レギュラー

左=松本康太(まつもとこうた) 右= 西川晃啓(にしかわあきひろ)
1998年4月結成。2004年「あるある探検隊」でブレイク。2014年に介護職員初任者研修を修了。次いで健康ウオーキング指導士、レクリエーション介護士1級を取得。現在は介護関係の講演やイベントにも多数出演している。著書は『レギュラーの介護のこと知ってはります?』(竹書房)。2022年6月からはラジオ日本『ロイヤル介護相談室』に出演。専門家とともに介護の知識や高齢者が元気に暮らすコツを発信している。
本発売までの “おいしすぎる”紆余曲折
──レギュラーさんといえば介護に関する本『レギュラーの介護のこと知ってはります?』を上梓しています。介護についてゼロから知れる入門書のような内容でした。
松本さん:この本を作り始めたのは2012年あたりだったんですが、一緒に本を作っていた竹書房の担当者のお父さんが急に要介護状態になって、ちょっと延期したりしましてね。なんやかんやで発売したのは2019年です。

──発売まで7年もかかったんですね。
松本さん:2017年にはある程度形になっていたんですが、吉本興業から「ピースの又吉くんの本が出版される。今発売するのはタイミングが悪いから待とう」と言われて。それは邪魔でけへん、じゃあ待とうってなったんです。そんなら次は「矢部太郎さんの大家さんの本が出る。ちょっと待ちましょう」となって。
西川さん:発売の日取りが決まってから、告知のための取材を入れていただいたんですよ。そしたら取材当日、事務所にマスコミの人がぶっわーって来てて「吉本、力入れてるなー!」と思ったんです。
そしたら「実は今日、(極楽とんぼ)加藤さんと吉本で一連の問題についてお話をされるんで、レギュラーさんは関係ないんです」と言われてね。

松本さん:しかも本の発売日は社長の会見と被ったんですよ。
──どちらもすごいタイミングですね。
西川さん:もう巻き込み事故ですよ。「待ちに待ってなんでこのタイミングやねん!」って感じで。でも「本を出したんですよー! でも発売日が社長の記者会見と被りましてねー!」って話せるんで、おいしいなと思いましたよ(笑)。
松本さん:僕ら感覚がおかしなってるんだと思います。失敗したら凹んだりするけど、それと同じくらいおいしい! と思っちゃうんですよ。
──逆境を前向きに捉えたんですね。すごいです。
松本さん:吉本興業には本当にお世話になっていて。介護職員初任者研修の取得を吉本に相談したときもすごく優しかったんです。「今後は吉本興業でも介護の活動をしていきます。学校への交通費は吉本が持ちます」て言ってくれたんです。あぁ、ええ会社やなって思って毎月領収書を出してたんですけど、まだ振り込まれてないです(笑)。
タレントの贖罪介護をどう思う?
──不祥事を起こしたタレントが介護施設などでボランティアをおこなうのを見聞きします。世間では「禊だ」「贖罪介護だ」という声も挙がっています。
松本さん:そうですよね。問題を起こしたタレントが「遊びのボランティア感覚で施設に行って、介護士さんたちに失礼やろ」という声もありました。でも施設の方は喜んでくれてました。もちろんそうでない人もいるでしょうけど。

松本さん:(次長課長)河本さんがやっている施設のボランティア活動に急きょ不祥事を起こしたタレントさんがいらしたことがあったんです。そのときは児童養護施設だったんですけど、子どもたちがめちゃくちゃ喜んでいたんですよ。登場した瞬間「テレビに出てる人やー!」て。スタッフの方も喜んでましたね。そのとき、世間と現場で差があるなと感じました。
──レギュラーさんは騒動以前から介護資格を取って活動をされていました。逆風や弊害などはありましたか?
西川さん:介護の本を出したとき、爆笑問題さんに会う機会があったんで、楽屋にお持ちしたんです。僕らは資格を取って活動していたんですけど、タレントの介護ボランティアが話題になっていたタイミングだったから「お前ら不祥事起こしたっけ?」って言われて「ちゃうちゃう!」って。
──(笑)。こういった話題が上がるたびに「レギュラーは介護の資格を取って活動している」と紹介されると聞きました。
西川さん:だから皆さんにはもっと不祥事を起こしてほしい(笑)。というのは冗談で、僕らの活動を取り上げていただけるのはありがたいです。でも利用者さんの前でネタをやっていることを知ってほしいですね。
生きがいを作る活動をさせていただいている

