目次
1.保育士の離職率
「保育士の離職率は高い」こんなイメージをお持ちの方もいるかと思いますが、果たして本当にそうなのでしょうか。厚生労働省が発表した保育士全体の離職率は9.3%(2017年時点)。この数字は、年間で約10人に1人の保育士が離職していることを示しています。
一方、2017年当時の全産業の平均離職率は14.9%です。これらを比較すると、保育士の離職率がほかの職種に比べてとくに高いわけではないことがわかります。
保育士全体の離職率の推移
では、期間ごとの離職率はどうでしょう。厚生労働省が発表したデータを見ると、2019年から2022年の3年以内に離職した保育士は全体の約24.9%、2017年からの5年間では42.2%にのぼります。
運営元によって離職率に大きな差が見られます。私営の保育所などの離職率は3年で29.7%なのに対し、公営の場合は12.5%と低い傾向が見られます。
公営施設の離職率が低い理由としては、経験年数に応じて昇格する傾向があることや、産休・育休・介護休暇などを取得しやすく、働き続けやすい環境が整っていることなどが考えられます。
なお、厚生労働省が発表している産業別の離職率によると、保育所を含む「医療・福祉」の離職率は15.3%で、全産業の15.0%と大きな差はありません。

>保育士の働き方について詳しくはこちら
保育士になるには?必要な資格/免許や仕事内容についても解説
新卒保育士の離職率の推移
新卒で保育所などに入職した保育士1年目の離職率は、過去5年間で私営が7.2〜10.0%、公営が1.1〜3.7%で推移しています。
なお、厚生労働省の発表によると、2022年度の全産業での新卒平均離職率は、大卒で12.0%、短大卒で19.2%です。いずれも新卒保育士の離職率を上回っており、この結果からも「保育士の離職率は高い」とは言い切れないことがわかります。
tips|それでも「保育士の離職率は高い」といわれる理由は?
保育業界は人手不足や潜在保育士の問題がメディアで取り上げられることが多く、離職率が高いイメージを持たれているかもしれません。しかし、産業全体で見ると保育士の離職率は高いわけではありません。
とはいえ、職場によっては、賃金や人間関係、仕事の量などが原因で離職率が高い場合もあります。最近では離職率改善のために、賃金や働き方の改善に取り組んでいる保育所もあるため、就職や転職を考えている方は、求人や公式サイトで条件をしっかり確認しましょう。
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2.保育士のよくある退職理由
2022年に東京都が実施した5万2,856人の保育士を対象としたアンケート調査によると、退職を考える保育士の半数以上は、給料の安さと仕事の多さを理由に挙げています。

給料の安さ
退職を考える保育士のうち61.6%が、給料の安さを理由に挙げています。厚生労働省が発表している年収データを見ると、女性は全産業平均と同程度なのに対し、男性は全産業平均より約120万円低いことがわかります。
保育士 |
全産業平均 |
||
---|---|---|---|
正職員 |
男性 |
448万5,200円 |
569万8,200円 |
女性 |
393万2,300円 |
399万6,500円 |
厚生労働省|令和5年賃金構造基本統計調査より作成
>保育所の給料について詳しくはこちら
保育士の平均年収は安い?公務員の給料や処遇改善で上がるのか解説
仕事量・時間
保育士が離職を考える大きな理由のひとつに、仕事の多さや労働時間の長さがあります。子どもの保育や保護者対応だけでなく、日誌や連絡帳の記入、各行事の準備など、幅広い業務を担当しなければなりません。
職場によっては、仕事量の多さから残業や仕事を持ち帰るケースもあるようです。
人間関係
退職を考える保育士の30.1%が、人間関係の悩みを理由に挙げています。前回(2018年)におこなわれた同調査では、 転職経験がある現役保育士の退職理由の第1位は職場の人間関係(38.0%)となっており、この問題は改善傾向にあることがわかります。
>保育士の人間関係の悩みに関するインタビューはこちら
【保育士辞めたい】人間関係の悩み、保育観の不一致、給料の低さ……先輩たちの体験談
3.長く働ける保育所選びのポイント
職場環境をチェック
職場環境をチェックする際は、求人情報だけでなく、公式サイトを確認し、実際に施設を見学することをおすすめします。働きやすさの観点から、子どもたちの様子、職員同士のコミュニケーション、衛生面などを確認しましょう。
職員の人数をチェック
職員の数が少ない場合、一人ひとりにかかる負担が大きくなります。とくに求人で即日採用OKをうたう職場は人手不足の可能性があります。公式サイトや面接中に子どもと職員の人数を確認しましょう。
