目次
1.養護老人ホームとは
高齢者の社会復帰を目指す福祉施設
養護老人ホームは、経済的な困窮や生活環境上の理由によって、自立した生活が困難になった65歳以上の人を一時的に養護するための福祉施設です。健康管理や地域との交流の促進、経済面のアドバイスなど、社会復帰を支援するサービスを提供しています。
介護保険施設ではないため、原則として介護サービスは提供されません。要介護度が上がり介護が必要になった場合は、外部のサービスを利用するか、退去しなければならない可能性があります。
tips|養護老人ホームで介護が必要になったら?
2005年に養護老人ホームは、外部事業者を通して身体介護や機能訓練をおこなえる「外部サービス利用型特定施設入居者生活介護」の指定を受けられるようになり、さらに2015年には、養護老人ホームの職員が身体介護をおこなえる「一般型特定施設入居者生活介護」の指定も受けられるようになりました。
養護老人ホームは、原則介護を必要としない人を対象とした施設ですが、近年の超高齢化にともない、要介護・要支援の入所者も受け入れている施設が多いのが現状です。そのため2022年時点では、養護老人ホーム全体の約4割*の施設が特定施設入居者生活介護の指定を受けています。
*参照:厚生労働省「第221回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料」
施設数・定員数の推移
厚生労働省の調査によると、2022年時点の養護老人ホームの施設数は全国930ヶ所で、定員数は6万1,040人です。高齢化にともない、高齢者向けの入所施設のニーズは年々増加しているのに対し、養護老人ホームの施設・定員数は緩やかに減少しています。
この背景には、施設運営費の基準単価が長年改定されず、近年の増税や人件費、物価上昇に運営費が追いついていないことが挙げられます。養護老人ホームの多くは経費を賄えず、過去18年間では50施設以上が閉鎖し、残った施設の約半数も赤字*で運営されています。
養護老人ホーム入所者の特徴
入所手続きの流れ
養護老人ホームへ入所するには、希望者からの申し込みのほかに自治体による審査や措置決定も必要です。
審査の基準は市区町村によって異なりますが、基本的には虐待を受けていたり、賃貸住宅からの退去を余儀なくされたりした人など、緊急度が高い人を優先的に措置入所させます。
施設と利用者が直接契約を結ぶ「契約入所」の場合は、例外として市区町村による措置決定がなくても入所可能です。ただし、契約入所での受け入れは、定員の20%以内かつ、措置による受け入れに支障をきたさないよう配慮する必要があります。養護老人ホームのなかには経済的に厳しい施設も多いため、契約入所に積極的に取り組んでいる施設は一部にとどまります。
2.養護老人ホームと特養・ケアハウスの違い
養護老人ホーム |
特別養護老人ホーム |
ケアハウス |
|
---|---|---|---|
施設の |
社会復帰支援 |
身体介護 |
日常生活のサポート |
入所条件 |
65歳以上 |
65歳以上 |
60歳以上 |
月額の |
0〜14万円 |
10〜14.4万円 |
7.5〜12.4万円 |
入所期間 |
短期 |
終身 |
中〜長期 |
特養との違い
養護老人ホームと特別養護老人ホーム(特養)の主な違いは、利用者の要介護度と入所期間にあります。
養護老人ホームが65歳以上で環境・経済的に在宅生活が難しい人を対象としているのに対し、特養は原則要介護3以上の65歳以上を対象とした介護保険施設です。介護サービスの提供を主な目的としており、介護保険が適用されます。
また、養護老人ホームが一時的な入所を前提としているのに対し、特養は入所者の看取りまでおこなう施設も多く、平均入所期間は約4年と長い傾向があります。
なお、特養は有料老人ホームなどの民営施設と比べて費用を抑えて入所できるため人気が高く、入居待ちが発生することが多々あります。
ケアハウスとの違い
養護老人ホームとケアハウスの主な違いは、入所の条件と費用にあります。
養護老人ホームが65歳以上の生活困窮者を対象としているのに対し、ケアハウスは要介護度が非該当〜軽度の60歳以上を対象とした、措置決定なしで入所できる保健施設です。養護老人ホームと同様に費用を抑えて入所できる施設ですが、入所の際に数十万円の初期費用がかかります。
また、介護保険の「特定施設入居者生活介護」が受けられる「介護型ケアハウス」もあります。原則として要介護度が1以上、かつ65歳以上の人が対象です。
3.養護老人ホームで働く職種と業務内容
24時間介護を必要とする高齢者の増加に伴い、特定施設入居者生活介護の指定を受ける施設が増えた結果、養護老人ホームの業務内容は、その他介護施設の業務内容に近づきつつあります。
