目次
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1.特別養護老人ホーム(特養)とは?
特別養護老人ホーム(特養)は、要介護の高齢者が生活することを目的にした、介護保険施設のひとつです。
「特別養護老人ホーム」は老人福祉法上の呼称で、介護保険法では「介護老人福祉施設」と呼ばれています。
老人福祉法では、以下のように定義されています。
65歳以上の者であって、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なものを入所させ、養護することを目的とする施設(老人福祉法第20条の5)
対象者と特徴
在宅での生活が困難になった要介護3以上(要介護1・2は特例として可)の高齢者が入所でき、看取りにも対応しているので終身利用が可能な点が特徴です。
介護保険が適用されるため、民間の有料老人ホームなどよりも安価に利用できることから人気があります。そのため地域によっては、入所までの待機日数がかかってしまう施設もあります。
全国の施設数は増加を続けており、2025年時点で、1万1,094施設の特養があります(地域密着型を含む)。
2.特別養護老人ホーム(特養)と老健の違い
特養と似た名称で比較されやすい施設に「介護老人保健施設(老健)」があり、老健も特養と同じ介護保険施設のひとつです。主な違いは、施設の目的と入所条件、入所可能な期間、提供するサービス内容にあります。それぞれの違いを見ていきましょう。
特養 |
老健 |
|
---|---|---|
主な目的 |
生活援助と身体介護 |
医療的ケアとリハビリ |
設置主体 |
社会福祉法人 など |
医療法人 など |
入所条件 |
(原則)要介護3〜5 |
要介護1~5 |
入所期間 |
終身利用可 |
(原則)3ヶ月 |
医療体制 |
必要最低限 |
手厚い |
看取り |
対応可能 |
基本なし |
費用 |
入居一時金なし |
入居一時金なし |
居室面積 |
10.65㎡(約5.8畳)以上 |
8㎡(約4.4畳)以上 |
入所難易度 |
待機者が多い |
待機者が少ない |
主な目的
特養は、中長期的に生活する高齢者をサポートするため、生活援助や身体介護を中心におこないます。人生の最期まで生活を送る人方も多いため、レクリエーションなどのイベントは老健よりも数多く実施されています。
老健は、病院と自宅との中間的位置付けの施設です。在宅での生活に戻ることを目的にしているため、リハビリや医療的ケアが中心です。そのため、レクリエーションなどは必要最低限である施設が多いです。
入所条件
特養は、原則として65歳以上の要介護1〜5が入所対象でしたが、2015年より新規入所者は要介護3以上の高齢者に変更されました。ただし要介護1・2でも、認知症や障害を抱えているなどのやむを得ない事情により、在宅生活が困難だと認められる場合には、特例として入所することが可能です。
老健は、65歳以上の要介護1〜5の人が入所できます。
ただし、両施設ともに、特定疾病により介護認定を受けた40〜64歳の人は入所可能です。
入所期間
特養は終身利用が可能なため、入所者の平均在所期間が約3.2年間と、ほかの介護保険施設よりも長い点が特徴です。
老健は原則3ヶ月間の在所期間が定められています。ただし、在宅での介護環境を整えることの難しさから、在所期間を延長して長期的に利用する人が増えています。2020年度の調査では、平均在所日数は310日でした。
医療体制
特養の医療体制は必要最低限であることが多いので、気管切開やバルーンカテーテル、人工透析などの中高度の医療処置が必要になると、より医療設備の整った施設への転居が必要になる場合があります。
老健の管理者は原則医師である必要があり、看護師の人数も特養より多く配置されています。また、リハビリの専門職である理学療法士、作業療法士、言語聴覚士いずれか1名以上の設置が義務付けられています。
費用
両施設ともに入居一時金がないため、初期費用を安く抑えることができます。
月額費用の内訳は、「施設サービス費」「居住費」「食費」「日常生活費」で構成されています。「施設サービス費」は介護度と施設のタイプ(従来型・ユニット型)によって決まり、地域で一律です。「居住費」「食費」は施設ごとに異なります。「日常生活費」は理美容費や医療費などです。
一般的に、医療面で充実している分、特養よりも老健のほうが高額になる傾向があります。
面積
居室一人当たりの床面積は、特養が10.65㎡(約5.8畳)以上、老健が8㎡(約4.4畳)以上と特養のほうが広くなっています。ただし老健の8㎡以上の基準は、定員4人以下の多床室の場合に限ります。ユニット型個室的多床室、ユニット型個室、従来型個室については、特養と同じ10.65㎡以上と定められています。
なお、特養の食堂および機能訓練室の床面積は、入所定員数×3㎡以上です。老健の食堂は入所定員数×2㎡以上、機能訓練室は入所定員数×1㎡以上の基準なので、特養のほうがスペースにゆとりがある設置基準となっています。
