「戻るつもりはなかったんですが」不動産会社の社長が薬剤師にそれでも戻った理由

人生100年時代、一生ひとつの職場で働き続けることが当たり前ではなくなりました。「ほかの仕事にも興味があるけれど、挑戦できるだろうか?」「もしまた今の仕事に戻ってきたら、やり直しは効く?」など悩む人もいるはず。今回は薬剤師から異業種への転職を経験し、その後再び薬剤師として復職した男性に話を聞きました。

復職インタビュー_薬剤師

薬剤師から不動産業へ転職したCさん

薬学部を卒業後に、調剤薬局2社に勤めたCさん。薬剤師の楽しさを感じ始めた頃、実家から事業を継がないかと相談を持ちかけられます。父親の後継として不動産業の社長を3年ほど経験するも、薬剤師の仕事に復職しました。転職の経緯や異業種経験が今にどう活かされているのか聞いてみました。

Cさんの経歴

上司との摩擦で1社目を退職

──1社目はどんな会社でしたか?

Cさん:もともと関西でチェーン展開していた中小規模の調剤薬局でした。これから事業を拡大していこうというところだったので、新入社員ながら意見を求められたり主体的に動けたりとやりがいはありましたね。

──そこでは何年くらい働いたんですか?

4年ほど働きました。チェーン展開はしていたものの、画一的な運営方針ではなくてそれぞれの店舗が独自のやり方でできたので、自分なりに上司に提案できる点が良かったです。新社会人だったのでやる気にも満ち溢れていましたね。

──そこからまた別の調剤薬局に転職されていますね。どのような理由で1社目を離れたのでしょうか。

中小規模ということもあり、人間関係が密になりがちだったんです。上司と考えの不一致が起きてしまって。働く人もそこまで多くなかったので距離を取ることが難しく、人間関係が煩わしくなってきて転職を決めました。あと、賃金面での不満があったことも理由です。

──2社目では改善されましたか?

そうですね。大手だったので、店舗の運営も体系立っていて自分たちでお店を作っていくというような感じではなかったんですが、人間関係は程よい距離感でした。なにより良い上司に恵まれていましたし、賃金面も改善されたので、何も問題なく働いていました。

インタビューを受けるCさん
上司と考えが合わなくなってしまい、気まずい雰囲気になったというCさん

薬剤師の楽しさがわかってきた頃に父親からの誘い

──何も不満を感じなかった2社目から、未経験の不動産業界に転職しています。

父親から、「体調を崩して働けなくなったから、自分がやっている不動産会社で働かないか」と誘いがあったんです。両親は離婚していて、父とも疎遠になっていたので、正直驚いてしまい……。

──それも不動産という未知の業界だったわけですね。転職の決意が固まるまでどれくらいかかりましたか?

話を持ちかけられてから1年、具体的に検討を始めて業務の引き継ぎから転職するまでには3ヶ月くらいかかりましたね。

──じっくりと考えて出した結論だったんですね。薬剤師の仕事を離れることや、異業種に飛び込むことへの不安はありましたか?

それはもう……ようやく薬剤師としての仕事が楽しいと感じられるようになった頃だったので、戸惑いました。一緒に働いていた後輩から「何かあったんですか?」って心配されるくらい動揺していましたね。

異業種に進むなら独身・30代前半でフットワークの軽い今だと思ったのと、親の介護を前払いするような気持ちで決意しました。不安も大きかったんですけど、やるからにはこの先ずっと不動産の仕事で頑張ろうという気持ちでした。

インタビューを受けるCさん
退職までの3ヶ月間で異業種に挑戦する気持ちを煮詰めていったそう

デスクワークすら初体験! なのに社長就任

──薬剤師の仕事と不動産業ではまったくジャンルが異なりますが、働いてみてどうでしたか?

不動産業界はもちろん、デスクワーク自体が初めてだったので働き方そのものが新鮮でしたね。銀行や中古物件を販売している会社向けに、住宅減税の申請書類や証明書類の発行、調査などをおこなう会社だったので、初めて聞く用語ばかりでした……。あと、これまではBtoCだったのが、BtoBになってメールの作成から提案書を作るなんてことも初めてで、わからないことだらけでしたね。

──社長の息子ということで、反発や人間関係で悩むことはありましたか。

特定の人との関係で悩むということはなかったです。入社したときは社員が十数人でそれぞれの仕事が忙しかったので、OJTもなく一人で業務を手探りで習得していった感じですね。

──異業種を経験されていくなかで、薬剤師の仕事に戻りたいと思ったことはありましたか?

なりました。入社してから1年くらいで一通りの業務を一人でこなせるようになって、2年目からはもう社長という責任のある立場になりました。入社してから業績を徐々に立て直していったのですが、コロナが流行してしまい、また売り上げが上がらない時期が続いていました。

会社もリモートワークに切り替えたところ、休みなくエンドレスに働く日々が続いたときは「薬剤師に戻りたいな」って思いましたね。小さい会社だったので休みも、残業代や昼休憩すらもなく、就業規則すらあってないようなもんで……(苦笑)。

インタビューを受けるCさん
業績悪化やリモートワークの推進、社長という責任感から働き詰めの生活になったというCさん

──働き方が理由で薬剤師に戻られたのでしょうか?

