目次
1.児童虐待防止法とは?
児童虐待を禁じ権利を守るための法律
正式名称を「児童虐待の防止等に関する法律(以下、児童虐待防止法)」といい、2000年に施行された法律です。18歳以下の児童の面倒をみる大人からの虐待を禁止し、児童の人権を守るために作られました。
児童の福祉を守る法律に「児童福祉法」もありますが、虐待にあたる内容や発見時の通告義務が周知されておらず、児童虐待を防ぐ機能を十分に果たしていないのが実情でした。
国際的な児童福祉への関心の高まりから、1989年に国連総会で「子どもの権利条約」が採択され、日本は1994年に批准しました。そのため国内の法整備が必要になったことや、児童虐待の認知の高まりから相談件数が増加し、報道でも大きく取り上げられ社会問題化しました。このような背景から、児童虐待防止法は制定されました。
これまでの主な改正点
児童虐待防止法が成立してからも虐待の件数は増加傾向にあり、2021年度の相談件数は約20万8,000件に上り過去最多となっています。増え続ける虐待を減らすために、過去4回にわたる改正がおこなわれています。

2.児童虐待防止法の主な内容
虐待の防止
虐待には暴力以外にも言葉や扱いによる差別なども含まれ、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待があります。法律では、保護者だけでなくいかなる人でも児童に対して虐待することを禁止しています。

国や地方自治体の責務
国や地方自治体は、児童虐待を早期に発見・予防するため以下のような支援や研修の整備に努めなければなりません。

通告義務と早期発見への努力義務
児童虐待を発見した場合、自治体に設置されている福祉事務所もしくは児童相談所に通告する義務があります。これは、児童虐待防止法第6条に定められているすべての国民に課された義務です。
また、学校や病院など児童福祉に関わる場所に勤務している人は、児童と身近に接する立場にあることから発見・防止が期待されています。学校や児童福祉施設では、児童や保護者に対して児童虐待を防止するための教育や啓発も求められています。
どのような職場や職種があるのか、次章で詳しく見ていきましょう。
3.医療・福祉従事者の責務と対応フロー
虐待の早期発見が期待される施設や職種の例
児童虐待があっても、洋服で隠れて傷や打撲のあとが見えない、地域との交流が少なく児童の様子がわからないなど発見が難しいケースもあります。社会全体で予防・発見する必要がありますが、とくに学校や病院など児童と密接に関わる施設では虐待のサインを発見しやすい立場にあります。
例として次のような施設や職種があります。
児童相談所
18歳未満の児童に関する相談や通告に応じる専門機関です。児童福祉司・児童心理司・医師・保健師などの専門職が在籍し、児童虐待のほか経済的な困窮や発達の悩み、児童の非行、里親希望の相談などに応じています。
児童虐待に関する相談や通告を受け、家庭状況の把握や対応方針の検討、一時保護の実施や児童福祉施設への入所措置に必要な援助をおこないます。
また、2024年から制度開始が予定されているこども家庭ソーシャルワーカーは、子ども家庭福祉分野に特化した資格として、虐待や保護者自身の問題に対処する役割が期待されています。
児童相談所虐待対応ダイヤル「189」とは
保護者自らの子育てに関する相談や、地域の児童に虐待被害の可能性がある場合など虐待に関する相談を「189(いちはやく)番」へ電話することで、近隣の児童相談所につながります。
保育所や幼稚園、学校等
保育所や幼稚園、学校は児童が日中保護者の元を離れて生活する場です。保育士や幼稚園教諭は、なかなか自分から言葉でSOSを伝えられない年齢を対象としています。小中学校に入っても自ら虐待を訴える児童はほとんどいないため、心身の発達状態と合わせて注意深く観察する必要があります。
学校以外でも放課後児童クラブで働く放課後児童支援員や、スクールカウンセラーとして教育現場で働く臨床心理士/公認心理師にも、虐待被害の状況把握や支援が求められています。
医療機関
児童虐待防止法第5条の定めにより病院や医師に児童虐待の早期発見への努力義務が課せられました。医師以外にも、看護師や保健師、医療ソーシャルワーカーなど児童に接する機会がある職種にも児童相談所や自治体との連携が求められます。病院内に院内虐待対策委員会(CAPS:Child Abuse Prevention System)を設置し、組織として対応している医療機関もあります。
また、保育所や幼稚園、学校へ健診の機会がある歯科分野においても、虫歯が極端に多くないか、治療されずに放置されていないかなど虐待が疑わしい児童がいれば、児童委員を介して市町村や福祉事務所などに通告する義務があります。
保健所
医療機関や保健センターなどと連携して住民に必要なサービスを提供する機関です。各地域に設置され、医師や保健師、精神保健福祉士、管理栄養士などが働いています。産後の訪問指導や乳幼児健診などの母子保健活動を実施していることから、虐待の早期発見と防止につながる支援が求められています。
虐待の所見と通告フロー
所見やチェックポイント
児童虐待による負傷の場合、転倒などの通常のけがとは異なる特徴がみられることがあります。


該当するからといって必ずしも虐待の事実があるわけではありません。しかし、日々の業務において気になる外傷や様子が見られれば注意深く経過を観察し、必要があれば児童相談所や自治体に相談してみましょう。
見た目で判断できなくても、親子の態度や話す内容も判断材料となります。

通告フロー
職場において児童虐待(の疑い)を発見した場合は、次のようなフローで通告・通報します。

保育所や幼稚園、学校、医療機関などには守秘義務がありますが、虐待の発見においては通告が優先されるので、守秘義務違反を心配する必要はありません。
4.児童虐待の早期発見と防止を
児童相談所が対応した虐待相談件数は2011年度では5万9,919件でしたが、2021年度には約3.5倍の20万7,659件に増加しています。この背景には児童虐待に関する情報や通告窓口の存在が普及したことなども考えられますが、虐待の母数そのものが増えている可能性もあります。虐待をなくすために、子育て世帯への各種支援の拡充や関係機関の連携が必要です。
児童虐待には、身体的な苦痛以外にも言葉の暴力やネグレクトなど精神的な苦痛も含まれます。たとえ親がしつけだと考えていても、児童が健康に育ち安全な環境を脅かす行為は禁止されています。近隣住民や児童と接する機会のある福祉施設、医療機関など社会全体で児童虐待を予防し家庭を支えていくことが大切です。
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参考
- 厚生労働省|児童虐待防止対策
- 厚生労働省|子ども虐待対応の手引き
- 厚生労働省|令和3年度児童虐待相談対応件数
- e-Gov|児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)
- 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク|子どもの虐待について