1.9060問題とは
高齢の親がひきこもりの子どもを支える
90代など高齢の親がひきこもりの60代の子どもの面倒を見ることで、経済面や心身の健康面に影響が及ぶ状態を指します。
以前より問題視されていた、80代の親が50代の子どもの面倒を見る「8050問題」が長期化・長寿化したことで「9060問題」に発展し、問題がより深刻になっている可能性があります。
なお厚生労働省は、6ヶ月以上仕事や学校に行かず、家族以外の人との交流を絶って家庭にとどまり続けている状態を「ひきこもり」と定義しています。
ひきこもりの人口
内閣府が2018年におこなった調査によると、満40歳から満64歳までのひきこもりの出現率は1.45%で、推計数は61.3万人であることがわかりました。
ひきこもりの状態になってから7年以上経過しているケースが半数近くいることから、ひきこもりの長期化やそれに伴う高齢化が起きている様子が伺えます。

ひきこもりの背景
1980年代以降、いじめなどがきっかけで不登校になる子どもが増え始めました。さらに1990年代に入るとバブル経済が崩壊し、日本は低成長の時代に入りました。不況による倒産・リストラ・就職難(就職氷河期)がきっかけで、就労への意欲や自信を失いひきこもる人が増えたと考えられています。
この頃の親世代の間では学校や仕事に行っていない子どもを“恥”と捉える傾向が強かったことから、ひきこもりの子の存在は世間から隠されてきました。一方の社会(行政)からもひきこもりは“家庭の問題”と考えられていたことから、積極的な介入や支援はおこなわれてきませんでした。
このような背景からひきこもりが長期化し、8050問題や9060問題として表面化するまでには、社会的・家庭的な要因が複雑に絡み合っています。
政府が把握しているひきこもり人口はあくまで推計値であり、正確な数はいまだに不明であることからも、9060問題は可視化されていない部分が大きいことがわかります。
近年では介護離職が社会問題化しています。介護離職によりキャリアに空白期間ができたことが原因で復職できず、ひきこもりに発展したケースも報告されており、新たな問題の火種となりそうです。
2.9060問題がもたらすこと
親が高齢になると、収入が年金に限られる一方で医療や介護のための支出が増えていきます。これまでどおりの生活水準を保つことすら難しくなり、以下のような問題が懸念されます。
適切な介護を受けられない
老齢の親が要介護状態となってもひきこもり本人や親自身が他者の出入りを拒絶することで、必要なサービスや支援が受けられなくなります。
年金の不正受給
年金頼みの生活となることで、親が亡くなっても適切な手続きをとらず死を隠蔽し、年金を不正受給する可能性があります。このような事件はすでに全国で発生しており、もともと孤立状態のため親の死や隠蔽が発覚しづらく、同様の事例が今後も起こると予想されます。
無理心中や孤立死
親の老化や介護疲れ、経済的困窮などから心身ともに追い詰められ、無理心中をはかる可能性もあります。親の死後、生活するための金銭や生きる気力をなくし子が孤立死してしまうことも考えられます。
3.9060問題の相談窓口・施設
ひきこもり地域支援センター
2009年より設置、運営が始まったひきこもり地域支援センターは、ひきこもりに特化した相談窓口です。ひきこもり本人やその家族からの相談にのり、多職種と連携をはかりながら就学や就労を目指し適切な支援に結びつけます。2021年4月時点で全国に79施設あります。
ひきこもり地域支援センターでは、社会福祉士が電話や対面で相談に応じているほか、ひきこもり状態にある人に精神疾患が疑われる場合には、精神保健福祉士が社会復帰や日常生活をサポートします。それ以外にも臨床心理士・公認心理師が相談者と長期的な関わりをもち、個々の経過を丁寧にアセスメントして適切な支援につなげる役割を担います。
地域包括支援センター
市区町村または市区町村から委託を受けた法人が設置し、高齢者の介護や福祉など生活上の困りごとに応じる相談窓口です。親の介護の相談がきっかけとなり孤立している子どもの存在に気づくこともあり、関連機関と連携しながら必要な援助をおこないます。
地域包括支援センターでは主任ケアマネジャー、社会福祉士、保健師が相談・支援に携わっています。
主任ケアマネジャーは介護(ケアマネジメント)、社会福祉士は社会福祉、保健師は保健医療の専門家として、それぞれの専門性を活かしながら、必要な支援につなげます。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは各都道府県に設置されており、心の健康に関する相談対応や精神疾患をもつ人の自立や社会復帰を支援しています。精神保健福祉センターの中にひきこもり地域支援センターが設置されている場合もあります。
精神保健福祉士、臨床心理士・公認心理師、保健師など専門知識を有する職種が相談支援に応じています。
NPO法人
NPO法人は、ひきこもり状態にある人やその家族からの相談に応じるほか、就労支援、居場所の提供、同様の状況にある家族同士の交流促進などをおこないます。各NPO法人によって活動内容には特色がありますが、共通していえるのは当事者たちの自立や社会参加を目的としている点です。
当事者会・家族会
当事者会・家族会は、ひきこもり経験者や当事者の家族によって設立された団体です。当事者同士での交流会や講演会などのイベント開催、ひきこもりに関する情報発信をおこなっています。
4.家族の問題に介入する難しさがある
9060問題には親の高齢化だけでなく、ひきこもり状態にある人の社会参加や就労、精神的な病など複合的な問題があります。また、周囲が介入や支援をおこないたくても、当事者である親子が拒むこともあります。
この問題に対応するには本人たちの意志を尊重しつつ、早期の相談機会の確保や社会との接点作り、地域の見守りが大切となります。一つの職種だけでなく多職種・多機関が連携するなどして、さまざまな角度からのサポートをおこなうことが今後ますます必要です。
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