1.就労移行支援とは
障がいを持つ人の一般就労を支援する
就労移行支援とは、一般企業等への就労を目指す障がいを持つ人に対し、そのために必要な支援をおこなう障害福祉サービスです。障害者総合支援法によって定められています。
具体的には、就労に必要な知識や能力の向上に必要な訓練、生産活動や職場体験などの機会の提供、求職活動に関する支援、障がいの適性に応じた職場の開拓、就職後の職場定着のために必要な相談などをおこないます。
サービスの提供期間は原則2年間です。サービスを利用できるのは原則65歳未満ですが、2018年度より65歳以上の方でも一定の要件を満たせば利用できるようになりました。
障害者手帳がない場合でも、支援が必要なことが証明できる書類(障害福祉サービス受給者証や医師の診断書など)があれば利用することができます。また病気や障がいにより外出が困難な場合は、就労支援員などによる利用者宅への訪問やオンラインでのやり取りにより、在宅での支援を受けることも可能です。
就労移行支援が利用できる人
- 一般企業等への就労見込みがあり、またそれを希望する人
- 原則18歳〜64歳まで*
- 対象となる障がい:身体障害、知的障害、精神障害(統合失調症、うつ病、双極性障害、適応障害、てんかん、依存症など)、発達障害(注意欠如・多動性障害、学習障害、アスペルガー症候群、自閉症など)、難病 など
*65歳に達する前5年間に障害福祉サービスの支給決定を受けていた者で、65歳に達する前日において就労移行支援の支給決定を受けていた場合は引き続き利用が可能
就労移行支援の利用者数・施設数
就労移行支援事業所は自治体から指定を受けた民間企業や社会福祉法人、NPO法人などによって運営されています。
2021年1月時点の利用者数は約3万5,000人、全国で約3,000施設が設置されています(出典:厚生労働省)。

一般就労への移行者数・移行率
就労移行支援の施設数が2015年以降横ばいで推移している一方で、サービスを利用して一般就労*できた人の数は右肩上がりで増加しています。2018年にはサービスを利用した人の半数以上が一般企業等に就職することができました。

2.就労移行支援とほかの就労支援サービスとの違い
就労継続支援(A型・B型)と就労移行支援の違い
就労継続支援とは、一般企業等で働くことが難しい障がい者に対し、職業訓練や生産活動を支援するサービスです。A型とB型があり、それぞれ次のような特色があります。
就労移行支援 |
就労継続支援A型 |
就労継続支援B型 |
|
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対象者 |
一般企業等での就労見込みがある人 |
一般企業等での就労が難しい人 |
|
主な目的 |
一般企業等への就労支援 |
働く機会の提供 |
|
対象年齢 |
原則18〜64歳 |
制限なし |
|
雇用契約 |
– |
結ぶ |
結ばない |
報酬の形態 |
– |
給与(最低賃金以上) |
工賃(最低賃金に満たない場合もある) |
就労継続支援について詳しくはこちらの記事でも解説しています。
>就労継続支援A型・B型とは?
就労定着支援と就労移行支援の違い
就労移行支援などを通じて一般就労する人が増える一方で、就職後数ヶ月以内で早期離職してしまう人の多さが問題となりました。そこで職場への定着支援に特化したサービスとして2018年に新設されたのが就労定着支援です。
就労定着支援を利用できるのは、就労移行支援、就労継続支援、自立訓練、生活介護のいずれかのサービス利用後に一般就労した人です。入職の6ヶ月後から利用することができ、最長で3年間支援を受けることができます。
就労定着支援支援について詳しくはこちらでも解説しています。
>就労定着支援とは?
3.就労移行支援の流れ
就労移行支援の流れを、具体的な支援内容を交えて紹介します。