入所難易度
特養は平均在所期間が長いことから、入所待ちの人が多いと言われています。地域によって差がありますが、長い場合は数ヶ月〜数年間にわたり待機することもあります。特養と比べると、老健は待機者が少ない傾向にあります。
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3. 特別養護老人ホーム(特養)の3つのタイプ
特養は、「広域型特別養護老人ホーム」「地域密着型特別養護老人ホーム」「地域サポート型特別養護老人ホーム」の3つに細分化されます。
また、地域密着型特別養護老人ホームは、さらに「サテライト型」と「単独型」に分けられます。

広域型特別養護老人ホーム
定員が30人以上で居住地域に制限がない、最も一般的なタイプです。2025年時点の施設数は、8,534施設でした。
地域密着型特別養護老人ホーム
定員が29人以下で、設置されている市区町村の居住者のみが入所できます。2025年時点の施設数は、2,560施設でした。
地域密着型特養は2006年に制度化されました。サービス内容は広域型特養と基本的には変わらず、生活援助と身体介護を中心としています。定員が少人数のため家庭的な雰囲気のもと、住み慣れた地域で生活できるところが特徴です。
サテライト型特別養護老人ホーム(サテライト型居住施設)
地域密着型特養のひとつ「サテライト型」は、広域型特養などの本体施設と連携を取りながら、本体施設から原則20分以内の場所で運営される施設です。
本体施設と適切に連携できる場合は、医師・栄養士・機能訓練指導員・介護支援専門員を置かなくてもよいなど、人員基準や設備基準が緩和されます。
単独型特別養護老人ホーム
地域密着型特養のひとつ「単独型」は、その名のとおり本体施設を持たずに単独で運営されている施設です。設備や介護サービスは広域型特養と同じですが、共同生活スペースを中心に個室が配置されているユニット型の居室タイプが多いところが特徴です。また、サテライト型同様に、広域型特養よりも人員基準や設備基準が緩和されています。
地域サポート型特別養護老人ホーム
2013年に開始した制度で、在宅介護を受けている高齢者に24時間・年中無休で見守りや援助を提供する特養です。
65歳以上で同居家族による介護が難しい状況であれば、介護認定を受けていなくても利用できる場合もあります。主なサービス内容としては、生活援助員による日中の巡回訪問や安否確認、夜間緊急時の看護師の派遣などです。
現状として、地域サポート型特養を実施している自治体の数は少なくなっています。
4. 特別養護老人ホーム(特養)の居室タイプ
特養の居室形式は、「従来型」「ユニット型」の2タイプに大別できます。
従来型

従来型には、ひとつの部屋を2〜4人で利用する「従来型多床室」と、1人で利用する「従来型個室」があります。
2000年ころまで主流だった従来型多床室は、ベッドをカーテンなどで仕切っただけのもので、入所者一人ひとりのプライバシーが尊重されていないことが問題視されていました。
そこで、2002年に新たに制度化されたのが、ユニット型です。
ユニット型

ユニット型は、「ユニット」と呼ばれる10名前後の少人数をひとつのグループとして、生活をともにする居室タイプです。
入所者が食事をとったり団らんしたりする「共同生活室」を中心に個室が配置されているタイプを「ユニット型個室」と呼びます。また、居室が間仕切りなどで区画されて完全な個室になっていないタイプ「ユニット型準個室」もあります。
ユニット型は、プライバシーがしっかりと確保されている一方で、共同生活室を中心に入所者や担当職員が集まる場となっており、家庭に近い環境で過ごすことができます。
国の方針としてもユニット型の普及を進めており、特養全体で約56割の施設がユニット型個室を採用しています。
以下のイラストは、1ユニット10人定員の特養での生活環境を表しています。

ユニット型個室の面積は10.65㎡(約5.8畳)以上で、ベッドと身の回りの品を保管するためのタンスなどの設備があります。洗面・トイレは、個室ごとまたは1ユニットで共用するのに必要な数の設置が義務づけられています。
共同生活室は、ユニットの入所者が交流し、共同生活を営む場所としてふさわしい形状・設備にする必要があり、食事のためのダイニングや談話スペースなどが用意されることが一般的です。
そのほか、介護が必要な入所者にも対応できる浴室や医務室、調理室、洗濯室、汚物処理室、介護材料室などの運営上必要な設備を設けるよう定められています。
5.特別養護老人ホーム(特養)の人員配置基準
特養で必要な職員の配置基準は以下のとおりです。
職種 |
配置人数 |
---|---|
医師 |
入所者に対し健康管理および療養上の指導をおこなうために必要な数 |
生活相談員 |
入所者の数が100またはその端数を増すごとに1以上 |
