目次
1. 保育所等訪問支援とは
集団生活になじむための障害児通所支援サービス
保育所等訪問支援は、保育所や幼稚園、小学校などに通う、障がいのある子どもが集団生活になじめるようにサポートする障害児通所支援サービスです。訪問支援員が2週間に1回程度、子どもの通う施設を訪問し、2時間から半日程度滞在して支援します。また、一定期間ごとにモニタリングを実施し、支援の効果や継続の要否について検討します。
児童福祉法が2012年に改正された際、障がいのある子どもへの支援は、サービスの利用形態に応じて、障害児通所支援と障害児入所支援に整理されました。保育所等訪問支援は障害児通所支援のひとつとして、同年に開始されたサービスです。
なお、保育所等訪問支援においては、これまで厚生労働省の「保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引書」が参照されてきましたが、内容をより深めた「保育所等訪問支援ガイドライン」が2024年6月に、こども家庭庁から公表されています。
訪問先の施設
保育所等訪問支援では保育所や幼稚園、小学校だけでなく、さまざまな施設での支援が可能です。2018年に、乳児院と児童養護施設が訪問先に追加され、現在では以下の施設に訪問できるようになっています。
保育所等訪問支援の事業所数の推移
2012年に保育所等訪問支援が始まって以来、サービスを提供する事業所数は増加を続けています。ただし、児童発達支援や放課後等デイサービスの事業所が、保育所等訪問支援事業所を兼ねているケースも多くあります。
2. なぜ保育所等訪問支援が必要とされているの?
集団生活の場での子どもへのサポートが必要
障がいのある未就学児は、児童発達支援事業所や児童発達支援センターで、日常生活のための動作指導、集団生活に向けた適応支援などを受けられます。しかし、それらの場所でできるようになったことが、保育所や幼稚園、小学校などでも同じようにできるとは限りません。
環境変化によってこれまでできたことができなくなったり、周囲の子どもとうまくコミュニケーションを取れなかったりする場合もあるでしょう。そのため、集団生活の場を実際に訪問して、子どもを支援する保育所等訪問支援が必要とされています。
職員への専門的な知見の提供が重要
障がいのある子どもも、障がいのない子どもも、ともに暮らす「インクルーシブ社会」の実現が重視されており、保育所や幼稚園、小学校などでは、できる限り障がいのある子どもを受け入れています。
しかし、保育所や幼稚園、小学校などの職員は、必ずしも障がいのある子どもにうまく対応できるとは限りません。そのため、専門的な知見のある訪問支援員による支援の必要性が高まっているのです。保育所等訪問支援を通じて、保護者と訪問先の距離を縮め、子どもが安心・安全に過ごせる環境をつくることを目指します。
3. 保育所等訪問支援の対象者と利用の流れ
対象者
保育所等訪問支援は、保育所や幼稚園、小学校などに通うすべての子どもを対象としています。そのため、集団生活への適応に支援が必要であれば、医学的診断や障害者手帳の有無は問われません。さらに、児童発達支援や放課後等デイサービスの障害児通所支援を利用している子どもだけでなく、利用したことのない子どもも対象です。集団生活の過程で、うまく適応できないことが明らかになり、障がいの可能性を考慮して、申請につながる場合もあります。
近年では、制度の認知が高まってきたことなどから、利用者数が大きく伸びており、毎年9月の利用者数は2021年の8,876人から、2022年には1万4,643人へと増加しています。なお、費用の利用者負担は1割で、世帯年収約920万円以下の場合、月の負担上限額は4,600円です。
利用の流れ
保育所等訪問支援を利用するには、対象となる子どもの保護者からの申請が必要です。一般的には、障害児相談支援事業所が障害児支援利用計画を作成したあとに、児童発達支援管理責任者が保育所等訪問支援計画を作成し、サービスを提供します。
訪問支援員は一定期間ごとに子ども本人や家族などに対する面談で、効果やニーズの変化をモニタリングします。また、ニーズの変化に応じて、障害児支援利用計画の内容を見直した場合には、保育所等訪問支援計画も変更され、支援の内容に反映されます。
