目次
1.老老介護・認認介護とは
老老介護:高齢者が高齢者を介護すること
老老介護(ろうろうかいご)とは介護者(介護をする人)と被介護者(介護をされる人)、両者の年齢が65歳以上の状態です。関係性は夫婦に限らず親子、兄弟姉妹などの場合もあります。さらに、両者が75歳以上の状態を「超老老介護」と呼びます。
老老介護の現状
厚生労働省の調査によると、2019年時点で在宅介護をする世帯のおよそ59.7%が介護者と被介護者ともに65歳以上の組み合わせであることがわかりました。75歳以上同士の組み合わせも年々増加傾向にあります。

総務省の統計によると、2022年9月時点で日本の総人口の29.1%、約3人に1人が高齢者という結果が出ています。高齢者人口の割合は1950年(4.9%)以降一貫して上昇が続いており、今後も増加する見込みです。
認認介護:認知症患者が認知症患者を介護すること
認認介護(にんにんかいご)は、認知症患者が同じく認知症患者の家族を介護している状況を指します。
2014年に発表された「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」によると、2025年には約700万人、高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています。老老介護の過程で認知症を発症し、いつの間にか認認介護になっているケースも見られます。
2.老老介護・認認介護の原因と問題点
平均寿命と健康寿命の延伸
平均寿命とは「0歳における平均余命」のことをいいます。つまり、0歳児が何年生きるかという平均年数です。一方、健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことです。
2022年に内閣府が公表した「令和4年版高齢社会白書」によれば、2019年の男性の平均寿命は81.41年、健康寿命は72.68年。女性の平均寿命は87.45年、健康寿命は75.38年という結果が出ています。


平均寿命と健康寿命の差は短ければ短いほどQOLを保ちながら日常生活を送ることができます。しかし、2019年時点で男性であれば8.73年、女性は12.07年の間、自立した生活が困難であったり、介護などの支援を必要としながら生活していることがわかります。
健康寿命が短いということは長生きしても医療費がかかったり、要介護期間が長期化したりすることを意味します。介護を必要としながら年齢を重ねていくうちに、老老介護や認認介護へと発展するケースがあります。
家族構造の変化
老老介護や認認介護の一因は家族構成の変化です。都市部への人口集中や少子高齢化が進み、未婚の子どもとその親からなる「核家族」が増えました。これにより、介護の負担は配偶者や子どもに集中しやすくなります。
また、高齢者のふたり暮らし世帯の増加も要因の一つです。2021年に厚生労働省が発表した「2021年 国民生活基礎調査の概況」によると、65歳以上の人がいる2,580万9,000世帯(全世帯の49.7%)のうち、「夫婦のみの世帯」が825万1,000世帯(65歳以上の人がいる世帯の32.0%)ともっとも多いことがわかりました。
高齢者がふたりきりで暮らしている場合、自身も周囲の人も認知症の発症に気づかず、老老介護から認認介護へと発展してしまうケースもあります。
介護人材の不足と介護難民
介護や支援を必要とする高齢者が増える一方、介護職員の確保が追いついていないという問題が顕在化しています。介護労働安定センターが2021年度に実施した「介護労働実態調査」を見ると、介護事業所全体の人材不足感の質問では「従業員が不足している」と回答した事業所が全体の60%以上を占めました。
このような人材確保の問題だけでなく、経済的な理由で介護サービスを受けることができない家庭があるなど、さまざまな要因が複合的に作用することで老老介護、認認介護は増え続けています。
3.家族(子ども)にできる予防策
在宅介護には少なからずリスクがともないます。社会的なつながりが減ること、精神的な疲労やストレス、介護放棄、虐待、火の不始末による火災のリスクなど事件や事故に発展するおそれもあります。

