目次
1.児童発達支援とは
児童発達支援とは、小学校に入学する前の障がい児を対象に、心と身体の発達を促すためのサポートをするサービスです。トイレや歯磨きなど日常生活に必要なスキルを身につける練習や、遊びやレクリエーションをとおして集団生活になじむための支援・訓練を実施します。また、一時的に子どもを預かることで家族に息抜きの時間を与えるレスパイトケアや、身近な相談機関としての役割も果たしています。
かつては障害の種類別に施設が分かれていましたが、さまざまな障害に対応できる体制づくりを目指して、2012年に児童福祉法が改正されました。これにより障がい児施設は「障害児入所支援」と、児童発達支援を含む「障害児通所支援」に集約されました。

法改正によって、障害児通所支援サービスの実施主体が市区町村になったことで、住み慣れた地域で居宅サービスと通所サービスを受けることが可能になりました。
施設数

児童発達支援を提供する施設には、市区町村などが運営する公営と、民間企業や社会福祉法人などが運営する私営の2種類があります。過去10年の施設数の推移からは、私営が年々増加しているのに対し、公営は2020年をピークに減少に転じているのが特徴です。2023年時点の施設総数は、2014年と比べて約4倍の1万3,412ヶ所に増加しており、ニーズの多さがわかります。
対象者
児童発達支援を利用するのは、集団または個別療育をおこなう必要性を認められた、就学前の障がい児です。通所する際に、医学的な診断名や障害者手帳がなくても利用できます。
放課後等デイサービスとの違い
障がいのある子ども向けに発達支援をおこなう施設には、放課後等デイサービスもあります。両者の主な違いは、対象となる子どもの年齢とサービスを提供する時間帯です。
児童発達支援 |
放課後等デイサービス |
|
---|---|---|
対象年齢 |
0〜6歳 |
6〜18歳 ※特例により20歳までの利用も可 |
就学状況 |
未就学(保育園や幼稚園など) |
就学(小学校・中学校・高校) |
利用する時間帯 |
10時〜13時など平日の日中 |
学校終了後の14時ころ〜17時ころまで |
かつてこれらは「児童デイサービス」という名称で、未就学児も就学児もともに通所するサービスでしたが、2012年の児童福祉法改正によって、就学前後で区分けされました。
放課後等デイサービスについて詳しくはこちら
>放課後等デイサービス(放デイ)とは? 利用条件や仕事内容、必要な資格、給料などを徹底解説
2.児童発達支援事業所と児童発達センターの違い
児童発達支援は「児童発達支援事業所」と「児童発達支援センター」の2つで提供され、どちらも子どもの成長をサポートする点は共通しています。主な違いは、地域支援と医療機能の有無です。
児童発達支援事業所が身近な療育の場として機能するのに対し、児童発達支援センターは、より幅広い関係機関との連携や医療提供もおこなう地域の中心的な施設です。