(1)就労相談
まず最初に、障がいを持つ本人やその家族から就労に関する相談が寄せられます。就労移行支援事業所に直接相談が来るケースもありますが、主に相談の初期対応窓口となるのはハローワークや相談支援事業所、障害者就業・生活支援センター、発達障害者支援センターなどが一般的です。ここで利用者の状況や希望を聞き取り、就労移行支援によるサポートが妥当だと判断されると次のステップにつながります。
(2)就労移行支援
就労移行支援では、まず「個別支援計画」を作成します。個別支援計画とは、利用者や家族との面談を通じ、利用者の希望や就労意欲、障がいの程度、生活状況などを聞き取り、今後の支援方針を定めた計画書を指します。就労移行支援では個別支援計画をもとに支援が提供され、その後は定期的な評価と見直しをおこない支援計画を更新していきます。
就労移行支援のプログラムが始まると、利用者の状況や支援の段階に応じてさまざまな内容が実施されます。通所初期では利用者の適性や課題の把握、体力・集中力・持続力など働くために必要な土台づくりをおこない、通所中期では身だしなみやマナーの習得、職場見学や実習への参加などをおこないます。そして通所後期には求職活動を開始し、就職先とのマッチングやトライアル雇用を実施します。
(3)定着支援
無事就業が決まってから6ヶ月間は、利用者が長く働き続けられるようにアフターフォローをおこないます。6ヶ月経過後は基本的に就労定着支援がその役割を引き継ぎますが、なかには任意でフォローを継続する就労移行支援事業所もあります。
4.就労移行支援で働く
就労移行支援の人員配置
就労移行支援に必要な職種と人数は、障害者総合支援法により次のように定められています。
就労移行支援の人員配置
- 管理者…1人
- サービス管理責任者…1人以上(利用者61人以上の場合は40人あたり1人以上)
- 職業指導員・生活支援員…利用者6人あたり1人以上
- 就労支援員…利用者15人あたり1人以上
*常勤換算の場合
サービス管理責任者の要件・仕事内容・給料
就労移行支援でおこなうサービスの大元となる「個別支援計画」を作成し、サービスが適切に提供されるようマネジメントするのがサービス管理責任者の主な役割です。
〈必要な資格〉
所定の実務経験と研修の修了(自治体により異なる)
〈仕事内容〉
見学対応/利用者との面談・アセスメント/個別支援計画書の作成・評価・更新/関係各所との連絡・調整/職員の教育・指導/サービス全体のマネジメント など
〈平均年収*〉
常勤:413万1,701円
非常勤:150万円
*出典:厚生労働省「平成29年障害福祉サービス等経営実態調査結果」
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職業指導員の要件・仕事内容・給料
利用者が就労するのに必要な知識や技術を習得できるよう、スキル面に特化して指導するのが職業指導員の主な役割です。
〈必要な資格〉
とくになし
*パソコン操作が可能な方、社会人経験のある方などの条件がある場合も
〈仕事内容〉
利用者との面談/訓練プログラムの企画・実施指導・記録/就業先との連絡・調整 など
〈平均年収*〉
常勤:314万6,006円
非常勤:184万8,737円
*出典:厚生労働省「平成29年障害福祉サービス等経営実態調査結果」
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生活支援員の要件・仕事内容・給料
主に利用者を生活面からサポートするのが生活支援員の役割です。
〈必要な資格〉
とくになし
*普通自動車運転免許、社会人経験のある方などの条件がある場合も
*介護事業所や障害福祉事業所での実務経験や関連資格が歓迎されることもある
〈仕事内容〉
生活習慣を整える訓練・アドバイス/利用者の健康管理/就労に向けた不安や悩みの相談/ビジネスマナーの指導/支援記録の作成・管理 など
〈平均年収*〉
常勤:303万2,796円
非常勤:204万4,353円
*出典:厚生労働省「平成29年障害福祉サービス等経営実態調査結果」
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就労支援員の要件・仕事内容・給料
就労支援員は就労全般に関して幅広くサポートをおこないます。
〈必要な資格〉
とくになし
*パソコン操作が可能な方、社会人経験のある方などの条件がある場合も
〈仕事内容〉
利用者との面談/実習先や就業先の開拓/ハローワークや就業先など関係各所との連絡・調整/応募書類の添削/面接対策の指導や面接同行/就職後の定着支援を目的とした職場訪問・相談/支援記録の作成・管理 など
〈平均年収*〉
常勤:333万6,832円
非常勤: 210万9,184円
*出典:厚生労働省「平成29年障害福祉サービス等経営実態調査結果」

なお、職業指導員、生活支援員、就労支援員の3職種は厳密な棲み分けがされていないことも多く、事業所によっては兼任しているケースや、名称は異なっても業務内容が似ているケースも多いため、仕事を探す際には業務内容をよく確認するようにしましょう。
5.今後の発展が期待される就労移行支援の仕事
障がいを持つ人自身の就労意欲の高まりや、障害者雇用促進法による法定雇用率の段階的な引き上げ、法定雇用の対象となる障がいの拡大などにより、障がいを持つ人の就労機会は着実に改善しています。とくに就労支援サービスの中で見ても、就労移行支援から一般就労を果たす人の割合は増えており、ますますの伸長が期待される領域です。
これまで会社に出勤して働くことが当たり前だった時代から、昨今ではリモートワークや複業などさまざまなスタイルで働く人が増えてきました。障がい者雇用においても個々人の適性に合った働き方を模索し、長く安心して働くことのできる環境整備がますます進められていくでしょう。就労という明確なゴールを目標に「障がいを持つ人のサポートをしたい」という思いのある方は、ぜひ就労移行支援の仕事を検討してみてはいかがでしょうか。
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参考
- e-Gov法令検索|障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業の設備及び運営に関する基準
- 鈴木裕介、遠山真世(著)、二本柳覚(編著)『これならわかる〈スッキリ図解〉障害者総合支援法 第2版』翔泳社、2018