんがどういう生活を送っているかまではわかりません。訪問看護をやってみて、薬が山のようにある利用者宅もあり、実際に飲めていないことを知りました。
一日3回分処方しても、飲めていなければ毎月病院に取りに行く意味がなくなってしまいます。現実を知った今は、薬の処方に関してはあくまで医師の判断にはなりますが、利用者さんに『残薬があることを伝えて、処方量を調整してもらって』などアドバイスができて、生活面を知っているからこそのサポートができるようになりました」
訪問時の心がけと感じる課題
訪問時に心がけていることはありますか。
「どんなに散らかっているお部屋でも、私たちがきれいに片付けてしまったらそれは利用者さんにとって心地の良い空間ではなくなることもあります。看護に必要なスペースはもちろん確保しますが、その人にとって快適な場所にこちらがお邪魔しているということは念頭に置いています。
そのうえで、看護や多職種との連携を通して、利用者さんがより良い生活を送れるようになると嬉しいなと感じています」
訪問看護で課題に感じることはありますか。
「利用者さんが服薬や症状で困っているとき、『こういう方法もありますよ』『こういうお薬も出してもらえますよ』などと提案しても、本人やご家族が受け入れようとしてくれないときは、難しいなって思いますね。日頃からコミュニケーションを丁寧にとって、その人となりをよく知ったうえで提案することが大事だと感じさせられます」
利用者さんから得る感謝と学びがあるから、続けられた

訪問看護を10年以上続けてこられた理由は何でしょうか。
「看護師としてではなく、人として感謝や労いの言葉をいただくことでしょうか。『暑いなかありがとう』『いつもありがとう』って言われると、点滴がうまいとか処置を褒められるより嬉しいんです。病院でも退院時に『お世話になりました』と声をかけていただくこともありますが、それとは何か違うんです」
これまでの訪問看護で印象的なことはありましたか。
「脳梗塞後に高次脳機能障害になった方がいました。それまでは穏やかな性格だったそうなのですが、ご家族にも暴言や破壊的な行動をされるようになり、私が訪問しても怒鳴られることもしょっちゅうで。
ある日、暴言に対して『そうですね、そうですね』って聞いていたら、『お前はうなづいているだけで、何にも意味がねーんだよ、苦しさが減るわけじゃねーんだ!』って言われてしまいました。
そのとき、『この人は直接こう言ってくれるけど、理性がある人でも内心そう思っているのかも。言葉に出さないだけなのかもしれない』って気付かされたんです。
自分が看護精神で言うことや態度は、必ずしも受け手にとって良く思われているとは限らない。相手を理解し、コミュニケーションを丁寧にとって関係性を築いていくことが大事だと学びました。この方に限らず、利用者さんから教わることは本当に多いです。
▼動画では実際の訪問看護の様子や、石井さんの訪問看護への思いが見られます。ぜひご覧ください。