目次
1. 乳児院とは?
保護者に代わって子どもを育てる施設
乳児院は、保護者の病気や経済的な事情、虐待などにより子育てが困難な場合、一時的に子どもを保護して育てる施設です。主に0〜2歳の乳幼児が入所し、365日24時間体制で生活全般をケアします。
また、退所後の子どもとその家族が安定した生活を送れるよう援助するのも、乳児院の役割の一つです。
乳児院の対象年齢
乳児院は児童福祉法に基づき、原則として1歳未満の乳児を対象としています。ただし、「保健上、安定した生活環境の確保その他の理由によりとくに必要のある場合」には1歳から就学前までの幼児も入所可能です。
以前は満2歳までの子どもを対象としていましたが、子どもの健全な発達と愛着形成を考慮し、2004年の児童福祉法改正を機に対象年齢が拡大されました。
乳児院の入所理由
2017年の調査によると、親の精神疾患、放任・怠だ、虐待による入所が過半数を占めています。とくに母親の精神疾患による入所が増加傾向にあるようです。ただし、「親の精神疾患と虐待」のように複数の理由が重なっているケースも少なくありません。
入所する子どもと施設数の推移
2022年の調査では全国145施設に2,560人の子どもが入所しています。過去10年の推移を見ると施設数はわずかに増加傾向にありますが、入所者数は減少していることがわかります。
背景にあるのは2016年の児童福祉法改正です。施設を小規模化し、地域に根ざした多機能型施設への転換が推奨されたことで施設数が増えました。一方、里親制度の充実や家庭へのサポートが推進されたことなどから、入所者が徐々に減っていると考えられます。
乳児院の入所期間
厚生労働省が公開した令和3年社会福祉施設等調査によると、およそ45%の子どもが1年未満、23%が1年以上2年未満で退所しています。退所後、一部の子どもたちは家庭に戻りますが、里親と共に新たな生活を始めたり、児童養護施設へと転所したりする子どももいます。
tips|児童養護施設や保育園との違い
乳児院と児童養護施設の主な違いは対象年齢です。乳児院は0歳から就学前の子どもを対象としていますが、児童養護施設は1歳以上18歳未満の子どもが対象となります。児童養護施設は、子どもが退所したあとの自立支援も視野に入れ活動するのも特徴です。
一方、保育園との違いは養育する時間です。保育園は保護者が働いている間に子どもを預かりますが、乳児院は24時間体制で養育します。また、乳児院ではさまざまな専門職の配置が義務付けられています。詳しくは乳児院の人員配置基準で解説します。
2. 乳児院が果たす4つの機能
(1)養育と保護
乳児院は入所する子どもに対し、安全で健康的に成長できる環境を提供します。食事、睡眠、衛生などの基本的な生活のケアに加え、発達段階や家庭の事情に応じた教育、遊びを通じて、生活習慣や道徳性などを育みます。
(2)保護者と里親の支援
保護者が子育てを再開するための支援や、子どもが里親家庭に移る際のサポートをします。保護者が家庭復帰を希望する場合は、子どもと一緒に生活するための育児指導や家庭環境の改善支援をおこないます。子どもが里親と暮らすことになった場合には、新たな養育環境へスムーズに移行できるようサポートします。
(3)入所前、退所後の専門的な支援
乳児院では、入所前の子どもや家庭に対して必要な相談や支援をおこないます。また、退所後も、医師、看護師、栄養士、保育士などの専門職が連携し、家庭、里親、児童養護施設への橋渡しをしながら、次の生活環境への移行をサポートします。
(4)地域の子育て支援
乳児院は地域社会の一員として、地域住民からの育児相談への対応や助言をおこないます。また、児童相談所からの委託を受け、アセスメントを含めた一時保護(原則2ヶ月まで)や、ショートステイ(最長7日間)にも対応しています。
3. 乳児院で働くには?