福利厚生や昇給システムもチェック
基本給とは別に支給される手当によっては、年収が大幅に上がる可能性もあります。例えば、認可保育施設を対象として国から支給される「処遇改善手当て」や「保育士宿舎借り上げ支援事業」などを活用している職場であれば、給与に関する不満の一部を解消できるでしょう。
一方、入職時の給料が高くても、昇給が少なければ、数年後には給料が低いと感じる可能性もあります。その職場で長く働くためにも、昇給や昇進の条件も確認しましょう。
tips|公立保育所に転職するメリット・デメリット
公務員保育士として、公立保育所に転職する大きなメリットは働きやすさです。職員の人数が決まっていて仕事の量が安定しているうえ、勤務年数に応じて昇給していくため、キャリアプランを考えやすい職場といえるでしょう。
一方、デメリットとして就職難易度の高さが挙げられます。公務員保育士試験で、筆記・面接・実技などに合格する必要があります。また、数年ごとに異動があるため、子どもたちの成長を最後まで見届けられない点もデメリットといえるでしょう。
なお、自治体ごとに、待遇や勤務条件、試験の内容や日程などは多少異なります。
>公務員保育士の仕事について詳しくはこちら
公務員保育士の1日に密着「子どもの成長が一番のやりがい」
4.保育士が活躍できる保育所以外の就職先
児童発達支援・放課後等デイサービス
児童発達支援(児発)と放課後等デイサービス(放デイ)は、障がいがある子どものための児童福祉サービスです。児発は6歳までの未就学児、放デイは原則として小学校に入学する6歳から高等学校を卒業する18歳までの就学児を対象に、一人ひとりに合わせた発達支援をおこないます。
児童発達支援や放課後等デイサービスで働く保育士は、児童発達支援管理責任者が作成した個別支援計画に沿って、子どもたちと遊びや創作、自立支援の訓練などをおこないます。
病院や企業内の保育所
院内保育所・企業主導型保育所は、主に運営元の企業や病院で働く従業員の子どもを預かる保育施設です。仕事内容は、預かり、食事、お昼寝、遊びなど、一般的な保育所と大きな差はありません。ただし、異年齢保育となるケースが多いため、子どもの年齢に合わせて臨機応変な対応が必要になります。
雇用上は企業や病院の従業員となるため、給与や福利厚生などの待遇も運営元の基準に準じる点が特徴です。
児童養護施設
児童養護施設は、さまざまな事情によって家庭で生活できなくなった1歳から18歳までの子どもを、自立まで支援する入所施設です。施設で働く保育士は、保護者に代わって子どもたちの日常生活のサポートや心のケアをおこないます。
夕方から出勤する遅番や、施設に泊まり翌朝まで過ごす宿直勤務があるなど、一般的な保育士の職場とは異なる勤務体系が特徴です。10年以上一人の子どものそばで成長を見守ることもあり、子どもたちとの関わりがより深い仕事ともいえるでしょう。
>児童養護施設で働く保育士のインタビューはこちら
児童養護施設の保育士に聞く! 宿直・断続勤務の業務内容、児童養護施設で働く大変さと魅力とは?
放課後児童クラブ(学童保育)
放課後児童クラブ(学童保育)は、放課後や土日祝日、夏休みなどに小学生を受け入れ育成する施設です。主に遊びや活動、宿題のサポートなど、子どもたちが放課後に安心して過ごせる環境を提供します。
放課後児童クラブには公立と民営があります。公立は税金で運用されるため、利用料金が無料または安いという特徴があります。一方民営は、利用料金がやや高い分、預かり時間の柔軟さや独自のサービスを提供するなど、自由度の高さが特徴です。
>放課後児童クラブの働で働く職員のインタビューはこちら
【放課後児童支援員インタビュー】遊んでばかりとは言わせない、学童ならではの魅力とは?
5.それでも保育士を辞めたいと思ったらまずは相談から
東京都福祉局がおこなった保育士の就業継続の意向に関する調査では、保育士全体の約5人に1人(21.3%)が退職を考えていることがわかりました。また、保育士資格を持っている人のうち約10人に1人(12.3%)がすでに職を離れています。
仕事について相談できる人が身近にいない場合は、一人で悩まず各自治体の「保育士・保育所支援センター」などへ相談しましょう。保育士資格を持つ人材コーディネーターが仕事やキャリアの相談に応じてくれます。
また、別の保育施設への転職を考えている方は、ぜひジョブメドレーを活用してみてください。ジョブメドレーでは全国3万2,000件以上(2024年10月時点)の保育士の求人を掲載しています。休日の特徴や福利厚生などで絞り込みができるので、自分にあった職場候補が見つかるかもしれません。