職員の配置基準
人数 |
|
---|---|
施設長 |
1名 |
支援員 |
常勤換算*で 15人ごとに1名 |
生活相談員 |
常勤換算で 30人ごとに1名 |
栄養士 |
1名以上 |
事務員 |
適当数 |
医師 |
適当数 |
看護師または |
常勤換算方法で 100人ごとに1名 |
施設長
施設の運営、職員の管理、運営方針を定めるなど、責任者としての役割を担います。施設長になるには、以下いずれかの要件に該当する必要があります。
- 社会福祉士
- 厚生労働大臣指定養成機関または講習会の修了した人
- 社会福祉事業で2年以上の勤務経験がある人
- 上記と同等以上の能力を有する人(介護福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、社会福祉主事任用資格など)
支援員
支援員の主な業務内容は利用者の見守りです。身体介護をおこなうことはほとんどありません。具体的な業務としては、通院や買い物・散歩の付き添いや、行事・レクリエーションの企画や実施、見回り、傾聴などが挙げられます。
養護老人ホームの支援員は無資格・未経験で始められる職種です。ただし、特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設では、食事や排泄の介助もおこなうため、介護職員初任者研修の受講や介護施設での従事経験がある人が優遇されます。
生活相談員
生活相談員の主な業務内容は、入所者の処遇計画の作成と、計画に沿った支援をおこなうための調整です。また、入所者やその家族からの生活相談業務や、外部サービス事業者との連携・調整、入所者の収入申告・確定申告などの手続きなど、間接支援業務も担当します。
養護老人ホームの生活相談員になるには、以下いずれかの要件に該当する必要があります。
栄養士
栄養士の主な業務内容は、食事の提供です。入所者の身体状態に応じて献立を作成するだけでなく、食材の発注から在庫管理までおこないます。そのほか、調理職員への衛生指導や、入所者の栄養管理など、栄養ケア・マネジメントの役割も担います。
なお、施設によっては調理業務も担当する場合があります。調理員として働きたい場合、無資格でも応募できますが、調理師免許を持っている人は優遇されます。
事務員
事務員の業務内容は、経理や労務、採用、広報など多岐にわたります。特定施設入居者生活介護の指定を受けている施設の場合は、介護報酬の請求事務もおこないます。
資格や経験が不問な職種ですが、パソコンを使った業務が主体となるため、マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)などパソコンスキルに関する資格があれば、優遇される場合があります。
医師
医師の主な業務内容は、入所者の健康管理です。看護師と協力して入所者の健康を管理するほか、健康診断や診察などをおこない治療が必要な場合は、適切な措置をして処方箋を発行するなど、施設内における「かかりつけ医」の役割を担います。
養護老人ホームでは医師の設置義務はありませんが、入所者数が多い施設の場合は必要に応じて配置されます。
看護師または准看護師
看護師または准看護師の主な業務内容は、入所者の健康管理です。入所者が安全に過ごせるよう、日々のバイタルチェックや、健康面での相談対応をおこないます。
また、医師がいない施設で⼊所者の病状が急変した際には、必要に応じて医療機関との連携を取る役割も担います。
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一日の流れ
例として養護老人ホームで働く支援員の一日のスケジュールを見てみましょう。
4.養護老人ホームで働く職員の給料
2020年に実施された全国老人福祉施設協議会の調査によると、養護老人ホームの支援員の月収は、特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設では、29万6,800円、指定を受けていない施設では、29万2,400円でした。
5.養護老人ホームの課題と展望
養護老人ホームは、家庭環境や経済的理由から、自立した生活が困難な高齢者を支援する施設であり、地域のセーフティーネットとして機能しています。
養護老人ホームは、ほかの介護施設と比べて介護を必要としない人が多く、支援員なら無資格・未経験でも働きやすい環境です。人と話すのが好きで、誰かのためになる仕事がしたいと考えている人は検討してみてはいかがでしょうか。
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参考
- 厚生労働省|令和4年福祉行政報告例
- e-Gov法令検索|養護老人ホームの設備及び運営に関する基準