大切なのは、介護が必要になる前に夫婦や親子間でコミュニケーションを取っておくことです。もしも介護が必要になったらどうしていくのか、普段の会話で話し合っておく必要があります。
また、地域のコミュニティに参加することも有効です。些細なことでも相談できる相手が見つかるかもしれませんし、その相手がちょっとした変化に気づいてくれるかもしれません。さらに、バランスの取れた食事や近所への散歩など、日常生活の中で健康を維持する努力も重要です。
もしも遠方に住む親が介護予備軍なのであれば、会う回数を増やしたり、メールや電話などの頻度を増やすなどして言動の変化に注意を払いましょう。
すべてを一度に実施する必要はありません。できることから始めてみてはいかがでしょうか。
4.具体的な解決策
老老介護や認認介護におちいった場合、介護者がひとりで介護を担うのは無理があります。そこで有効なのは第三者の手を借りることです。ここでは3つの方法を紹介します。
地域包括支援センターへの相談
効果的な解決策として、地域包括支援センターへの相談が挙げられます。介護予防からケアマネジメントまで包括的かつ総合的な支援を担う施設で、全国の市区町村に設置されています。
地域包括支援センターには保健師、社会福祉士、ケアマネジャーといった専門職が配置されており、相談に対して具体的なアドバイスを提供してくれます。「近いうち高齢者同士の介護になる可能性がある」「親の認知症が心配」など、介護が必要になる前の段階からの相談も可能です。さらに、必要に応じて各行政機関への橋渡しもおこなってくれます。
地域によっては高齢者支援センターや高齢者相談センターなどと呼ばれていることもありますので、「お住まいの市区町村名 地域包括支援センター」と検索してみてください。
>地域包括支援センターとは
介護サービスの利用
介護が必要になった場合、介護サービスを利用することで心身の負担を軽減できます。介護サービスには「介護保険サービス」と「介護保険外サービス」の2つがあります。
〈介護保険サービス〉
65歳以上の高齢者で要支援もしくは要介護認定を受けた人が、課税所得に応じた1〜3割の自己負担額で利用できるサービスです。例えば以下が挙げられます。
自宅で利用するサービス
自宅から施設へ通うサービス
施設に入所するサービス
介護保険サービスを利用する際は、お住まいの市区町村の介護保険窓口か地域包括支援センターに相談し、必要な申請をおこないましょう。
なるほどジョブメドレーでは介護保険に関する基礎知識を紹介しています。
>【介護保険の基礎知識】これだけは覚えておきたい基本をわかりやすく図解!
また、厚生労働省「介護事業所・生活関連情報」のページには介護保険法に基づく26種類54サービスの事業所・施設が公表されています。こちらも合わせてご確認ください。
〈介護保険外サービス〉
介護保険サービスでは利用できない部分を、原則自己負担で補うサービスです。市区町村が独自で実施する非営利目的サービスから、民間企業のサービスまでさまざまな種類があり、運営者によって利用方法や費用が異なります。
厚生労働省、農林水産省、経済産業省が作成した「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集」には、介護保険外サービスで受けられる具体的な例が掲載されています。こちらを参考にしながら、地域包括支援センターに相談するのもよいでしょう。
成年後見人制度の利用
認知症などにより判断力が低下した場合、信用できる人に財産管理などを任せることができる制度です。銀行や役所の手続きを代わりにおこなったり、誤って契約をした場合に取り消したりすることができます。
成年後見人は家庭裁判所が選任する親族、弁護士や司法書士など法律の専門家、社会福祉士などの福祉の専門家がなるのが一般的です。利用するには、お住まいの市町村の地域包括支援センター、または社会福祉協議会に相談してください。
>成年後見人制度とは
5.備えておくに越したことはない
介護はいつ・どのようなタイミングで訪れるのか予測がつかないことがほとんどです。「介護の話はまだ早い」「親に話しづらい」という人もいるでしょう。しかし、事前に話し合いや対策をしておくことで将来的な負担を軽減できるかもしれません。
また、老老介護や認認介護になったとしても決して思いつめず、まずは地域包括支援センターに相談してみてください。救いの手を差し伸べてもらえるはずです。