介護職員 |
3:1 |
栄養士 |
1以上 |
機能訓練指導員 |
1以上 |
介護支援専門員 |
1以上 |
出典:指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省)
特養の医師は「入所者に対し健康管理および療養上の指導をおこなうために必要な数」の配置が定められていますが、実際は常駐の医師がいる施設は多くありません。地域の医療機関の医師が業務委託契約により月に数回、訪問診療に来ることが一般的です。
看護職員(看護師または准看護師)については常勤で1名以上(入所者が30〜49人の場合は2人以上、50〜129人の場合は3人以上、130人以上の場合は入所者50人ごとに1人を追加)の配置が定められていますが、夜勤や当直の配置がない施設が大半を占めます。その場合は、オンコール体制をとって緊急時に対応できるようにしています。
なお、ユニット型特養においては、上記に加え以下の基準が適用されます。
ユニット型特養の人員配置基準
- 昼間は、ユニットごとに常時1人以上の介護職員または看護職員を配置すること
- 夜間および深夜は、2ユニットごとに1人以上の介護職員または看護職員を夜間および深夜の勤務に従事する職員として配置すること
- ユニットごとに、常勤のユニットリーダーを配置すること
特養の職員の主な仕事内容は、入所者の生活援助と身体介助です。2交代制または3交代制で業務をおこないます。
生活援助は、掃除や洗濯、食事の準備や配膳、買い物などを指します。
身体介助は、要介護者の身体に直接触れるような介護業務のことを指します。主なものに食事介助、入浴介助、排泄介助、移乗介助、体位変換、口腔ケア、清拭ケア、外出の付き添いなどがあり、無資格の職員でもおこなうことができます。
特養は中重度以上の入所者の割合が大きいため、身体介助をするうえで体力が必要となる場面が比較的多いようです。
特養では理学療法士や作業療法士といったリハビリ職員の配置が必須ではないため、介護職員や看護職員がリハビリの指導もおこないます。また、看護職員を中心に看取りにも対応することがあります。
そのほか、入所者が楽しめるレクリエーションやイベントの企画・実施、介護記録の入力などの事務作業もおこないます。
ユニット型と従来型による違い
ユニット型と従来型の居室タイプに応じても、職員の働き方は異なります。
ユニット型では、ユニットごとに担当リーダーとスタッフを決めるため、入所者と近い距離で長期的に関わることになります。少人数で個別ケアがしやすいので、入所者一人ひとりに向き合った介護をしたい人にとっては、やりがいを感じられるでしょう。
一方の従来型は集団ケアと呼ばれ、ユニット型のように専任スタッフは決めずに職員全体で業務をおこないます。シフトの調整がしやすいほか、業務内容がルーティン化されていることも多いため、仕事を覚えやすいメリットがあります。
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7.特別養護老人ホーム(特養)の平均給与
ジョブメドレーに掲載されている求人(2025年5月時点)をもとに、特養の給料を算出しました。なお、各種手当や残業代などは含みません。実際の賃金はこれより高くなる可能性があります。
平均時給 |
平均月収 |
平均年収 |
|
---|---|---|---|
看護師/准看護師 |
1,546円 |
26万3,744円 |
369万2,416円 |
介護職/ヘルパー |
1,200円 |
23万791円 |
323万1,074円 |
生活相談員 |
– |
25万678円 |
350万9,492円 |
介護支援専門員 |
1,379円 |
25万9,771円 |
363万6,794円 |
管理栄養士/栄養士 |
1,266円 |
23万2,392円 |
325万3,488円 |
調理師/調理スタッフ |
1,136円 |
23万3,026円 |
326万2,364円 |
*年収は「月収の総平均 × 14ヶ月(ボーナスは月給の2ヶ月分)」で試算
*求人数30以上の賃金データ
8.希望に合う特養を見つけましょう
ひとくちに特養といっても、地域の医療福祉体制の変化や制度の見直しにより、広域型や地域密着型、ユニット型や従来型などのさまざまな種類に細分化されていることがわかりました。その特養のタイプによって介護のスタイルや職員同士の関わり方も異なります。
ジョブメドレーでは、全国各地の特養の求人を扱っています。給与や勤務日数などの希望条件で絞り込み検索もできるので、お近くの地域で探してみてください。
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参考文献
- 厚生労働省|介護給付費等実態統計
- 厚生労働省|介護老人福祉施設
- 公益社団法人日本看護協会|介護施設等における看護職員に求められる役割とその体制のあり方に関する調査研究事業報告書