4. 保育所等訪問支援の支援内容
保育所等訪問支援では、子ども本人を対象とした「直接支援」と、保育士や幼稚園教諭など施設で勤務する職員への「間接支援」が実施されます。ここでは、それぞれの支援の内容について、実際の事例を交えて解説します。
直接支援
直接支援は子ども本人への支援です。訪問支援員は訪問先での様子を観察しながら、子どもの困っていることや課題を把握し、支援内容を検討します。そのうえで、生活の流れや保育・教育活動の妨げにならないよう、十分に配慮しながら集団活動に加わって支援します。
厚生労働省の「保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引書」には、保育所での食事に課題のある、知的障害を伴う自閉症スペクトラムの子どもへの支援事例が記載されています。訪問支援を受けるまでは一口大に切ってもらった給食をフォークで食べていましたが、訪問支援員が直接支援を繰り返すことで、数ヶ月後には子ども用の箸を使い、自分でかみ切って食べられるようになりました。
間接支援
間接支援は子どもが通う、保育所や幼稚園、小学校などの職員への支援です。訪問支援員の訪問は2週間に1回程度を想定しており、子どもの集団生活をより良くするためには、周囲の職員の理解・協力が欠かせません。そのため、保育所等訪問支援では、実際に長時間子どもと接する職員への支援を通じて、子どもの生活改善につなげる間接支援も重視しているのです。
「保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引書」には、小学校での生活に問題のある1年生の児童と、教員への支援事例が掲載されています。反抗的な態度で係や当番の活動ができない状態でしたが、訪問支援員は観察するなかで「やりたくないから、やりたがらない」のではなく、「難しそうで失敗したくないから、やりたがらない」のではないかと分析。教員に二人羽織のように後ろから、一緒に取り組んでもらうようアドバイスし、実践してもらうことで、次第に児童の行動は改善されていきました。
5. 保育所等訪問支援事業所で働く職種
配置が義務付けられている職種
保育所等訪問支援を実施する事業所には、以下の職種を配置することが義務付けられています。なお、3職種のすべてを一人の職員が兼務することはできません。
- 管理者
- 児童発達支援管理責任者
- 訪問支援員
保育所等訪問支援員になれる職種や必要な資格
保育所等訪問支援では、訪問支援員が一人で施設を訪問し、支援を実施します。そのため、障がい児支援に関する知識と経験、そしてさまざまな状況への柔軟な対応力が必要で、訪問支援員は以下の職種の人や資格を持っている人に限定されています。
経験豊富な職員の配置で得られる訪問支援員特別加算
保育所等訪問支援を実施する事業所は、訪問支援員に以下のような経験を積んだ職員を配置した場合に、訪問支援員特別加算を受けられます。
- 理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、保育士の資格を取得後、障がいのある子どもに対する直接支援の業務、相談支援の業務などに5年以上従事した人
- 児童指導員や児童発達支援管理責任者、サービス管理責任者、心理担当職員として配置された日以後、障がいのある子どもに対する直接支援の業務、相談支援の業務などに5年以上従事した人
- 障がいのある子どもに対する直接支援の業務、相談支援の業務などに10年以上従事した人
6. ニーズの高まる保育所等訪問支援の仕事を検討しよう
障がいのある子どもが保育所や幼稚園、小学校などでの集団生活に適応できるよう支える保育所等訪問支援。訪問支援員になるためには、児童指導員や保育士、理学療法士、作業療法士などの資格が必要です。保育所等訪問支援の利用者も、提供する事業所も増加を続けており、今後もニーズが高まりそうです。
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参考
- 厚生労働省|保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引書
- こども家庭庁|保育所等訪問支援ガイドライン