児童発達支援事業所
児童発達支援事業所は、障がいのある子どもの発達上の課題解決と家族支援を主な目的としています。療育を受けられる場として通所しやすいよう、中学校区に1ヶ所以上と数多く設置されています。
児童発達支援センター
児童発達センターは、児童発達支援事業所が提供するサービスに加え、地域にいる障がい児やその家族への支援、障がい児を預かる保育所・幼稚園との連携を目的としています。厚生労働省の調査によると、児童発達支援センターは全体の約9%と少ないのが特徴です(2021年時点)。
児童発達支援センターのなかでも、「医療型」と「福祉型」に分けられます。医療型は肢体不自由児を対象としており、発達支援に加えて治療もおこないます。福祉型は肢体不自由以外の障がい児に対し、支援サービスを提供します。
3.児童発達支援で提供するサービス内容
児童発達支援で提供するサービス内容とその方法については、厚生労働省が「児童発達支援ガイドライン」にまとめています。主な内容は以下のとおりです。
支援の実施
支援にあたり、まずは子どもの家庭や保育園・幼稚園での様子を把握するアセスメント(現状の把握と課題分析)を実施します。アセスメントでは、「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」の5領域から子どもの状態を確認します。
こうした情報をもとに、一人ひとりに合わせた「児童発達支援計画」を立て、これに沿って支援をおこないます。
支援の方法には、マンツーマンでおこなう個別療育と、ほかの子どもと関わりながら進める集団療育があります。
具体的な支援内容
- トイレや着替えなど日常生活の動作指導
- 集団生活での適応支援
- 社会的に自立するための訓練 など
支援を実施する際には、子どもが自発的・意欲的に取り組めるような環境づくりや、周囲の子どもや職員との関わりを深められるよう「遊び」を提供することも大切です。
家族支援
子どもは保護者や家庭から大きな影響を受けるため、成長と発達の基盤となる親子関係や家庭生活へのサポートも大切です。具体的には次のような支援内容があります。
- 相談対応や食事など具体的な介助方法についての提案
- 保護者同士の交流機会の提供
- 発達や特性の理解に向けた講座の実施
地域支援
児童発達支援センターでは、子どもや家庭を中心に据えた包括的な支援を提供するために、保健・医療・福祉・教育・就労などの関係機関や障害福祉サービス事業所との連携をおこないます。これらの機関と協力し合い、実施する支援内容には以下が挙げられます。
- 子どもが通う予定の学校・学童との情報交換
- 支援方法、環境調整についての相談対応・助言
- 児童発達支援計画の作成または見直しに関する会議の開催
移行支援
通所期間中だけでなく、退所後も見据えた移行支援もあります。児童発達支援を終了し、保育園や幼稚園、小学校に移行する際に必要な支援としては、次のような内容が挙げられます。
- 移行先の機関との連携
- 退所後の居宅訪問
- 移行後の施設(保育園や小学校など)の訪問
4.児童発達支援で働く
ここからは、児童発達支援で求められる人員配置と、必要な資格、仕事内容について紹介します。
人員配置と必要な資格
児童発達支援事業所 |
児童発達支援センター |
|
---|---|---|
管理者 |
1人 |
|
嘱託医 |
1人以上 ※主に重症心身障がい児を対象とする場合 |
1人以上 |
児童発達支援管理責任者 |
1人以上 |
|
児童指導員または保育士 |
定員10人まで:2人以上 定員11人〜15人:3人以上 定員16人〜20人:4人以上 ※定員が5人増えるごとに1人を加えた数以上必要 ※児童指導員または保育士のうち1人は常勤 |
【児童指導員と保育士の総数】 子ども4人につき1人以上 【保育士】 1人以上 |
機能訓練担当職員 |
適当数 |
|
看護師 |
医療的ケアをおこなう場合のみ適当数配置 ※保健師・助産師・准看護師でも可 ※訪問看護と連携している場合は配置不要 |
|
栄養士または管理栄養士 |
規定なし |
1人以上 ※定員40人以下の場合は配置不要 |
調理員 |
規定なし |
1人以上 ※全部委託する場合は配置不要 |
管理者
労務管理や収支管理、見学者の対応、契約業務など、組織運営全般を担う役割です。常勤で1名の配置が必要です。管理者になるための要件は設けられていません。
嘱託医
事業所では主に重症心身障がい児を対象とする場合に、支援センターでは必ず配置が必要です。必要に応じて診療をおこない、嘱託医になるためには、精神科、眼科、耳鼻咽喉科での経験が求められます。
児童発達支援管理責任者
個別支援計画を作成し、提供サービスを管理する専門職です。常勤で1名以上の配置が必要ですが、業務に支障がない場合は管理者との兼務も可能です。5年以上の実務経験と、基礎研修と実践研修を修了することでなれます。
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児童指導員または保育士
子どもの心身をケアしながら生活全般をフォローし、個別支援計画に基づいて療育を実施します。また、保護者からの相談(家族支援)や関係機関と連携(移行支援)などの役割を担います。
児童指導員になるには、社会福祉士または精神福祉士の資格を保有、大学などで専門過程を修了、教員免許を保有、児童福祉施設での2年以上の実務経験のいずれかが必要です。保育士になるには、保育士国家試験に合格する必要があります。
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機能訓練担当職員
言語機能を改善する言語聴覚士(ST)、生活や遊びをとおして運動機能の向上を目指す理学療法士(PT)、日々の生活動作やリハビリによって日常生活をサポートする作業療法士(OT)、心理学を用いて障がいを持つ子どもと家族をサポートする心理指導担当職員などの専門職が配置されます。
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看護師
医療的ケア(経管栄養や胃ろう、吸引など)に加え、日常の健康管理や精神面・衛生面の管理などをおこないます。看護師国家試験の合格が必要です。
栄養士または管理栄養士
献立の作成・発注が主な業務内容です。施設によっては食育イベントの企画や運営をおこなう場合もあります。栄養士になるには、2〜4年制の栄養士養成施設で必修科目を履修し、都道府県知事から免許を受ける必要があります。また、国家試験に受かることで管理栄養士の資格が得られます。
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調理員
栄養士が作成した献立を基に調理、配膳、片付けをおこないます。調理員になるには、調理師学校を卒業するか、飲食店などで2年以上実務経験を積み、調理師試験に合格する方法があります。
一日の仕事内容

児童発達支援で働く児童発達支援管理責任者と看護師の一日は、以下の動画でも紹介しています。施設がおこなう療育によっても特徴が異なりますので、参考にしてみてください。
“正解のない支援”に向き合う─重心型放デイで働く「児童発達支援管理責任者(児発管)」に一日密着より引用
児童発達支援管理責任者に必要なOJTとは? トレーナーと研修中の人に聞いた、学んだこと・伝えたいことより引用
児童発達支援施設で働く看護師の一日に密着! 20年越しに叶えた仕事の魅力とはより引用
5.児童発達支援を利用する

児童発達支援を利用するために、医学的な診断名や障害者手帳は必要ありません。自治体が発行する「障害児通所受給者証」が交付されることで、利用できます。
受給者証を申請すると、自治体の調査員が子どもの心身の状況や生活環境などの聞き取り調査を実施します。サービスの利用には上限があり、受給者証の発行時に1ヶ月の上限日数も決定されます。発行にかかる期間は、数週間〜数ヶ月と自治体によってばらつきがあるため、計画的に準備するのがおすすめです。
利用費用
受給者証を取得することで、障害児通所給付の対象となり、1割程度の負担になります。また、利用にかかる費用は所得ごとに異なり、以下のように定められています。
区分 |
世帯の収入状況 |
負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 |
生活保護受給世帯 |
0円 |
低所得 |
住民税非課税世帯 |
0円 |
一般1 |
住民税課税世帯 (年収がおおむね920万円以下) |
4,600円 |
一般2 |
上記以外 |
3万7,200円 |
6.子どもたちの成長がやりがい
児童発達支援は、障がいのある未就学児を対象に、心身の発育を促すための支援を提供する障害福祉サービスです。2012年の児童福祉法改正により、従来は障がいごとに分られていたサービスが一元化されました。その後、児童発達支援サービスを提供する事業者数は右肩上がりとなっています。
児童発達支援では、さまざまな障がいのある子どもを対象とするため、幅広い知識と判断力が必要です。一人ひとりの課題を見極めながら、必要な支援を提供する大変さもありますが、かかわりのなかで「発語が増える」「コミュニケーションが取れるようになる」などの成長が見えたとき、やりがいを感じられる仕事です。
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参考
- 厚生労働省|児童発達支援ガイドライン