「自分がやらないと」という責任感から働いていたので、長時間に及ぶ勤務が嫌で辞めたわけではないです。最大の理由は、父親が経営に口出しすることが多く、折り合いがつかなかったことですね。なので、薬剤師に戻ろうと決意しました。

ブランク明けの不安は予想を遥かに超えてきた

──異業種から再び薬剤師に戻る際の転職活動では、どのようなことを重視して進めましたか?

これまで勤めた2社が調剤薬局だったので、今度はドラッグストアを経験したいと思っていました。調剤報酬の改定もあり、調剤だけで経営していくのは難しいと感じていたんです。ドラッグストアなら医薬品以外の売り上げもあるし、国でもOTCへの移行が進められているので、今後ドラッグストアのほうが伸びていくと思いました。

──転職活動は順調でしたか?

5社くらい受けてうち3つがドラッグストアだったんですが、なかなか決まらず結局2ヶ月くらいかかりましたね。新卒も2社目も、売り手市場だったのですぐに就職先が決まったんですが、今回は難航しました……。

──転職活動でブランクについて指摘されましたか?

はい。面接ではブランク期間中薬剤師の勉強は続けていたか聞かれましたし、ブランクが理由で落とされたこともありました。でも、ほかの業種でも成果を出すことができたとアピールポイントに変えて話しました。

──4年のブランクを経て薬剤師に戻ることに不安は感じませんでしたか?

不安はあったものの、薬剤師として10年の経験を積んでいるから、戻れば勘を取り戻せるんじゃないかって思っていた部分もあったんです。

でも、4年の間に調剤報酬の改定が2回あって、1社目に勤めていた頃新薬だった薬のジェネリックがもう出ていたり、薬の使い方も変わっていたり、新しい種類の治療薬が出ていたり……。もう浦島太郎状態でしたね。

あと、20代のような気持ちで働いていたら30代半ばという年齢に頭も体力もなかなかついてこなくて。お客さんに聞かれてスピーディーに対応しなきゃいけない場面でも動けないなんてこともありました。

──知識のアップデートに加えて、体力面での衰えも実感されたんですね。どのようにして最新の情報を収集したのでしょうか?

職場にいる入社1〜2年目の子に、参考になるSNSやYouTubeチャンネルを聞いて勉強しました。なかでもこれまで知識がなかったOTC薬の処方については、Twitterで一問一答形式でおすすめのOTC薬を紹介してくれるアカウントが参考になりましたね。

Cさんが参考にしたアカウント

奥村友紀:メディカルライター兼薬剤師が臨床にまつわる疑問を解説する記事

やっけんちゃんねる:薬剤師のYouTubeチャンネル。市販薬、登録販売者、ドラッグストア関連の動画など

──これまでご経験された調剤薬局との違いはどのような点で感じましたか?

接する人と内容ですね。調剤薬局の場合、病院に隣接しているところが多いので、そこの患者さんがほとんどです。でもドラッグストアだと、幅広い年齢層でさまざまな悩みを持っている人が来るんだなと実感しました。クレームの量も調剤薬局に比べて多く、店舗の前で転倒したことがクレームに発展したことも……。

あとは、調剤薬局にOTC薬を買いに来る人ってほとんどいないと思うんですけど、ドラッグストアだとやはりOTC薬の需要が高いですね。

──異業種を経験してから再び薬剤師になって、感じたことはありましたか?

まだまだ閉鎖的だなと感じることはありますね。もっとICT化が進めば、患者さんも働く側にとってもプラスになると思います。まだ紙の処方箋でのやりとりが主流ですし、待ち時間も長くなりがちです。

調剤薬局にしてもドラッグストアにしても枠組みが決まっていて、薬のピッキングをして販売する、OTC薬を販売する、加えて物販も……というやり方をしているところがほとんどです。

まだまだマンパワーでなんとかしなければならず、革新的なシステムの導入もされていないのが現状かと。

異業種の経験は新たな働き方や価値観の発見につながる

──異業種の経験は今の仕事に影響しましたか?

社外の人とのやりとりやリモートワークなどの働き方、業務内容すべてが新鮮で勉強になりました。あと、薬剤師として働いていると、一緒に働く人も薬学部を出て同じような経験を積んできた人が集まっているんですけど、異業種では経験も考え方もぜんぜん違うので、いろんな人がいるんだなと学びました。

この経験はいろんなお客さんに接するうえで役立っています。

──今後、異業種への挑戦や元いた業界への復職を考えている人にアドバイスがあれば教えてください。

異業種への転職は医療以外の世界を知る貴重な経験になりました。自分が異業種へ転職したとき、戻るつもりはなかったんですが、心の片隅に「もし会社がダメになっても、資格を活かしてまた頑張れる」という気持ちが転職を後押ししてくれて、挑戦できました。

世の中にはいろんな人がいて、働き方もさまざまだということも知りました。自分は社長という責任感から働いていましたが、誰かに雇われて異業種を経験するというのもありだなと思っています。

業務内容だけでなく、将来どんな暮らしをしていたいのか希望するライフスタイルから働き方を選ぶのもいいと思います。自分に合う仕事や働き方を模索していってください!

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