西川さん:僕たちが介護の活動をしていること自体は知られてきたんですけど、食事や入浴の介助をしていると思っている人もいるみたいで。僕ら介助はしていないんです。芸人が施設でレクリエーションを通して、心のサポートや生きがいを作る活動をさせていただいてるんです。
松本さん:レクリエーションって「re-creation」なんです。生きがいを作り直すという意味合いのことをしているんですよ。
「ものすごく良い活動をされていますね」と言われることもあるんですが、良いことも何も、やっていることは舞台と変わっていません。いつもやっていることを利用者さんの前でやらせていただいてる。そこに勉強した脳トレや認知症予防、機能維持のテクニックが入っているっていうだけで。
西川さん:こういう活動をしていると「大変やね」とも言われます。でも頑張ってらっしゃるのは利用者さんの命をお預かりしている施設の方々です。僕らは介護業界の端っこで活動しているだけ。僕たちにできるのは、介護をしている人と、まだ介護を知らない人の橋渡し役。そこに参加させていただいているだけなんです。
愛を持って利用者にツッコむ
──介護職員初任者研修を受けに行ったとき「お笑いと介護はコラボできない」と感じたそうですが、その考えは変わりましたか?
松本さん:変わりましたね。初めは“介護の外側”にいたから「そんなデリケートな問題に芸人が……」って考えがあったのかもしれません。

松本さん:介護においても愛を持ってツッコんだり、イジるのが大切なんですよね。僕らはプロなので、例えばクイズで間違えても不機嫌にならないイジり方をしますし、笑いに変えます。
僕たちもよく失敗するんです。求められるものとぜんぜんちゃうエピソードを喋っちゃったり。けど失敗しても、「兄さん何言うてるの(笑)」とか、MCがおもしろく広げてくれる。今までそういう芸人さんの愛に触れてきたんです。
──笑いの現場で受けてきた愛を、介護の現場に落とし込んでいる。
松本さん:芸人って人間関係を早めに作るのが上手いし、喋りながらでも周りをよく見ているんです。この人はうなずいてくれてる、こっち笑ってくれている、そういう人に話しかける。ミスしたときに「間違えてますやん!」ってどこまでツッコんでもいいのか温度を測って、OKな人しか行かないんですよ。
施設の修羅場(?)を乗り越えて
──施設に行ったときの利用者さんの反応はどうですか? テレビで活躍されている方が目の前にいたら気持ちが高まるんじゃないかなと思っているんですが。
西川さん:そう思ってくれたら嬉しいですね。
松本さん:我々も不安なので、まず施設の方に要介護度など聞くんです。僕らのことを知らないかもしれないし、話している内容が伝わらないこともあるので。
ある施設で介護士さんから「ここはデイサービスなので大丈夫です。テレビでレギュラーさんを観られていた方も多くて、皆さん楽しみにされています」と聞いていて、いざ「どうもー! レギュラーですー!」って登場したら拍手も何もなくて(笑)。西川くんの気絶にも「シーン」って。
西川さん:「僕たちは芸人のレギュラーと言いまして」と自己紹介すると「へぇー」っていう反応で。知らんやん! てなりましたね。
松本さん:スタッフの方の気遣いに、かえって傷ついたっていう(笑)。
西川さん:2人で「今日はあかんかったな、笑ってへんかったな」て言っていたんですけど、帰りぎわ利用者さんと話すと「面白かったよ!」って言ってくれるんです。じゃあ笑ってくれよ! そのツンデレやめてよ! て思いましたね。
──(笑)。そういった修羅場を乗り越えてきたんですね。
松本さん:介護の勉強をするに連れて、年齢を重ねると表情が出にくくなることがわかったんです。だから今では反応がなくても落ち着いたもんですよ。それが良い意味で劇場にフィードバックできてます。
西川さん:そう、施設ではだいぶ鍛えられましたね。今までだったら劇場でネタをやって反応がなかったら「ヤバイヤバイ……」って焦ってたけど、今は反応が悪くても精神的にブレない。それ以上の無反応を経験しているんで(笑)。
若い人が希望を持てる職業に

──今後の介護業界に期待していることはありますか?
松本さん:介護の仕事に就くメリットや希望を作ってほしいというか……なんだろうな、有名な俳優を起用して介護のドラマを作るとか、大金持ちになれるシステムを作ってあげるとか、若い人が介護職に希望を見出せるような職業になるといいな。夢を見せてあげてほしいです。
──憧れの職業になってほしいということですか?
西川さん:そうですね、『スラムダンク』を読んだ人がバスケに憧れて始めるみたいな感じでね。
松本さん:夢がないと若い人がついてこないですから。あとは介護に携わるすべての人に報われてほしいです。例えば、心療内科タダとかね。
西川さん:病む前提で言うてるやん!
松本さん:いやいや、みんな大変やから! 勉強をして資格を取って何年か働いて、それで辞めちゃう人もいるじゃないですか。身につけた技術をどんどん下の子に伝えていかなくちゃいけないんですよ。だから続けられるようにサポートをしてあげてほしいです。
──最後に、なるほど!ジョブメドレー読者にメッセージをお願いします。
西川さん:介護は介護士さんやリハビリテーションだけじゃなく、レクリエーション介護士という携わり方があります。それぞれの人が当たり前にやっていることを見やすく工夫するだけで介護に活かせるんです。レクリエーション介護士は気軽に介護に携われる資格の一つなことを知ってほしいです。