乳児院の人員配置基準
乳児院では、児童福祉法により以下の職員配置が定められています。
職種 |
人数 |
---|---|
施設長 |
1人 |
医師、嘱託医 |
定員100人未満の場合は嘱託医1人 |
看護師*、保育士、児童指導員 |
2歳未満の乳幼児1.7人につき1人 |
個別対応職員 |
対象乳幼児が8人以上いる場合に必要 |
家庭支援専門相談員 |
1人 |
栄養士 |
1人 |
調理員 |
定員30人未満の場合は4人 |
心理療法担当職員 |
心理療法が必要と認められる乳幼児または保護者が10人以上いる場合に必要 |
事務員 |
定員100人未満の場合は1人 |
(乳児10人未満の乳児院を除く)
乳児院で働く職種と役割
施設長
施設の運営、職員の管理、運営方針を定めるなど、責任者としての役割を担います。施設長になるには以下のいずれかに該当する必要があります。
医師、嘱託医
小児医療の診療経験を持つ医師、または嘱託医が必ず配置されます。病気や感染症の予防、病後児や虚弱児の健康管理を含め、入所する子どもたちの健康を維持する役割を担います。
看護師
看護師は入所する子どもの人数に応じて必ず配置されます。子どもたちの心身の健康管理や、異常がある場合の適切な対応、服薬管理、医療的ケアなどを担います。
保育士
保育士は子どもたちの人数に応じて配置され、遊びや生活全般を支援しながら乳児院での養育の中心を担います。保護者に代わって保育するため、父親や母親に近い役割が求められます。
児童指導員
保育士と同じく、ミルクを飲ませたりオムツを替えたりしながら生活全般をサポートします。児童指導員になるには以下のいずれかに該当する必要があります。
- 社会福祉士または精神保健福祉士の資格を持つ人
- 大学や大学院で所定の専門課程を修了した人
- 教員免許状を保有する人
- 児童福祉事業で2年以上360時間以上の実務経験がある人
個別対応職員
虐待などにより特別な対応が必要な子どもに対し、一人ひとりのニーズに合わせて個別にサポートをします。対象は子どもたちに限定されず、子どもとの関係構築に課題を持つ保護者への支援も含まれます。個別対応職員になるための資格要件はとくに設けられておらず、施設や地域によって条件が異なります。
家庭支援専門相談員(ファミリーソーシャルワーカー)
児童相談所と連携し、虐待など家庭環境上の問題を抱える保護者の相談や援助をおこないます。また、里親委託のとりまとめや、地域の子育て家庭の相談援助などもおこないます。家庭支援専門相談員になるには以下のいずれかに該当する必要があります。
- 児童養護施設などで5年以上の勤務経験がある人
- 社会福祉士、精神保健福祉士、児童福祉司のいずれかの資格を持つ人
栄養士
子どもたちの年齢や発育、発達などに応じて食事計画を作成し、食事を提供します。食材の発注や献立作成、調理業務もおこないます。
調理員
栄養士が計画したメニューに基づき、食事の調理と提供をおこないます。調理業務を外部に委託する場合は配置が求められません。
心理療法担当職員
虐待などで心に傷を負った子どもや、心理的ケアが必要な保護者に対し、カウンセリングなどの心理療法を提供します。心理療法担当職員になるには以下のいずれかに該当する必要があります。
- 大学で心理学を専修して卒業した人
- 心理療法の技術を有する人、またはこれと同等以上の能力を有すると認められる人
里親支援専門相談員(里親支援ソーシャルワーカー)
里親委託の推進や里親支援の充実を図ることを目的として2012年から配置されるようになりました。児童相談所や地域の里親会などと連携し、里親の新規開拓、研修、里親家庭の相談対応などを担います。里親支援専門相談員になるには以下に該当する必要があります。
- 児童養護施設などで5年以上の勤務経験がある人
- 社会福祉士、精神保健福祉士、児童福祉司のいずれかの資格を持つ人
- 上記に加え、里親養育に理解があり、社会と個人をつなげる視点を持つ人
一日のスケジュール
乳児院は基本的に24時間体制で運営されるため、多くの施設ではシフト制を採用しています。ここでは乳児院で働く保育士の早番について紹介します。
4.乳児院で働くやりがい
乳児院は、家庭環境の問題や特別なケアが必要な子どもたちを支え、養育する施設です。福祉の役割を担い、さまざまな専門職が連携しながら業務にあたります。
子どもにとって乳児院は乳幼児期の一時的な家であり、大切な居場所です。子どもを預かる責任の重さはありますが、日々の成長を間近で感じられることが仕事のやりがいにつながります。
保育や福祉の分野で資格と経験を活かし、充実したキャリアを築きたい人にとって、乳児院での仕事は意義の深い選択肢の一つです。医療介護求人サイトのジョブメドレーでも乳児院の求人を掲載しています。子どもと関わる仕事に就きたい人は検討してみてはいかがでしょうか。
参考
厚生労働省|乳児院 運営ハンドブック